第7話 準備


『もう生きててもどうにもならない。生きてる意味なんてないんだ。』


 そう思ってもう何日も経った。この数日結局何もしないまま一日一日をすごした。

 学校にも行かなかったしほとんどご飯も食べなかった。部屋の外に出たのもトイレくらい。進展なんてない。

 親にも色々言われ、クラスからも連絡が来た。

 放っておいて欲しかった。


『わかる』


 なんて簡単に言われたくなかった。


『死にたい』


 いつしかそんな気持ちが芽生え始めた。

 最初のうちは家出しよう、とかいつしか見た家出してお姉さんに拾われたとかそんな展開を夢見ていた。

 けれどそんなことは無くて、そもそも家出して誰かが悲しむことなんてないんだ、きっと誰にも必要とされてないんだ。

 そう思った途端死にたいとかいなくなりたい、とか生きてるのが辛い、とかそんな考えの堂々巡りだった。


 ふと思ったのだ。

 なにか面白いことをして騒がせてから死のう。

 よくアニメとかドラマであるような暗号を残して誰かが見つけてくれるんじゃないか、そうしたらなにか変わるんじゃないか、と。


 鉄は熱いうちに打て、だの思い立ったが吉日、だの昔の人はよくもまぁいい言葉を思いつくものだ。

 暗号の作り方なんて全くだ。

 頭文字を縦読みするとかしか思い浮かばない。

 大々的に公園にとかそんなことはできるわけが無い。

 最低でもなにか置き手紙と遺書でも書こう。そう思った。

 無難に

『家出します。探さないでください。』

『先立つ不幸をお許しください。』

しか書くことが思い浮かばない。

 もしかしたらもっとなにか書けばいいのかもしれない。

 もしかしたら彼女、否、元カノの恨みつらみでも書くのが正解なのかもしれない。

 けれどどれもあってる気がするしどれも間違っている気がする。

 そもそも自分が死んで悲しむ人なんかいないって結論にたどり着きかけているのになんで『先立つ不幸をお許しください』なんだ。

 いっその事『どう?死んで嬉しい?彼氏さんと仲良くね~(笑)』くらい書いた方がいいのかもしれない。

 思いついた言葉を片っ端から書くもののどうもしっくりくるものが無い。

 先立つ不幸をお許しください、は不幸じゃない気がするし、どう?死んで嬉しい?はなんか負けたやつの煽りみたいでなんか嫌だ。

 困ったらSNS、知恵袋、なんて誰かが言ってたがだいたいこんなこと相談したら運営に通報されるか止められるかのどっちかだ。

 まともな未来がない。


 自殺というのもなかなか簡単じゃないものだ。

 しよう、と思っても1歩が踏み出せないとか言うがそれ以前に遺書の内容が思い浮かばない。

 結局思い浮かばないまままた一日が終わってしまいそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る