第3話 別に待ちに待ってない休日


『休日』


 その二文字に込められた想いは一言では言い表せない。

 睡眠、食事、デート、ゲーム、ピクニック、家族旅行、スポーツ……。

 挙げだしたら切りのないこの大事な日。本当ならデートをする予定だった。が、彼女にあっさり断られ、見事1人で休日を過ごす羽目になった。


『なぁ、いまから駅前のゲーセンこれない?』

『ん?今いるけど。来る?』

『行くわ。久しぶりだしリハビリ兼ねて。』


 もう何年もの付き合いになる彼、と言ってもハンドルネームとゲーム上でのプレイヤーネームである『ハクア』という名前しか知らない。そんな彼は今まで関わった音ゲーマーの中でも頭一つ抜け出しかつての自分と唯一互角に戦った相手だ。

 自分で言うと嫌味に聞こえる自慢だがかつては全国ランキングに名を連ね、界隈で名を知らぬものはいない、というようなプレイヤーであった。

 ……そう『あった』なのだ。

 彼女ができてからゲームそのものが疎遠になり気づけばインフレに追いつけないたみと化してしまった。

 だからこそたまに低難易度に触るような生活をしないと己の欲求もプライドも満たせない様になってしまった。まだ一線にいるんだ、と錯覚させ騙し騙しどうにか命とランキングを繋いでいる。とはいえ一人でやるのも寂しいからと現役トップランカーの彼と遊ぶことにしたわけだ。


 ********************


『着いた。やってる?』

『並んでる。はよ。』

『おけ。』


 結局来てしまった。

 ただちゃんと睡眠はとった。

 ゲームだけじゃない。何をするにも一番大事なものは睡眠だ。夜の睡眠をちゃんととっておけばだいたいどうにかなる。変にエナジードリンクやらラーメンやらに頼るよりいい。


「悪い。待った?」

「ああ、めっちゃ待った。許さねぇ。」

「悪いって言ったやん!謝ったよね?」

「悪いって形容詞であって謝罪の言葉じゃなくね?」

「頭大丈夫か?イラついたし海沈めるわ。」

「いや、悪かったって。」

「いま悪かったって言ったやん!謝罪じゃん」

「あぁ確かに」


 趣味が同じで話が合えば語彙力失くしても話ができるからいい。


「やるぞ。」

「ヤるぞ?」

「悪意あるだろ。彼女いるだろお前。」

「てへ」

「あ、うぜぇ。」

「ごめんね」

「いいよ」


 大事な話でも周りから見ればただの馬鹿でしかない話も当人達には楽しいと感じるものだ。インフレに追いつけなくてもまぁいいか、楽しいし、と思えるのは少なからずこういう会話があるからだろう。たまにはこうして遊ぶのもいいな、なんて思い、全ては気の持ちようだ、と考え直すことにした。

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