第七話 Data : Memory


 これは、記録の記録。



 ※ ※ ※



第一話


 ・この場面で想像したのは、FGOのマシュが始めて自我を獲得して目覚めたシーン。ロマニ・アーキマンとの会話でした。

 というのも昔、『ニア』を聴いた友達があまりの感動に衝動的に書いた短編を僕に読ませてきたことがありまして、それの会話がまんまマシュとロマンの会話だなぁ、と思ったのです。それをそのまま覚えていて、ここでも思い出しながら書いた、ということです。(FGOを知らない方はわからないと思います。ごめんなさい)


第二話


 ・ここを書いている途中に「名前を呼んだことはない」のアイデアを思いつきました。というか第七話で明かされたトリックはだいたいここで思いついて、ならそう繋げられるように全体を書いていこう、と進めていった記憶があります。


 博士がメルに言った説明ですが、はじめは箇条書きにして、メルが言われたことを胸の内でまとめている風にしようとしていました。

 ただその時に、これでは伏線として確固たるものにはならない、と気づき全て博士に喋らせました。

 博士の言ったことを勘違いしたメルにまとめさせるのではなく、博士のセリフを読者も一緒に聞いてもらって、一緒に勘違いしてもらうことにしたのです。


 最後の博士が名乗らない場面は、伏線としての理由が一つ。

 もう一つは、まだ前途多難であってこれから柔らかくなっていく、という演出を強化するための逆演出でした。


第三話


 ・ここは、「海ってどんなものなの?」というのをメルに言わせて、いつか本物を見に行こうというような話があったら最高だよなぁと思って書きました。

 結局そんな会話はなかったわけですが。

 多分、瞳の色と、女性であるということから生物の母である海を思いついて、海と同じ色だよというセリフを思いついたのだと思います。

 そこらへんは後づけの推測です。

 最後のプリンは超露骨な伏線です。


第四話


 ・ヒーローの話が書きたいなと思ったので書きました。

 嘘です。正確には、メルの名前を名乗らせるに当たり、その辺の演出を考えていたら、「君は僕のヒーローだった」みたいセリフが思い浮かんで、一気に話が出来上がりました。

 このときの会話を書く時に想像していたのは僕のヒーローアカデミアのオールマイトです。安心を与える存在。あの「私がきた!」は本当に大好きです。

 これは書いている途中で気づいたのですが、安心が最初の方ともかかっていて「おおー!」と自分でも驚きました。そうです、偶然だったのです。


 四話の会話は特にお気に入りです。

「ヒーローに性別なんて関係ないさ」もそうですし、後のなぜだかこの日の時間は早く感じられました。も初めてメルと博士の意識や関係に変化が起きた瞬間の描写としてとても好きです。


第五話


 ・ここは結構苦労した記憶があります。名前の話にしようとしていて、結局は愛の話になりまして、最終的には文字の話になりました。

 自分の悪い癖なのですが、好き勝手書こうとすると、ごまかそうとするのかえらく抽象的な表現や話題を用いてしまうんです。

 今回もそれが出そうになりまして、いかんいかんと何度か修正を繰り返して、結局伏線の話以外には何も話題を入れないという選択肢に落ち着きました。


 結果的にはそれが一番よかったのだといまでは気づけました。

 主題がそのまま伏線になっている、というのはとても重要なことなのです。


 五話を書いている時にはすでに、「最後の会話は二人の関係性の変遷を表すものにしよう」と決めていました。だからおやすみなさい、と声かけをしたのは結構な進歩だったんですね。

 まぁ次の話で関係性もクソもなくなってしまうわけなのですが。


第六話


 ・音楽が絡む企画なんだから音楽の話は入れなきゃなぁとは二話くらいの時から思ってならば話のインパクトとも絡ませるために起承転結の転となる部分にねじ込もうということになりました。

 理由としては、かなり最初の方に考えていた「彼に歌を届けるために過去にいく」という動機からです。その動機を自然なもの、当然なものとするために転の役割を担ってもらいました。

「Redo」を選んだのはもう言わずもがなですね。伏線、というか二回目に読めばわかるように仕掛けを施せるようにしたのは楽しかったです。


 彼が亡くなりました。という急転直下の展開を思いつけたのは、第25回電撃大賞選考委員奨励賞を受賞された青海野灰さんの三題噺からだと思います。

 これは今思い出したことなので、当時は「ええ展開思いついたやん自分」くらいの認識でした。


第七話


 ・夢というのは得てして抽象的になりがちですが、そしてそれそのものに何かしらの意味が含まれがちというか、含ませなきゃ文として無駄なものとなってしまうと言いますか、みたいなものなのですが、僕は特に意味を含めたつもりはありません。


 突然ですが自分語りをします。

 僕には姉がいます。そして、祖母がいました。

 昔、祖母が亡くなった数日後、朝に姉が大泣きしたことがありました。

 母が事情を聞くと、「夢におばあちゃんが出てきた」とのこと。

 ただそれだけのことだったはずですが、姉は大泣きしました。

 夢を見なかった僕にはその感覚がわかりませんでした。

 だから、メルにはただ幸せな、けれど曖昧な夢を見てもらいました。

 だから、あの夢にどんな意味があるのか、僕にはわかりません。

 意味なんて本当にないのかもしれません。

 けど、死んだ人が夢に出てくることに特に意味はなくて、ただそれだけのことであって、ただそれだけのことだからこそいいんだ、といまなら思えます。


 あとはベタな展開ですね。

 死者からのメッセージ。全てが反転し、露わになる真実。その名の意味。

 この時にイメージしていたのは、『君は月夜に光り輝く』のまみずがたくやに願い事をいうシーンです。

 あの、セリフの中で一文改行というのは初めて見たもので、当時の僕は結構驚いて記憶に残っていたんです。だから、それが出てきたんだと思います。


 名前の意味がわかってメルが泣いたシーンですが、僕も実際に泣いてしまいました。泣くといっても、涙ぐんでしまった程度のものですが、僕にとっては本当に大きな進歩でした。


 これに関する身の上話をします。(興味なかったら飛ばして構いません)

 小さい頃、幼稚園生くらいの頃でしょうか。

 家族で映画を見に行ったんです。阪神・淡路大震災で飼い犬と離れ離れになってしまった少女としば犬の話だったと記憶しています。タイトルは覚えていません。(知っていたら教えてください)

 その映画は感動必至、と銘打たれて日本中が涙したらしいです。

 実際に、僕も大泣きしました。これ以上ないくらい泣かされました。

 この映画以来、僕は泣けなくなりました。


 泣くのがあまりにも辛かったのです。


 なぜ、こんな辛い思いをしなくてはいけないのかと純粋に思ったのを覚えています。映画の中ことであるのに、「なんで地震が起こるんだよ!」と怒りと悲しみで泣いていました。ちょっと泣くところずれてる気がしますが、とりあえずそれで泣くという行為に、心のすごく深いところでストッパーが働くようになってしまったんです。まるでトラウマがごとく。

 泣くのは弱虫のすることだ、みたいなことを思っていたのもあって余計にそう思ったのかもしれません。

 だから、そんなこんなで泣きそうになっても反射的に心を無にしてしまうようになってしまったことに関して僕はかなり参っていました。

 以前、「泣きたいのに泣けない事実に泣きそうになる」なんてツイートをした記憶がありますが、本当のことです。

 なんで参っていたのかと言いますと、創作論で「自分の感情も動かせない作品で人の感情を動かせるはずがない」みたいな話を耳にするじゃないですか。

 ああいうので結構焦っていたんです。


 それともうひとつ、これは第25回電撃大賞銀賞を受賞されたミサキナギさんが深夜に「自分が泣けるものしか作らない。そうじゃないと意味がない」という旨のツイートをされていたのを目にしたんです。

 しかも、ミサキさんは受賞した作品を書いている時、あまりの感動にファミレス(カフェだったかも)でボロ泣きしてしまったとすら言っていました。

 他人の意見や話にひどく感化されやすい人間としては、結構ショックにくる話だったのです。

「そこまでやらなきゃ届かないのか」と内心めちょめちょ不安になりました。


 だから、今回自分が泣ける作品を作れたというのは、それだけで僕にとっては己の殻を破ったということなのです。

 この事実は大事にしていきたいです。


 第八話


 ・ここは本当に綺麗に収まりました。

 始まりと終わりが一緒になるというか、収束するのが結構好きだったりするのでこの終わり方はかなりお気に入りです。

 始まりにたどり着くまでにどのような話があるのだろうか、と先の話を思わず想像してしまうような終わり方になったと思っています。

 ここはオリジナルです。完全に自分の感覚で書けました。






 途中に自分語りが入ってしまいましたが、以上が制作過程やらなんやらで思ったことのまとめです。

 最後に、少し先の話をして終わろうと思います。




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