第47話 番外編3-1 その後の睦月と夏希

 夏希は、トイレに座って頭を抱えていた。

 その手に握られているのは妊娠検査薬だった。

 くっきりと出る二本線。


 妊娠陽性!


 生理予定日より十日が過ぎ、もしかして……と思いながら試した検査薬、もちろん心当たりはありまくりだ。

 すでに籍は入れてあるし、対外的には何の問題はない。それどころか、義母の月子が知れば、大喜びすることだろう。

 もちろん、夏希にしても嬉しい出来事ではある。大好きは睦月の子供を授かったのだから。


 睦月さん……なんて言うかな?


 睦月は、まだ子供はいらない、しばらく二人でいたいと、昨日ベッドの中でも言っていた。

 先月、同居していた美月が女の子三人のシェアハウスに転居し、やっと晴れて二人っきりの生活になったばかりだった。


 イチャイチャラブラブする毎日、セックスしない日のほうがないくらいだ。

 まず、朝起きてからベッドの中でイチャイチャ、朝食や弁当を作ってる最中もイチャイチャ、なかなか支度がはかどらない。急いで朝食を食べ、出かける前のキス&ハグは濃厚に。

 帰ってきたら、まずは玄関先で。その流れで二人でお風呂に入り、夕飯を食べた後は睦月の独壇場だ。

 夏希は気絶するように眠りに落ち、睦月はそんな夏希をベッドに残して仕事をしてから夏希の眠るベッドに潜り込む。


 こんな毎日を一ヶ月続けているのだから、子供ができないほうがおかしい。ゴムも使っていないし……。


 とりあえず、病院に行ってからだ。


 夏希は、保険証が入っているか確認してから家を出た。


「上条夏希さん、三番診察室にお入り下さい」


 夏希は丸山病院の産婦人科を受診していた。丸山病院とは、以前睦月と夏希がインフルエンザで入院した病院だ。


「お願いします」


 診察室に入ると、女性の医師で少しホッとする。


「どうしました? 」

「あの、生理が十日きてなくて、さっき妊娠検査薬を試したらラインが出て……」

「妊娠の検査ですね。まず、尿検査して、問診票書いて体重と血圧も測定してね」


 看護婦さんに案内され、まずトイレで検尿し、問診票を書いた。アレルギーの有無や既往歴、最終月経日や今までの妊娠・中絶の有無など。体重、血圧は測る場所があり記録用紙がでてきた。

 全て終わった頃、もう一度診察室に呼ばれた。


「失礼します 」

「はい、じゃあエコー検査しますから、下着を脱いでそこに座って下さい」

「はい……」


 何をされるかわからず、とりあえず下着を脱いで台に上がる。


「動かないでね。診察台上がります」


 座った途端、いきなり台が上がりながら足が開かれる。


「ウワワワ……」


 何やら凄く屈辱的な……。


「力抜いてね。触診します」


 おなかを押されながら、触診される。


「エコー入れますね」


 もう、それからはかなりショッキングだった。


「消毒します。台が降りますから動かないで」


 台が元の位置に戻り、足も閉じられる。

 下着を着て、女医の前の椅子に座った。


「おめでとうございます。妊娠六週目に入ったところです。胎嚢も心拍も確認できました」

「心拍? 心臓が動いてるんですか? 」


 まさか、もう心臓ができあがっているとは思わなかったから、思わず聞き返してしまう。


「そうですよ。これ、赤ちゃんの写真ね。一応この真っ黒いとこが胎嚢、赤ちゃんを包む膜ね。この小さい豆みたいなのが赤ちゃん」


 写真を手に、まじまじと見入る。


 こんなのがおなかの中に?


 ジワジワと実感が湧いてくる。


「これ、もらっていいんですか? 」

「もちろんよ。あと、心拍確認できたから母子手帳もらってきてね。区役所に行けばもらえるから。出産でいいのよね? 」

「えっと……はい」

「次は二週間後にまた検診にきてね。その後からは一ヶ月毎になるからね」


 夏希は、エコー写真を手に診察室を出た。


「赤ちゃん……」


 母子手帳は、睦月さんに相談してからだよね。


 まさか堕ろせとは言わないだろうが、喜んではもらえないんじゃないかと、夏希は不安いっぱいになりつつ病院を後にした。

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