第42話 最終話

 できると思うか?

 それは、睦月さんとセックスできるかどうかよね?


 今までの勘違いを思うと、夏希は確認するように繰り返した。


「できる……って、睦月さんとセックスできるかってことよね? 」

「そう! 」


 睦月は、真剣な顔で夏希ににじり寄る。


「……できる……と思う」


 夏希はうつむいて答えたが、きちんと説明をしたほうがいいのかと、しっかり睦月の方を向く。


「あのね、睦月さんに触られてもゾワゾワしないし、気持ち悪くならない。……どちらかというと、触られて嬉しいし、もっと触ってほしいって思うよ。だから、できると思う」


 睦月は、ニカッと笑うと夏希をきつく抱きしめた。


 夏希を離すと、さっき開けたシャンパンをシャンパングラスに注いだ。


「じゃあ、今日、ここで、おまえを抱くからな」


 夏希にグラスを渡す。


「前祝い」


 二人で乾杯して、いっきにグラスをあけた。

 睦月はグラスを置くと、夏希を横抱きにして抱き上げる。夏希は睦月にしがみつき、チュッとキスをする。


「大好き」

「俺も……愛してる」


 夏希をメインベッドルームに運ぶ。

 そっとベッドに下ろし、睦月は夏希にキスしながら、器用に自分の洋服を脱いでいく。

 夏希のワンピースも脱がし……。


★★★


 それから、どれくらいの時間がたったかはわからない。

 ただ、全てが薔薇色のような時間……ではなかった。

やっと、やっと、念願の二人っきりの夫婦としての行為は、星が散りばめられるような夢のような時間ではなく、まるで体育会系のノリだったような……。誰もが、夢壊れる瞬間かもしれず、夏希もまあそうだったから、逆に恥ずかしがることもなくすんだのかもしれない。


「風呂……行くか? 」

「うん」


 二人で、夜景の見える風呂へ行く。ゆっくり湯船に浸かりながら、睦月は、夏希の髪を撫でた。


「契約書、覚えてるか? 」

「うん。……契約達成だね」


 夏希は睦月に寄りかかりながら、うっとりと目を閉じている。


「第六項、覚えてるか? 」

「……なんだっけ? 」


 熟読したわけじゃないし、細かい内容までは頭に入っていなかった。夏希は、目を開けて睦月を見上げる。


「夏希がセックスできるようになったら、俺の願いを叶えるってやつだよ」

「ああ、そんな文章もあったね。で、睦月さんのお願いって何? 」

「そうだな……。お互い、思ったことは口に出すこと。勝手に勘違いしない……かな? 」


 夏希はクスクス笑い、睦月にチュッとキスする。


「そうだね」


 その晩、二人で抱き合って眠りについたのは、辺りが明るくなってからだった。


 二人が二回目の夜を迎えることができるのは、果たしていつになるのだろう? 邪魔が入らないといいのだが……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る