第40話 最終話までカウントダウン2

 最近、やたらと積極的な夏希に、頭を悩ませている睦月だった。

 実家の風呂で積極的に睦月のを元気にしてから、ちょくちょく睦月のを刺激してくるようになったのだ。普通なら大歓迎のはずだが、セックスできない今の状況では、生殺し以外の何物でもなかった。

 もちろん、何も考えずにのっかってしまえば、身も心も楽になるはずだ。

 でも、歯止めがきかなくなり、夏希を傷つけることだけは避けたいという思いから、どうしても踏ん切れなかった。


「社長、いかがなさいました? 」


 弥生が、ボーッとしている睦月の前に立ち、ヒラヒラと手を振った。

 新婚ボケか、新婚旅行が終わってから、仕事に身が入っていない……と、弥生は睦月の様子が気になっていた。幸せボケというより、何か思い悩んでいるように見える。


 夏希さんの誤解はなくなったはずだから、問題はないはずなんだけど……。


 まさか、夏希の誤解から、さらに睦月に誤解が生じ、ややこしいことになっているとは、弥生は思ってもみなかった。


 睦月は、もしかして女の考えていることは、女の方がわかるんじゃないかと、弥生に話すことにした。


「夏希のことなんだが……」


 最初の出会いから今までの経緯を話す。

 弥生は聞いていて、頭を抱えたくなった。


「なるほど……ね、社長、いえむっ君」

「なんだよ、姉さん」


 睦月は、ブスッとして弥生に答える。

 弥生は、腹違いの睦月の姉だった。


「あなた、きちんと夏希さんと話しなさい。ただの勘違いだから」

「勘違い?! 」


 睦月はすっとんきょうな声を出す。

 弥生は夏希から聞いて知っている話しを話した。


「俺は浮気なんかしてないぞ! 」

「わかってるわよ。だから、それは夏希さんの勘違いで、この間解消したから。むっ君が浮気したんじゃないかって悩んでいた夏希さんを見て、あなたはまた勘違いしたってわけよ」

「じゃあ、俺は夏希とやれるのに、勝手に我慢してただけなのか? 」


 弥生は、可哀想な人を見るように睦月を見た。


「うそだあ〰️!」


 睦月は、机に突っ伏したかと思うと、ムクッと起き上がり、弥生に命令した。


「タイアットホテルのディナーと、スイートルームの予約をとってくれ」

「今日ですか? 」

「今日だ! 」

「かしこまりました、社長」


 今日こそ、本当の夫婦になってやる!


 睦月は、夏希に夕飯を食べに行くと連絡し、お洒落をして待っているようにとも言った。

 鬼早で仕事をこなし、美月のことは弥生に任せる。

 夕方家に帰ると、支度途中の夏希がびっくりして出てきた。


「お帰りなさい、ずいぶん早いね」



 睦月は、夏希を抱きしめると、長いキスをした。

 夏希は、嬉しそうに睦月にすり寄る。


「どうしたの? 」


 睦月は、夏希に再度キスをすると、夏希の尻を叩いた。


「ほら、急いで支度しろ」

「もう! 」


 睦月は、夏希がドレッサーの前に座って化粧をするのを見ていた。


「ねえ、なんでいきなりお洒落してご飯なの? 」


 睦月の誕生日も、夏希の誕生日も終わったばかりだし、記念日というわけではない。


「まあ、そういう日があってもいいだろ」


 睦月は、夏希の後ろから夏希の頭に顔を埋める。


「夏希の匂い……好きだ」

「私も。睦月さんの匂い好き」


 睦月は、夏希から離れると、夏希に腕をだした。


「行こうか、奥さん」


 夏希は睦月の腕をとった。


 タイアットホテルにつくと、最上階のレストランへ行く。夜景の見える窓際の席に通され、フルコースのディナーを堪能した。


「美味しかったね。なんか、新婚旅行といい、この間の睦月さんのおうちディナーといい、最近美味しい物づいてるね」

「俺は夏希の飯がいい」


 睦月にとって、外で食べる豪華な食事はうんざりで、夏希と食べる家庭料理の方が、新鮮で何百倍美味しく感じた。


「またまたあ! 」


 照れる夏希の手を握り、睦月はじっと夏希を見つめる。


 長かったよなあ。

 まじで長かった……。

 今日、あの契約も終了になるわけだ。


甲( 上條睦月 )が乙( 如月夏希 )の恋愛恐怖症を改善するための契約書


 其の一、甲が乙に行う行為に協力すること。

 其の二、甲が乙に行う行為に嫌悪感を抱いた場合、直ちに報告すること。

 其の三、甲が乙に行う行為に愛好を感じた場合、直ちに報告すること。

 其の四、甲乙双方の仕事時間以外は、なるべく一緒に行動すること。

 其の五、この契約書は、状況に応じて更新される。

 其の六、乙の恋愛恐怖症が改善されたとき、乙は甲の願いを一つ叶えること。


 以上のことに同意したものとする。

 署名 如月夏希


 其の六……睦月の願い、それは女避けに、( 偽装 )婚約者になってもらおうと思っていたのだ。

 女避けという意味では、嫁になったのだから、これ以上の女避けはないだろう。

 というわけで、形は変わったが、睦月の願いは叶っていることになる。


 さて、何を願おうか?

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