第38話 最終話までカウントダウン4
「行ってらっしゃい」
夏希は、睦月にハグをしてキスをした。唇を離した後も、睦月にキュッと抱きつく。
「兄さんいいな……。なっちゃん、僕も! 」
睦月は、半分本気で美月を小突く。
「バカか! 行ってきます」
睦月は夏希の頭にキスすると、美月と小突き合いながら出社していった。
今日は土曜日!
美月が実家に帰るはずだ。
夏希ははりきって、家の掃除を始めた。
新婚旅行から帰って三日、美月がいるせいなんだろうけど、キスもライトな感じだし、睦月から求めてくる感じに触ってくる素振りもなかった。ただ、常にハグしたり、手をつないでいたり、新婚らしくベタベタはしていたが。
寝るときも、常に腕枕で抱きしめてくれるし、それはそれで嬉しいのだが、ベッドの中くらいはもう少し……。と、若干欲求不満気味の夏希だった。
洗濯物を干しながら、夏希は睦月とした会話を思い出していた。
てっきり浮気だと思って話していたが、浮気ではないとすると、何の話しだったんだろう?
たまったらださないと……って、どうやって?
もしかして、そういうお店に行って処理するってこと?
それもイヤだな……。
睦月が自分で……とは思っていない夏希は、さらに思考が迷走していく。
そして、ある決心をするのだが……。
家中ピカピカにし、夕飯の準備にとりかかろうとしたとき、インターホンが鳴った。見ると、睦月の家で会った村井がニコヤカな笑顔で立っていた。
美月を迎えにきたと思った夏希は、すぐに玄関まで迎えに出た。
「こんにちは、村井さん。まだ美月君、帰ってきてないんですよ。どうぞ、上がって待っていてください」
スリッパを出そうとすると、村井はそれを断った。
「いえ、今日は夏希様をお迎えに参りました」
「私? 」
「はい、突然で申し訳ございませんが、月子奥様が今晩急遽時間が空きましたので、睦月ぼっちゃまと夏希様のご結婚のお祝いをしたいとおっしゃられまして。ディナーを一緒にして、是非泊まりにいらしてほしいとのことです」
睦月の家に挨拶に行かなくてはと思っていた夏希は、了解するとすぐに支度を開始する。村井は、客人用駐車場に停めた車で待ちますと、玄関から出ていった。
ディナーと言っていたから、それなりに身だしなみを整え、一応睦月の分と合わせて、泊まりの準備もする。
化粧をしつつ、睦月にラインを送った。
夏希:村井さんが来たよ。お義母さんにディナーに招待されたよ。今、支度中。
睦月:おふくろから電話きた。悪い、いきなりで。
夏希:大丈夫(^-^)/挨拶行きたかったから、ちょうどいいよ。
睦月:仕事早めに終わらせて行くから、親父には注意しろよ!
夏希:やだなあ、何の心配してるのよ?
睦月:絶対、二人にはなるな!美月をすぐ帰らせるから、美月を待て!
夏希:わかったよ。睦月さんも早く来てね。
睦月:了解。
夏希は支度を終えると、美月に電話をかけた。
『美月君? 』
『はいはーい、今、タクってるから、もう少し待ってね。あと、十分くらいでつくと思うよ』
『わかった。じゃあ、村井さんの車で待ってるね。村井さんにも、美月君が帰ってくること伝えないとだし』
『はいはーい』
電話を切ると、夏希は荷物と新婚旅行のお土産を持って家を出た。
客人用駐車場には、リムジンが停まっていた。夏希が車の前に立つと、村井が素早く下りてきて、ドアを開けてくれた。
美月がくるのを待ってから、睦月の実家のある横浜へ向かう。
睦月の実家は相変わらずゴージャスで、村井の運転するリムジンが玄関先につくと、使用人が十人くらい出て来て、一斉にお辞儀をした。
「美月ぼっちゃまお帰りなさいませ。夏希様、ようこそお越しくださいました」
「お邪魔します……」
夏希は、気圧されながらも挨拶を返し、美月に引っ張られるように家に入る。
あの人数、お土産足りないな。
まさか、あんなに使用人がいるとは思ってもいなかった。
しかし、この家の広さだ。一人や二人で掃除しきれるものではないのは確かで、美月専属も数人いると言っていたのを思い出した。
夏希は、夕飯までの間、睦月が使っていた部屋に案内された。美月が、あれこれアルバムを出して見せてくれる。
「可愛い! 」
小さい時の睦月は、今の厳つさはなく、女の子のように可愛らしかった。小学生くらいになると、少年ぽさがでてきて、中学生ではすでに子供版睦月が完成しつつあった。まだ線は細く、美少年という感じであるが、年よりもクールに見えた。
「この時の兄さんは怖かったな。いつもムスッとしてて、全然遊んでくれなくて。まあ、今でも怖い時は怖いけどね」
確かに、最初の睦月の印象は怖い人だったけど、今は全然真逆だ。
「この写真欲しい! 」
「いいんじゃない? 剥がしていけば」
美月は、数枚剥がすと夏希に渡した。夏希は、大切に鞄にしまった。
しばらく写真を見ながら睦月の昔話を聞いていると、バタバタと足音がして、睦月がやってきた。
「お疲れ! 」
「お帰りなさい」
「ただいま」
睦月は、夏希を見てホッとしたようにハグをする。
「親父は? 」
「まだ、帰ってないみたいだよ。今日は、一番下のベビーに会いに行ってるらしい」
「そうか、良かった。親父が夏希に手をだしてないか、気が気じゃなかった」
「だから、僕がついてただろ」
「おまえもいまいち信用できないんだよ」
「なっちゃん、こんな旦那でいいわけ? 」
美月は、頬を膨らませる。
「睦月さん以外はイヤです」
夏希も睦月の腕にしがみつくようにして言う。
睦月は、手だけで美月をシッシッと追い払い、美月は肩をすくめて部屋から出ていった。
「写真、見てたのか? 」
睦月も、夏希の前に広げられたアルバムを、懐かしそうに見た。
「うん。睦月さんの
実際見つけたら、きっと不機嫌になっていただろうが。
「写真か……。撮ればよかったな。カメラの存在を忘れてた」
「軽井沢? 」
「ああ」
「カメラ、持ってるの? 」
「そう言われると、ないかもな」
「今はスマホでも綺麗に撮れるしね」
「いや、ちゃんとカメラ買うぞ!次は、写真撮ろうな」
女との写真を残そうなんて、一度も思ったことのなかった睦月だったが、夏希との写真だったら、こうして見返すのも悪くないと思えた。
夏希のヌードを撮るのもいいよな。今は家でプリントアウトできるし……。
などと、睦月の頭の中がエロに傾きかけた時、夕飯の支度ができたと、村井が部屋に呼びにきた。
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