第26話 美月 参上!
まったりと二人だけの昼食をとったあと、夏希が掃除や夕飯の仕度をしている間、睦月は仕事をしたり、音楽を聞いたりして過ごした。
夕方になり、少し早めの夕飯をとることにする。
夕飯はおせちをリメイクして、筑前煮といくら、かまぼこ、伊達巻、数の子を使ってバラちらしを、なますといくらを煮込んだ揚げに詰めてお稲荷さんを作った。
ワインのおつまみに合うかもと、黒豆を練り込んで、デザートにビスコッティも作ってみた。
夏希は、夕飯をダイニングテーブルに並べると、睦月を呼びに書斎の扉をノックする。
「睦月さん、ご飯よ」
部屋を覗くと、睦月が肘掛け椅子に深く座り、耳にはヘッドフォンをはめ、目を閉じている。
寝ているのかと、夏希はゆっくり近づき、顔を覗き込んだ。
睦月は、目が鋭く厳ついイメージがあるが、目を閉じていると、端正な顔つきをしていた。
夏希は、その鼻筋にキスをする。
睦月の瞼がピクリと動き、夏希の腰に手を回した。
「寝てたな」
「寝てたね」
睦月は、夏希を抱き寄せて膝にのせると、その柔らかい身体を抱きしめ、夏希の甘い香りを吸い込んだ。
「飯食ったら、一緒に風呂入ろうな。その後は……いいな? 」
「うん」
夏希も睦月に抱きつく。
夜になれば! 睦月さんと初めての……。
二人は、まったりとしたキスを楽しみ、睦月は夏希の身体を探索しだした。
最初は恐る恐る。夏希の反応を見つつ、嫌がらない程度を探る。睦月との初めてを決意してくれたようだが、いざその時になってやっぱり無理! と言われたらたまったものではない。
もちろん、だからと言ってすでに夏希を手離すつもりなんかはなく、そうなったらなったで、根気よく待つつもりはあった。
だから、睦月にしたら恋人同士の軽いイチャラブというより、もっと真剣で真摯な触れ合いであった。
それでも、次第に睦月も我慢の限界を迎える。嫌がる素振りもなく、可愛らしい反応を示す夏希に、夜まで待つ必要はなくないか?! と、夏希をきつく抱きしめた。
「そうだ、睦月さん。ご飯が冷めちゃう」
「飯は後だ。布団に運ぶぞ」
睦月は、夏希を横抱きにして立ち上がる。
「いいよな? 」
夏希は肯定の代わりに睦月の首に手を回した。夏希が睦月にしがみつき、睦月がいざ寝室へ! と足を向けた瞬間、インターフォンが鳴った。
「今日は出ない」
やけになった睦月は、インターフォンを無視して寝室へ向かい、夏希をベッドの上に下ろすと激しくキスをする。その間もしつこくインターフォンはピンポンピンポン鳴っており、このままでは初めての雰囲気もへったくれもなかった。
「ああ! もう!! まじで誰だよ?! 」
夏希は、激しいキスで潤んだ瞳で睦月を見上げ、クスクス笑って身体を起こした。
「出てくる。 それに夕飯もできてるしね 」
夏希は、睦月の手から逃れると、ジーンズのチャックを上げて書斎から出る。
身体は火照っているが、深呼吸して落ち着かせる。残念な気持ちではあるが、まだまだ夕方、時間はいくらだってあるのだから。
夏希が、インターフォンを見ると、そこには若い男の子が立っていた。
「はい? 」
「あの、美月です。睦月兄さんはいますか? 」
「美月か。上がってこい」
後ろからインターフォンを覗きにきた睦月が、インターフォンを切って鍵を開ける。
「末の弟の美月だ」
しばらくすると、玄関が開いて美月が入ってきた。
美月は、兄弟の中では一番小柄かもしれない。大悟似のバッチリ二重は、中性的な感じを与えた。カッコいい男の子というより、可愛らしい感じだ。
厳つい睦月と並ぶと、女の子にしか見えない。
「初めまして。弟の美月です。突然お邪魔してすみません」
美月は、真っ赤な薔薇の花束を夏希に手渡した。
「ありがとう。如月夏希です」
「夏希お姉さん……でいいですか? 」
お姉さん……かあ、なんか照れくさいな。
こんな可愛い男の子にお姉さんと呼ばれ、照れ笑いをしながら美月にスリッパをすすめた。
「あ、うん。どうぞ、入ってね」
美月は、お邪魔しますと、中に入ってくる。
「ほら座れ」
「お夕飯は? もし良かったら、食べていかない? 」
美月は、素直にハイとうなづいた。
夏希は、お茶をだしてから、さっき作っておいた夕飯を取り分けし、さらにおせちも取り分けた。
「ウワーッ、美味しそう」
「召し上がれ」
なんていうか、本当に可愛らしい子だ。高校生の男子に失礼かもしれないけど……。
「おまえ、友達とスキーに行ってたんだって? 」
「ああ、一応一日には帰ってきたんだけどね、兄さん達が帰った後だったんだ」
ご飯を美味しそうに食べる美月を、睦月は観察する。
「あまり、焼けてないな」
「まあね、部屋にこもってたから」
「何しに行ったんだよ」
「スキーだって。一応ね」
何か、会話がおかしいような……。
「女か? 」
「やだなあ」
「そうよ、睦月さん。美月君は高校生だよ」
「女の子って言ってよ。女っていうと、なんか生々しいじゃん」
あっけらかんと言う美月に、夏希は食事の箸も止まる。
「何人だ? 」
いや、睦月さん、質問がおかしいよ?
夏希は、睦月を見る。
「女の子三人と僕」
今度は美月を見る。
「おまえなあ……」
変なこと考えちゃったと、夏希は軽く頭を振った。
そして、呆れたような睦月に、女の子三人なら女友達でしょ? と言いかける。
「おふくろは知ってるのか? 」
「さあ? 友達とスキーとしか言ってないけど、気づいてるみたいかな」
「全く……。ちゃんと避妊しろよ」
夏希は、高校生相手になんてことを言うのかと、睦月に一言言おうとしたとき、美月がにこやかに笑った。
「当たり前じゃん。父様とは違うよ」
そこ、否定しないわけ?!
夏希は、口をパクパクさせ、睦月と美月を見る。
「ああ、こいつは見かけ通りじゃないから、気を付けろよ。可愛い顔して、タラシにもほどがある」
「兄さんだって、僕くらいのときは凄かったじゃないか。何人も家に連れ込んでたよね」
可愛い笑顔で、毒を投げ込んでくる。
「えっ? 」
夏希のジトッとした視線を受けて、睦月は軽く咳払いをする。
「夏希と知り合って変わったんだから、いいだろう! 今は夏希だけだ」
それって、つい最近までお猿さんだったってことですか?
「今は? 」
夏希は、笑顔をひきつらせながら、テーブルの下で睦月の足を蹴る。
「いや、ずっと夏希だけだから。言い寄られても、無視してるじゃないか」
「言い寄られてるの? 」
睦月は、しまった! いうふうに、視線を泳がせる。
「そりゃ、兄さんはいい男だし、何より上条グループだからね。妾でもいいって女が、そりゃあの手この手で迫ってくるだろうさ」
「ないない! おまえ、少し黙ってろ! 」
美月は、可愛らしく頬を膨らませると、はーいと返事をして、食事を堪能しだした。
重い空気が流れつつの食事になる。
美月はニコニコと、夏希はブスッとして、睦月は夏希の様子を伺うように、三人三様だ。さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら……。
「ところで、美月。三人と旅行はいいとして、彼女は? 」
そこ!
よくないでしょう!!
夏希は、この兄弟は! とつぶやいて、お稲荷さんにかぶりついた。
「みんな彼女だよ。今、何人かな? スキーの子達も増えたから……」
美月は、女の子の名前をあげながら、指をおって数えていく。
睦月はため息をついた。
「おまえが成人したら、おふくろは大喜びだろうよ。念願の孫がうじゃうじゃできそうで」
「やだなあ、避妊はしてるってば。三人ともちゃんと避妊したし。みんないらないって言ってたけど、ほら、誰か一人に子供ができたら不公平になっちゃうから」
この可愛らしい顔で、避妊とか言わないでほしい!
ってか、三人となにしにスキーに行ったってこと?
ちょっと引き気味に美月を見ていると、美月は照れ笑いをする。
「綺麗なお姉さんに見られると、ドキドキしちゃうね」
この人畜無害そうな顔に騙されるわけか!
そういえば、高校の時の彼氏も、ひたすらやりたがって、無理だって言ったらひっぱたかれたっけ。
高校生はお猿さん……だった。
夏希は、思い出したくもない過去を思い出してしまい、心の中でため息をつく。
この可愛らしい男の子は、自分と違う生物なんだと思うことにした。
それから、美月は残っていたおせちまで全てたいらげ、デザートまで食べ、気がついたら夜中の十一時。
「美月、もう遅いぞ」
睦月が帰れオーラ全快で言う。
「そうだね。今日は泊まっていこうかな? 夏希姉さん、いいかな? 」
「私は別に……」
夏希は、チラッと睦月を見る。
今日はあれだし……、断ってくれるよね?
「良かった。実は、今回のスキーのことで、母様の圧力が凄くてね。ちょっと、避難したかったんだ。しばらくお世話になるね。」
えーッ?!
夏希は叫びたくても叫べず、睦月は苦々しい顔をして黙っていた。
こんなことなら、朝昼関係なくやっておけばよかった!!
二人の共通した心の叫びだった。
というか、しばらくって、いつまで?!
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