第25話 今夜こそ!

 身体が重いな……。


 夏希は、珍しく昼過ぎまで寝てしまい、頭がボーッとする中、なにか身体が重い気がして目が覚めた。


 ここは?


 自分の状況がいまいちわからない。

 胸をまさぐる手を感じて、いっきに目が覚める。


 睦月のベッドで、睦月が寝ぼけながら夏希の胸を触っていた。睦月の足が夏希の上にのっていて、それが重苦しかったのだ。


「睦月さん? 」


 夏希は、睦月の足をどける。

 夏希も睦月も、素っ裸で布団の中にいた。


 夏希は、昨日のことを思い出す。

 家に帰って着物を脱いで、洗面台で化粧を落としていたら、睦月に……。


 その後の記憶が全くない。


 裸で抱き合っていたということは、昨日したんだろうか?


 そう思うと、身体中が変な気もするけど、いくら何でも初めてを覚えていないなんてことがあるんだろうか?


 夏希の頭の中は、? でいっぱいだった。


「おはよう」


 夏希がもぞもぞしていたせいで、睦月も目を覚ました。


「お……はよう。睦月さん、昨日は……? 」


 夏希が不安そうな、探るような視線を向けてきたので、睦月はピンときた。


 きっと、覚えていないに違いない。


 睦月は、昨日の仕返しではないが、少し夏希を苛めてやりたい気分になっていた。


「身体きつくない? 」


 背中に指を這わせながら下げていき、尻を撫でる。


「えっ? 」

「ほら、初めての時はしんどいって聞くから」

「……」


 ショックを受けたのか、無言になってしまった夏希の目に涙が滲む。

 睦月は慌てて、手を引っ込め、夏希を抱きしめた。


「嘘! 冗談! 」


 夏希は、涙目のまま睦月を見上げた。


「昨日は、夏希が寝ちゃって、何しても起きなかったんだ。だから、最後までしてない」

「してないの? 」

「してない。その、先チョンくらいで、挿れてはいない」

「先……」


 夏希は、クスクスと笑いだした。


「なんだよ! こっちは地獄だったんだぞ! 」

「ごめん」

「そう思うなら、責任とれよ」


 睦月は、モゾモゾと布団の中に潜る。


「あ……、ちょっと! 」


 寝起きを刺激され、夏希は身体をよじらせる。その途端、グーッと鳴る夏希のおなか。


「嫌だ! 」


 夏希は、真っ赤になっておなかを押さえた。


 昨日は、満足に食事をとっていなかったのを思い出す。睦月は、布団から顔を出すと、夏希にライトキスをした。


「まずは食欲みたいだな」

「ウーッ! 」


 夏希は、睦月の唇に噛みついた。


「こらこら、飯にしよう。俺を食うな」


 まあ、時間はいくらでもある。

 今晩だって……。


 睦月は、余裕のあるところを見せようと、先にベッドから降りて洋服を着る。夏希にはバスローブを渡した。


「ほら、これ着て」


 夏希は、バスローブを羽織ると、散乱していた肌襦袢を片手に部屋に戻った。


 部屋には、きちんと振り袖がかかっていたし、小物類もしまわれていた。


 酔っ払っても、疲れて朦朧としていても、やることはやるんだな……と、我ながら感心する。


 素早く洋服に着替えると、キッチンに向かった。


 睦月はすでにダイニングチェアに座り、新聞を読んでいた。


「今、おせちだすから」


 おせちはこれが楽だ。


 お重を並べ、日本酒をつける。


「改めまして、明けましておめでとう」

「おめでとう」


 二人で食べるおせちは初めてだから、改めて新年の挨拶をした。

 顔を合わせてクスリと笑う。


「さっき、何で泣いたか聞いていいか? 」


 まさか、嫌だったからとは言われないよな……と思いつつ、少し緊張して睦月は聞いた。


「聞きたい? 」


 夏希は、神妙な顔をして睦月を見つめる。


「う……ん、いや、うん」


 睦月はドキッとしてしまう。

 夏希は、フーッと息を吐くと、小さい声で言った。


「悔しかったの」

「えっ? 」


 夏希は、顔を赤くして睦月を睨むようにして繰り返した。


「だから、悔しかったの! 」

「悔しい? 何で? 嫌とかじゃなく? 」

「だって、せっかく睦月さんとの初Hなのに、記憶にないなんて、悔しいじゃない。大切な思い出になるはずなのに、忘れちゃってるなんて。なんか悔しいやら情けないやらで……」


 睦月は、夏希がそんなに自分とのセックスを大事に思っていることを知り、寝てる間にやらないで、思い止まれて、本当に良かった! と安堵した。


「ごめんな」


 夏希は目をつぶると、ゆっくり目を開けて、少しいたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。


「でも、先っぽは挿れたんだよね? つまりは、もう初Hはしたことになるのかな? 」

「いや! あれは未遂だ! あんなの、やったうちに入るか! 」


 慌てて言う睦月に、夏希はクスクス笑う。


「うん、入らないよね。今日こそ、初Hしようね」

「ああ、今晩こそな」


 そう、今夜こそ邪魔は入らない……はず?

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