第24話 睦月父 登場

 桐子に振り袖に着替えさせて貰った夏希は、睦月に貰ったダイヤの指輪をつけ、四人で初詣に向かった。

 お酒を飲んでいるので、タクシー二台で明治神宮についた。


「凄い人だな」


 まだ、明るくなりかけくらいの時間だというのに、お参りの人は列になっていた。

 お参りばかりは、お金持ちも貧乏人も平等だ。同じように並び、同じようにお参りする。


 ただ、賽銭の額が違う気もするが……。


 夏希が小銭を投げる横で、万札がヒラヒラ舞う。

 熱心にお願いしている睦月の袖を、すでにお参りを終えた夏希が引っ張った。


「何をお願いしたの? 」


 夏希は、無難にみなの健康を願っていた。


「色々だ。まずは、夏希との初Hだな」

「バカ! ほら、次の人が待ってるから」


 夏希は、睦月を引っ張って、お参りの列から離れた。


 葉月達はすでにお参りをすませ、おみくじをひいていた。


「なんだか、このみくじ、意味がわからないわ」

「とりあえず、結んで行こうか?」

 葉月達はおみくじを結ぶと、お守りを買ってきた。

「はい、むっちゃんと夏希ちゃんの分」

「ありがとうございます」


 四人は、それから屋台などを見て回り、甘酒などを飲んだ後で、睦月の実家にタクシーを走らせた。


 睦月の実家は、もうそれは凄かった。


 横浜の高台にあり、凄まじい豪邸だった。門から屋敷まで距離があり、噴水なんかもあったりする。白亜の豪邸は、歴史を感じさせる作りではあったが、古くさいわけではなく、きちんと管理修繕され、内装は今流行りにリフォームされていた。


 睦月も葉月も実家だからか、特にインターフォンを鳴らすでもなく、ずんずん中に入って行く。


「モニターで管理しててね、顔認識で鍵があくの。便利よね」


 桐子が夏希の腕をとり、一緒に屋敷に入って行く。


 屋敷に入ると、執事のような格好をした老人が、睦月達を出迎えてくれた。


「葉月様、睦月様、お久しぶりでございます」

「村井、元気か? 」

「はい、ぼっちゃま方」

「ぼっちゃまは止めろ。俺はもう二十八だし、兄貴に至っては、三十四のじじいだぞ」

「おい、おい。まだ同じアラサーだろ」


 小突き合っている兄弟に目を細め、村井は桐子に頭を下げる。


「桐子様、明けましておめでとうございます」

「おめでとう」

「夏希様、お初にお目にかかります。私、村井と申します」

「初めまして。如月夏希です」

「村井は、うちで一番の古株だ。おふくろの片腕でもある」

「奥様が、パーティールームでお待ちになっております」


 パーティールームとは、屋敷と外廊下でつながった離れのことで、百人くらい収用できるくらいの広さのあるホールになっていた。


 村井の案内でパーティールームにつくと、そこは新年の挨拶にきた人達で溢れかえっていた。

 男性はスーツ姿から袴姿まで、男性に寄り添う女性はだいたい晴れ着姿だった。


 なるほど、桐子が振り袖を持ってきてくれて良かった。


「葉月さん、睦月さん、明けましておめでとう。桐子さんに夏希さんも」

 華やかな晴れ着を着た睦月の母親が、初老の男性の腕に手をかけてやってきた。

「おめでとうございます」

 桐子と夏希は頭を下げる。

「あなた、夏希さん。睦月さんのお嫁さんになるのよ」

「君が。初めまして。睦月の父親の大悟です」


 睦月の父親!?


 イメージしていたのと、明らかに違いすぎた。

 すっごいイケメンダンディーな初老の男性なんだろうと、勝手にイメージしていたが、目の前にいるのは、皐月と目は似ているものの、人の良さそうな可愛らしいおじさまだった。

 とても、浮気しまくって十一人外に子供を作った人には見えない。しかも、この間十一人目が生まれたバリバリ現役の人には……。


「初めまして……。如月夏希です」

「睦月さん、夏希さん。あなた達ついてらっしゃい。みなさんに紹介するから」


 それからは、地獄のようだった。

 もう、何人の人と挨拶したかわからない。ひたすら、睦月の母親に連れ回され、睦月の婚約者として紹介された。


 睦月は、途中で友人に声をかけられいなくなってしまい、夏希は睦月の母親の後をついて回るしかなかった。


「お疲れ様、疲れたでしょう? 」


 すでに夕方、夏希は昼御飯を食べることなく、慣れない着物でずっと立ちっぱなしだった。

 睦月の父親の大悟が、夏希に食事の乗った皿と、オレンジジュースを持ってきてくれた。


「こっちおいで。座って食べようね」


 自然と手をとり、奥まったところにあるテーブルに夏希を連れてきてくれた。


「ごめんね、うちの奥さんパワフルだから。疲れたでしょう? 」

「いえ……、沢山の方に紹介していただいて、嬉しかったです」


 実際、睦月の嫁になる子だと紹介してもらい、凄く嬉しかった。中には、綺麗な娘さんを連れてきている人もいて、明らかに睦月狙いだとわかった。夏希を紹介されると、明らかに落胆していたから。


「君はいい子だね」


 大悟に見つめれ、ニコッと微笑まれると、凄く癒される気がする。

 睦月といる時のようにドキドキはしないが、ホッコリとするような、そんな癒しのオーラを感じた。


月子つきこちゃん、ああ、うちの奥さんね、凄く頑張りやさんで、何でもできちゃう人だから、ちょっと気づかいが足りない面もあってね。でも、悪い人じゃないんだよ。仲良くしてやってね」


 両手を包み込むように握られ、お願いされてしまう。

 嫌な気がしないのは、大悟が睦月の父親だからか、大悟の持っている雰囲気のせいか……。


「私のほうこそ」


 何だろう?

 パーソナルスペースにスルッと入ってくるような、人に警戒心を全く与えない人間っているんだな。


 手を握られたまま、そんなことを考えていると、後ろから腕を引っ張られた。


「親父、俺の女に手を出すな。油断も隙もねえな」

「睦月さん、そんなんじゃ! 」


 夏希は、睦月にムッとする。自分は途中でトンズラしてしまったくせに、気を使ってくれた大悟に何てことを言うんだ! と、表情で訴える。


「ああ、悪かった。ほったらかしにして。俺も俺の挨拶回りがあったもんだから。そんなにふくれるな」


 睦月は、夏希の頬っぺたを両手で挟み、プニプニ押した。


「睦月君、そろそろ夏希ちゃんを連れて帰ってあげなさい。凄く疲れているはずだよ。タクシーなら、屋敷の前に、スタンバイしてるはずだから」

「ああ、わかった。おふくろには上手く言っといてくれ。あと、美月は? いないんだけど」

「美月君は、友達とスキーに行ったみたいだよ」

「なんだ、学生は自由でいいな。わかった、今度夏希を紹介するからって、伝えといてくれ」

「わかった。伝えとくよ。じゃあ夏希ちゃん、また今度ね」


 差し出された大悟の手をつかもうとして、またもや睦月に引っ張られる。


「親父に触ったら、孕まされるぞ! 」

「バッカじゃない? 」

「本当だって」


 夏希は、呆れたように睦月を見ると、大悟にお辞儀をして帰ることにした。

 睦月の母親には悪いが、つかまらないようにこっそりパーティールームを出る。


「疲れた……」


 タクシーに乗ると、どっと疲れがでてきて、身体が重くなる。

 家政婦を長く職業にしてきた夏希は、それなりに体力はある方だと思っていた。


 でも、今日はちょっと……。


 寝ていないのもあり、疲労で目が開けてられない。

 夏希は、睦月に寄りかかって目を閉じ、次に目を開けたときには、家についていた。


「ついたぞ」


 揺り動かされ、なんとか目を開ける。

 夏希は、睦月に寄りかかるようになんとかマンションに入り、自宅のドアをくぐる。


 もう、このまま横になってしまいたい……。


 夏希は、残った力を振り絞り、振り袖を脱いで着物用の衣紋掛けにかけ、頭の飾りを外す。

 指輪をしまい、化粧を落とすために風呂場へ向かう。


「肌襦袢も色っぽいな」


 すでに私服に着替えた睦月が、夏希の後ろからついてきた。

 化粧を落とす夏希の後ろから、肌襦袢の中に手を入れてくる。


「睦月さん、今日はもう……」


 そりゃ、夏希も睦月と昨晩の続きをしたかったが、今はそれ以上に眠いし疲れているし。

 けれど、疲れているせいなのか、昨晩よりも夏希の感度は上がっていて……。


 なんとか化粧をおとし終わり、睦月の愛撫から逃れるようとするが、身体は全く動かない。


「睦月……さん。やだ……」

「俺の寝室に連れて行くぞ」


 夏希の部屋は、布団を片付けていたから、睦月は自分のベッドに夏希を抱き上げ連れて行った。

 夏希をベッドに寝かせると、睦月は自分の洋服を脱ぎ、乱れた夏希の肌襦袢も脱がせた。


「夏希? 」


 夏希は目を閉じて、動かない。かすかに寝息すら聞こえる。


「嘘だろ?! 」


 睦月は、なんとか夏希を起こそうと、揺さぶったり軽く腕を叩いたりした。

 しかし、睡眠薬でも飲んだのか? というくらい爆睡状態の夏希に、睦月は自棄になったように身体を重ねた。


「いいか? 挿れるぞ」


 恋人なわけだし、昨晩は同意で挿れる手前まではいったし、あのまま邪魔が入らなければ、もちろんやっていたわけで……。


 睦月は意を決して事に及ぼうとし、夏希の眉がキュッと寄るのを見て慌てて離れる。

 ほんの一センチも入ってはいない。


「やっぱ……、これはダメだよな」


 睦月は、夏希を抱きしめて、ため息をついた。


 目の前で、好きな女が素っ裸で寝ている。

 これで我慢できる男がどこにいるんだ?


 睦月は、ハアッと息を吐くと、とりあえずトイレに向かった。


 ああ、もう、中学生かよ!

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