第23話 ハッピーニューイヤー

 三十一日、夏希の母親信子は、夕飯前に帰ると言い出した。

 一緒に新年を迎えませんか?と、睦月も夏希も誘ったが、二人の邪魔はしたくないからと、睦月によろしくお願いしますと、深々と頭を下げてから帰っていった。


 夏希は、おせち料理の準備で忙しく、睦月は書斎にこもって仕事をしなければならず、バタバタしている間に新年を迎えた。


「睦月さん! 大変! 」


 夏希は、書斎の扉を叩いた。


「どうした? 」


 睦月は、何事か?! と慌てて書斎から出てくる。


「新年になっちゃった! 」


 本当は、睦月とイチャイチャしながら新年を迎えたかったのだ。

 それが、信子の訪問で、大掃除やおせちの準備などが押せ押せになってしまい、気がついたときには除夜の鐘は鳴り終わり、テレビではみなハッピーニューイヤー!と叫んでいた。


「そう……か。ヤバイな、仕事で新年を迎えるなんて……。もう仕事は止めだ! 初詣でも行くか? 」

「うん! 」

「その前に……」


 睦月は、夏希の腰に手を回す。


「明けましておめでとう。今年もよろしく」

「明けましておめでとうございます」


 睦月は、唇を押し当てるように夏希にキスをする。

 夏希も、わずかに唇を開いて、睦月の唇を噛んだ。

 しばらく、濃厚なキスを繰り返し、新年の挨拶を満喫する。


「初詣に行く前に……いいよな? 」

 睦月は、身体を夏希に密着させてきた。夏希のお腹辺りに、睦月の固い物が当たる。


 つまりは、初H?!


 夏希は、こくんとうなづき、睦月に抱きついた。


「どっちの部屋がいい? 」

「私の……。でも、先にお風呂に入りたい」


 睦月の部屋は、毎日夏希が綺麗にしているとはいえ、他の女も入った部屋だ。そこで初Hは、やはり気持ちがのらない。


「よし! 」


 睦月は、夏希をお嫁さん抱っこをすると、風呂場に運んだ。

 抱き上げている最中もキスを交わし、脱衣所につくと夏希を下ろした。睦月はまず自分の衣服を脱ぎ、それから夏希の衣服も脱がせる。

 お互い下着姿のまま抱き合い、キスをする。

 睦月が、夏希の下着を脱がせようとしたとき、夏希はその手を止めた。


「恥ずかしいから、自分で脱ぐ。あっち向いてて」


 睦月が後ろを向いたのを確認して、夏希も後ろを向いて、下着を全てとった。

 睦月が後ろから優しく抱きしめてくる。


「ずるい。まだ見ていいって言ってない」

「我慢できると思うか? 」


 睦月はすでに下着を脱いでいて、背中に当たる物は、さっきよりも固く大きくなっていた。


 こんなの、入るんだろうか?


 今まで付き合った男のモノを触ったことがない訳ではない。触らされた……というのが正しいが、そのどれよりも大きいような。


「あんまり、刺激するなよ。我慢も限界なんだから」


 二人で風呂場に入り、お互いの身体を洗いっこする。

 最初は恥ずかしくて、睦月の裸体を直視できなかった夏希も、睦月の頭を洗い、身体を洗い、全てを洗い終わったときには、睦月の全てが愛しく、睦月の股関の物さえ可愛く思えた。


 あんなに、気持ち悪く、見るのも触るのも嫌だと思っていたのに。


 睦月があまりに自然で、洋服を着ている時と同じようにふるまい会話するものだから、夏希も全裸でいることを忘れて、緊張もほぐれて笑顔さえでるようになった。


 風呂に入ること自体が二度目だったのも良かったのかもしれない。夏希を触る手がいやらさがなかったのも、より夏希をリラックスさせた。


「寝室、行くか? 」


 のぼせそうになるくらい湯船に浸かり、二人で会話しながらたまにソフトに触れるだけのキスをしていた。夏希の緊張がすっかりほどけたのを確認した睦月は、初めて風呂場の中でディープなキスをして、夏希を誘った。

 夏希も睦月のキスを自然と受け入れ、トロンと潤んだ瞳を細めてうなづいた。


 睦月は、夏希にキスをすると、バスローブを持ってきて、夏希をくるみ、自分もバサバサと荒っぽく拭き、素っ裸のまま夏希を抱え上げる。

 夏希の部屋に入り、布団の上に夏希をおろした。

 もう、こうなると我慢する必要を感じなかった。ただ、あまりにがっついては、夏希が恐怖を感じてしまうかもしれず、そこは細心の注意をはらわなければならない。


「寒くないか? 髪の毛、乾かそうな」


 焦る気持ちを押さえつつ、夏希をドレッサーの前に座らせ、ドライヤーをかける。


「風邪引いたら大変だからな」


 そういう睦月は、相変わらず素っ裸のままなんだが……。


 すっかり夏希の髪の毛が乾いたとき、睦月は盛大にくしゃみをした。


「やだ、睦月さんが風邪引いちゃう」

「夏希が温めて」


 睦月が夏希の手をひいて、布団に誘った。


 布団の上でバスローブを脱がし、二人で布団の中で抱き合う。


「あったけえ……」


 睦月の身体はすっかり冷えていて、夏希はしっかりと抱きついた。


「お風呂に入った意味ないじゃない」

「意味は……あるな。次は素手で洗いっこしような」

「やだ、バカ……」


 恥じらう夏希を見て、すっかり萎れていた睦月の物が元気になる。

 お互いにキスを繰り返し、気分が最高に盛り上がってきたその時、インターフォンが鳴った。


「どこのバカだ? 」


 時間は夜中の二時過ぎ、元旦で一晩中電車が動いているとはいえ、こんな時間に訪問者とは……。


 何度もしつこくチャイムが鳴らされ、イラついた睦月は、クソ!っとつぶやきながらバスローブを羽織り、玄関に向かった。


「ハッピーニューイヤー! 」


 玄関で桐子の声がした。

 夏希は慌てて洋服を着ると、自分も玄関に向かう。


 玄関には、晴れ着姿の桐子と、荷物を持った葉月が立っていた。

 睦月は、不機嫌そうに二人を睨んでいる。


「明けましておめでとうございます」

「おめでとう。中入っていい? 」

「もちろん、どうぞ」


 夏希がスリッパを出すと、二人とも中に入ってくる。


「睦月さん、着替えてきて。私、お相手してるから」


 納得いかなそうに立ちすくむ睦月に、こっそり耳打ちして、夏希は桐子と葉月をリビングのソファーに案内した。


「お酒、大丈夫ですか? 」


 葉月に聞く。


「大丈夫よ。タクシーで来たから」


 桐子が答えた。

 夏希は、とりあえずビールを出し、おせち用につくっておいたお重を並べた。


「うわお! 手作りのおせち? 」

「少し早いですけど……」

「いいの、いいの、もう新年だから。葉月が、夏希ちゃんの料理美味しいって言ってたから、食べたかったの」


 桐子は、おせちを頬張り、美味しいと破顔した。


「おせちって作れるのね。取り寄せる物だと思っていたわ。高いホテルのでも、あんまり美味しくないのよね。手作りはいいわ。本当に美味しいっ! 」


 そこに、私服に着替えた睦月がやってきた。


 仏頂面はそのままだ。


「悪いな、夜中から。桐子さん、思い立ったらすぐ行動する人だから……」


 葉月は、なんとなく睦月の不機嫌の原因を察してか、睦月にゴメンと手を合わせる。


「別に……。で、何だよ。おせちを食いにきたのか? 」

「むっちゃん、新年の挨拶に夏希ちゃんを連れてくるように言われていたでしょ? あなた、夏希ちゃんの振り袖は用意してあるの? 」

「いや、……ドレスじゃまずいか? 」

「まずいわよ! だから、私のお古だけど振り袖持ってきたの。あと、小道具もね」


 葉月が持ってきたのは、着物だったわけだ。


「私、着付けできません」

「だから、私も来たのよ。着付けはもちろん、メイクからへアセットまで任せてちょうだい。ばっちり可愛くしてあげるわ。じゃあ、夏希ちゃんの部屋に行きましょう」


 夏希の部屋に向かおうとした桐子を、夏希は慌てて止めた。


「あ、待って! 今、片付けてきます。お布団敷きっぱなしなんで」

「あら、いいのに」

「もう少し、おせち食べてて下さい」


 夏希は、慌てて部屋に入る。


 あと少しで……。


 乱れた布団を見て、さっきまでここで睦月と裸で……と、思い出す。

 本当に、あと五分、あと五分あれば、睦月を迎え入れられたはずだった。準備万端、夏希の身体は睦月を受け入れられる状態になっていたから。

 まあ、始めていたら五分じゃ終わらないが、未経験の夏希にしたら、後少し時間があれば……と、残念な気持ちになる。

 夏希はため息をつくと、布団を片付けて桐子を部屋に招き入れた。


 夏希より納得がいかないのは、もちろん言うまでもない。リビングで葉月の相手をしている睦月である。

 睦月は、今晩こそは! と、決意を固めていた。

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