クリスマスになるとデパートの中に突然現れる濡れた海水パンツ、というどこかシュールでどこか不気味なアイテムが非常にユニークで、一気に惹きつけられました。
さらにその後に出てくる「彼女はもう二十年間、三十四歳なのだ」という一人の主婦によって、物語に対する興味はますます駆り立てられます。
この季節外れの海水パンツと時が止まったままの主婦という、クリスマスとは本当に縁遠い異色の存在を組み合わせ、見事なクリスマスストーリーに仕上げている点がお見事です。
今回の企画は、「クリスマス」と「クリスマスと縁遠いもの」という正反対な二つの題材のバランスをどう取るかが非常に難しい内容だったのですが、本作はこの二つを見事に両立させている点がお見事でした。
(クリスマス×あなたが考えるクリスマスともっとも縁遠いもの/文=柿崎 憲)
ホラーな現象はさておいて、この主婦にドキッとする34歳は、たくさんいるかも知れない。実にリアルだと思う。
実際は、一番働き盛りなのだと思うのだが、伸び盛りが過ぎ、もう若くはないことに焦りを感じ、自分の限界を考えるようになり、忙しさの中、自分がなしえなかった夢を子供に押し付けたくもなる年頃だ。
そして、55歳は子供から解放されて自分を取り戻す頃じゃないかな?
華やかなデパートという舞台の中、階段の踊り場は取り残された場所だ。
エスカレーターに買い物袋を下げた人が連なるのに比べ、昔の人とは違い健脚ではない今の人はあまり使わない。あってもなくても構わないような、人気の少ない場所。
そこをヒタヒタと登って行く海水パンツというのは……やはり、ホラーだろう。(笑)