第91話 ポリタンク作戦
12階層にある三差路から左に行った先にある部屋で、キャタピラーという毛虫型モンスターと、組んずほぐれずしながら、緑色の体液でグチャグチャになりながらも、敬太は戦闘を続けていた。
地面にはキャタピラーの傷口から撒き散らされる緑色の体液で溜まりが出来、ヌルヌルと泥濘んでしまっているし、粘度の高い体液は敬太の鎧にもべったりと付いてしまっている。その様子は、ヌルヌルトレジャーハンターの様に誰得の地獄絵図となっていた。
「ゴルは下がってて!」
敬太がそんな状態になりながらも、必死に槍を突き出し戦っていると、ゴルもやる気になったのか、前に出てきて攻撃に加わろうと尻尾を逆立て、迫るキャタピラーを威嚇していた。
敬太と一緒に戦おうとしてくれる気持ちは嬉しいが、ゴルとキャタピラーとでは体格差もあるし、キャタピラーの全身に生えている枯れ枝の様に硬い毛が邪魔をしてダメージを与える事は出来ないだろう。
それに、キャタピラー達の押してくるチカラが何気に強い。5体合体ゴーレムの大きさは3mあり、それに対しキャタピラーは2m程度の大きさなので1対1ならば押し負ける事は無いが、キャタピラー達はまだ30匹以上いて、数のチカラで押してくるので、徐々に通路へと押し込まれつつある。
既に全てのゴーレムを前衛に回し、部屋の出入り口から通路に押し込まれない様に粘っているが、時間の問題だった様だ。
「ダメだ!一旦下がろう!」
ゴーレム達に壁になってもらい、敬太は一方的に攻撃できるのだが、槍の一突きでキャタピラーは倒れてくれず、4回~5回と何度となく槍を突き刺し、緑色の体液を辺りに撒き散らさないと倒れてくれない。
そうすると、そうやって手こずっている間に、グイグイとキャタピラーに押されゴーレム達の隊列を崩され、危うい状況になってしまいそうになる。
「くそ!・・・奥突き!」
孤立してキャタピラー達の波に飲まれそうになってしまっていたゴーレムを助ける為に、仕方が無く、先程買ったばかりの3千万円の刺突系のスキルを使った。
すると、高速回転させた槍が鋭く突き出され、キャタピラーの体の奥深くまで刺ささっていき、ぽっかりと大きな穴を穿っていた。その穴は人が入れそうなぐらい大きな穴で、キャタピラーの体を大きく削り取っていた。
動かなくなったキャタピラーの体から槍を引き抜くが、緑色の体液を飛ばす事無く、紫黒の煙を吐き出していた。
折角手に入れた、新しいスキルなので、試し打ちも兼ねて使ってみたが、その威力は申し分なく笑みがこぼれる程だったのだが、消費MPも30とバカ高かった。MPを温存する為の接近戦だったのだが、仕方があるまい。
「よし!ちょっと下がるよ!」
敬太がスキルを使って得たスペースに、孤立しそうになっていたゴーレムが戻って来たので、そのまま後退をし始めた。
通路の中は少し狭いので、槍を振り回しにくいだろうと頑張って出入り口付近に陣取っていたのだが、無理をしてゴーレムの隊列を崩されてしまったら敬太が危なくなる。無理は禁物だ。
通路の中まで後退してくると、ゴーレムの壁が横に広がらなくていい分、厚みが出来て、キャタピラーに押し負け無くなっていた。そこで、ふと気が付いた。
この車が1台だけ通れるぐらいのトンネルの様な通路。この中ならば、キャタピラーに押し負けず、ポリタンク作戦を行えるのではないのだろうか?
幸い、部屋の中に居たキャタピラーは、全部敬太に敵意剥き出しで迫って来ている。
敬太はモトクロスバイク用にガソリン携行缶を3本だけ「亜空間庫」に入れていたのを思い出し、それらを地面に撒いて行く。12階層でもポリタンク作戦をするとは思っていなかったので、ポリタンクは用意してなかったのだ。
携行缶3本分の60ℓのガソリンを撒いたら、その位置にキャタピラーが来るように、ゴーレム達を更に後退させ、敬太とゴルはそこから20mぐらい後方に離れ、三差路に分かれている通路まで出てきていた。
「行くよ~!火玉!」
今度は十分にガソリンを撒いた場所から距離を取っていたので、魔法を使った瞬間に爆発するようなことは無く、しっかりと「火玉」が着弾してからボワアアアっと通路の中に炎が上がった。
狭いトンネルの中で列を成して、敬太を敵視し部屋の中から追いかけていたキャタピラー達は、元々枯れ枝の様な毛が燃えやすいのか、ガソリンと共に盛大に燃え上がり、炎の中で暴れているのが遠目からでも良く見えた。
「風玉!」
60ℓのガソリンと言っても2mぐらいの物を30匹近く燃やすには、少々火力が足らない様に見えたので、列の後ろの方にも炎が回る様に「風玉」で炎のチカラを底上げしてやる。
「風玉」が着弾すると、炎が勢いよく立ち上り、命を得たように動き出し、通路の天井を舐める様に這って行くと、後列のキャタピラー達に襲い掛かっている。
やはり「火」と「風」の相性はとても良い。2つを組み合わせると、1+1が5ぐらいに威力が増す感じだ。どんどんと後列のキャタピラー達もこんがりと仕上げて行っている。
やがて、激しく燃え盛っていた炎が治まっていき、紫黒の煙と共に消えって行った後には、微かに動く4匹のキャタピラーが残っていたが、敬太の槍によって止めを刺され、それらも消えて行った。
12階層でも、部屋に入ってキャタピラー達を通路におびき寄せるという一手間が必要だが、ポリタンク作戦が使える事が分かったので、今日の所は一旦戻り、後日沢山のポリタンクを持って出直す事にした。
翌日、午前3時55分。
100個のポリタンク、1800ℓものガソリンを改札部屋のオートリペアショップで買い、「亜空間庫」しまい持ち、11階層のカンガルーが居た階層で、ゴルと一緒に朝4時のリポップを待っていた。
いつもは、モーブ達に合わせる様に、朝の6時前後に起き出す生活リズムなのだが、新しい階層を攻略した後は、モンスターが何処にリポップするのかを調べる必要があるので、少し早起きして来たって訳だ。
11階層の真っ直ぐな通路に立ち、スマホの時計と睨めっこしながら4時を待つ。
ホテルの様に規則正しく通路の両脇に並んでいる6つの部屋の中の何処か1部屋からリポップするのか、それともバラバラにあちこちの部屋からリポップしてくるのか。
時計が4時を示した瞬間に敬太は「探索」を使い、辺りの様子を伺う。
すると右奥の部屋に赤い光点が出現していた。
「ゴル!行くよ!」
「ニャー。」
直ぐにゴルを連れだって反応があった右奥の部屋に駆け込むと、部屋の天井付近に紫色の霧が立ち込めており、異様な雰囲気を醸し出していた。
これは1階層で罠を作っていた時にも経験した事なのだが、この霧からモンスターがリポップしてくるのだ。
「亜空間庫」から5体合体ゴーレムを6体ほど出し、しばらく様子を見ていると、天井付近に漂っていた霧が集まりだし、その影が濃くなってくる。それらが次第に地面にゆっくりと下りて来ると、やがて形を成していった。
「グォーー!」
パッっと色が付く様に、紫の霧がカンガルーに変わったと思ったら、直ぐに近くにいた敬太に気が付いた様で、素早く襲い掛かって来た。モンスターとして産まれた瞬間から、しっかりとモンスターとして働く様だ。
出していたゴーレム達に壁をさせ、部屋の出入り口付近に陣取り、ミスリルの槍で応戦していく。1匹1匹、槍で突き、倒す度にカウントしていき、14匹目のカンガルーを倒すと部屋の中は静かになっていた。
もう一度「探索」を使い11階層の様子を伺ったが、他にモンスターの反応無く、今日の分のリポップを倒し終えた事が分かった。
どうやら、この1部屋にリポップしたモンスターが固まっていたという事なので、11階層は罠が仕掛けられる階層の様だ。9階層で止まっている電線を引っ張ってきて、蛍光灯を付けて回り、罠を仕掛ける。これまた忙しくなりそうだ。
その足で、そのまま12階層に向かい、持って来ていたガソリンでポリタンク作戦を決行する。
三差路の通路から、今度は右の通路に進む。そして、部屋に一旦顔を出してキャタピラー達の標的となり大勢を引きつけられたら通路に戻り、そこでゴーレム達に壁となって抑えてもらう。その隙にポリタンクをばら撒き「火玉」で着火して焼き尽くす。前回と同じ流れだ。
一部屋のキャタピラー達30~50匹に対して20個のポリタンクを使ってみたが、その量で問題なく殲滅させることが出来たので、同じ要領で中央の通路の先にある部屋も同様にして殲滅させた。
念のために、昨日全部倒した左側の部屋も見に行ってみると、そこには7匹のキャタピラーがいたので、こいつらも通路に引きつけ燃やしておいた。
この左側の部屋の、7匹という中途半端な数から考えると、やはり偶数階層はランダムにモンスターがリポップする可能性が高い様な気がする。
決まった一部屋からモンスターがリポップするならば、0か100なはずなので、7匹という数は、1日分のリポップとしては少ないと思うのだ。
まぁ、この辺の結論は、明日の朝4時には出るだろう。
12階層の各部屋から先へ伸びている通路は、1本の通路へと繋がっていて、三差路の何処から進んで行っても、この1本の通路に繋がるようになっていた。
そして、その先には13階層へと続く下りの階段があり、勢いのまま進んでしまおうかと思ったが、今日は早起きをしたので朝飯がまだだった事をグーっと鳴った腹が教えてくれた。
「朝ご飯にしようか。」
「ニャーン。」
敬太の足元を歩くゴルの賛同も得られたので、13階層へと続く階段の前で座り込み、朝食とした。
モーブ達のご飯も、朝、改札部屋を出る前にテーブルに置いて来ているので、今頃起き出した子供達と一緒に食べているだろう。
敬太はおにぎりと卵焼きと味噌汁。ゴルにはいつものカリカリと水を出す。
暗視スキルの「梟の目」は暗い所でも物が見えるのだが、ただ「見える」ってだけで、敬太の視界は暗視スコープを覗いている様な白黒の世界になっているのだ。それだと折角のご飯も味気なくなってしまう。なので、ランタンをひとつ取り出し、その小さな明かりの元でおにぎりを食べている。傍から見れば、かなり寂しい姿として映るだろうが、ゴルと一緒に食べているだけで、その辺は何とも感じないのだから不思議な物だ。
「ゴル、美味しい?」
「ニャー。」
ゴルの返事はいつも通りだ。ゴルも敬太と同じ様に感じてくれていたら嬉しいな。
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