第83話 ゴーさん
ダンジョンの入口からモトクロスバイクで走る事15分、そこからまた15分、そしてまた15分先へ。点々とストーンゴーレムの残骸で出来た山を残しながら、合計45分もダンジョンから離れた場所にゴーさん達は居た。
先日渡したリヤカーを使い、えっちらおっちらとストーンゴーレムの残骸を集めているのが見えてくる。
「お~い!ゴーさん!」
敬太がバイクで駆けつけると、いつもの様にゴーさんがシュタっと敬礼ポーズをして出迎えてくれた。
「いや~、思ったより進んでるからビックリしたよ。」
流石、24時間休む事無く動き続けられる、ゴーレム達ならではの進行速度だ。
敬太は早速、今日の分の「ゴーレムの核」をマジックポーションを飲み飲み作りだし、「亜空間庫」から取り出したアイアンゴーレムの残骸を使って、新しくアイアンゴーレムを生み出していく。
新しく生まれたアイアンゴーレムは、出来た傍からゴーさんに「同期」され仕事に取り掛かって行く。
これでアイアンゴーレムは65体になる。1日に10体ずつだが確実に増えていっているな。
敬太は周りを見渡し「ゴーレムの核」を抜かれて石の塊となっているストーンゴーレムの残骸を「亜空間庫」にしまっていき、いつもならばこれでゴーさん達に後は任せて帰る所なのだが、今日はもう一つ用事があった。
「ゴーさん、ちょっと来て。」
辺りが片付いたので、山を作る場所を先に進めようと移動し始めていたアイアンゴーレム達と一緒に、敬太の元を去ろうとしていたゴーさんを呼び止める。
サミー達に攻め入られてから、ゴタゴタと後片付けに追われていたので、すっかり忘れていたが、ゴーさんをバージョンアップしたかったのだった。
「亜空間庫」の中からサミー達が持っていた青みがかったミスリル製の武器や防具を取り出す。
モーブとも相談したのだが、まともに扱えそうなのがミスリルの槍しかなかったので、今回手に入れた物は全て、ゴーさんのバージョンアップに使ってしまう事にしている。
大ぶりな斧、体が隠せるぐらい大きな盾、籠手、胸当て2つ。
ごじゃっと地面の上に置くと、それなりの量がある様に見える。
手のひらに乗るぐらいの大きさの石でもストーンゴーレムとして動ける様になるので問題ないと思うのだが、一応確認を取っておく。
「ゴーさん、これだけ量があれば大丈夫?」
敬太が尋ねると、ゴーさんはシュタっと敬礼ポーズをして問題ない事を伝えてくれた。
今からやろうとしているのは、「ゴーレムの核」の移し替えだ。
1回だけゴーさんを石の体から鉄の体に移し替えた事があったのだが、やってから1年近く経っているので、記憶が少し怪しく、これもゴーさんに確認をする。
「え~っと、長押しすればいいんだよね?」
敬太に核の移し替えのやり方を聞かれたゴーさんは、短い腕を上げシュタっと敬礼ポーズをして、長押しで合っている事を教えてくれた。
ゴーレム達の作りは球状の塊が2つ重なった雪だるまの様な体で、それに短い手足が付いているだけの簡単な物だ。顔の鼻の部分には「ゴーレムの核」が半分だけめり込んでいて、弱点丸出しなのだが、それが気に入ってるのか、この形は体の素材が変わってもそのまま受け継がれている。
外に飛び出している弱点の「ゴーレムの核」を指で5秒程長押ししてやると、ポロっと核が顔から外れ、移し替えが出来る様になるのだ。
「1・・・2・・・3・・・4・・・5っと。」
ゴーさんを地面に寝かせ「ゴーレムの核」を長押しする。
ポロリと簡単に取れた、緑色の「ゴーレムの核」は敬太の手に握られ、ゴーさんだった鉄の体は、鼻の部分が抉られた様にへこんでいて、地面に横になったまま動かない。なんだか不思議な感じだ。
今度は、地面に置いてあるミスリルの盾に、外したゴーさんの「ゴーレムの核」を押し当てる。すると大した抵抗も無く「ゴーレムの核」はミスリルの盾に沈んでいき、見る見るうちに盾がドロリと溶け出し、周りの斧や胸当てなんかのミスリルの武具をも巻き込んで、ひとつのスライムの様な柔らかそうな物になり、そこからいつものゴーレムの形に変形して行った。
出来上がったゴーレムは敬太の腰ぐらいの高さで、少し細身な感じがする。やっぱり少し材料が足らなかったのかもしれない。
『鑑定』
ゴーさん(ミスリルゴーレム)
レベル 33
HP 109/109
MP 33/33
スキル 同期LV3 吸収LV3 通信LV3 変形LV3
森田敬太の使い魔
鑑定してみるとレベルが大分上がっている。
前に見た時は、レベル14とかその辺だったと記憶していたのだが、「吸収」で壊れたゴーレム達の経験値を吸いまくって、レベルが爆上がりしていた様だ。
一方、スキルの方はあまり変わった感じは受けない。飛びぬけた物は無く、かと言って劣った感じの物も無い。至って平坦な印象を受ける。
「どう、新しい体は?」
敬太の前で突っ立ったままでいるゴーさんに、新しいミスリルの体の感想を聞いてみると、思い出した様に腕や足をパタパタと動かし始め、具合を確かめている。
その様子は、子供が「やったー」っと新しい体に喜んでるようにも見えて、微笑ましかった。
ゴーさんが一通り体を動かした後にシュタっと敬礼ポーズをして問題がない事を伝えて来たので、敬太は足元に寝かせてあったゴーさんの抜け殻であるアイアンゴーレムを「亜空間庫」にしまおうとしたのだが、その時、ひとつのアイデアを閃いた。
「ねぇゴーさん。ゴーさんってさ、鎧とかバングルにスキル『変形』で形を変えられるでしょ?それでさ、その変形している時に『ゴーレムの核』を抜いたら体はどうなるの?」
壊されて動けなくなってしまったのでは無く、意図的に「ゴーレムの核」を抜いて鉄の体と分離させたのに、残された鉄の体がゴーレムの形を保ち続けているのが敬太の想像外で不思議な感じがしたのだ。そして、それは門作りに生かせるのではないかと思い付いたのだ。
喋る事が出来ないゴーさんが、イエス、ノー以外の考えを敬太に伝える時は、スキル「通信」でイメージを伝えてくる。
本来は離れた場所に居るゴーレム同士で意思の疎通を図るスキルなのだが、ゴーさんはそれを応用して、自分の考えをイメージとして敬太の脳内に直接送り込んで来るのだ。
「なるほど、『変形』で形を変えた時は、形が変わったまま残るんだね?」
敬太が脳内に流れ込んできたイメージに間違えないか、ゴーさんに確認を取ると、ゴーさんは勢いよくシュタっと敬礼ポーズをした。
早速行動に移すべく、先に進んでしまっているアイアンゴーレムの中から20体を呼び戻してもらい、「亜空間庫」に入れたら、モトクロスバイクに跨り、ダンジョンの入口まで戻って来ていた。
「ゴーさん、こんな感じにしたいんだけど、出来るかな?」
門を作る予定の場所で、敬太はしゃがみ込みスマホの画像をゴーさんに見せ、どの様な門にするのか話をする。
ここ数日「門」については色々と調べまくっていたので、あれこれと案があるのだが、まずはゴーレム達の「変形」スキルはどの程度の細工の物なら作れて、どの程度の仕上がりになるのか、その辺りも見て行かないとならない。
門扉と言えば蝶番。
今回の門は頑丈に作りたいので、それに合う頑丈な蝶番が必要になるだろう。
「それで、こうやって中に1本棒を入れて・・・。」
ゴーさんにスマホの画像を見せながら蝶番の構造を教えると理解したのか、直ぐにドロリと溶け始め、スキル「変形」を使って大きな蝶番に変わっていった。
敬太は地面に倒れたままの、ゴーさんが擬態している蝶番を持ち上げ、ガチャガチャと開け閉めして動きに問題が無いかを確認した。
「うん。大丈夫そうだね。それじゃこの蝶番を使って観音開きの門を作ってみてくれる?まずは敷鉄板1枚分の厚みの扉でテストしよう。」
敬太は、連れて来た20体のアイアンゴーレムを「亜空間庫」から出しながら、門作りの指示を出した。すると蝶番に変形していたゴーさんがドロリと元のゴーレムの姿に戻り、敬太が出したアイアンゴーレム達と「同期」をし始める。
お互いの鼻の部分に埋め込まれている「ゴーレムの核」を、ちゅーをする様にくっつけ合うのが「同期」スキルを使う時の仕草なのだが、結構可愛らしい動きなので敬太のお気に入りのひとつとなっている。
しばらくゴーレム達の様子を眺めていると、「同期」が終わった4体のアイアンゴーレムが歩み出てきて、同時にドロリと溶け出し大きな塊となったと思ったら、そこから滝の様に上に伸びて行き、通路を塞ぐ一枚の壁となり、あっと言う間に門が出来上がっていた。
「はぁ~凄いな。」
ゴーレム達が、鎧やバングルに変形するのは知っているので、門が作れるだろうとは思っていたのだが、実際に作られていく様子を目にすると、その再現性の高さに驚いてしまう。
敬太がゴーさんにスマホで見せた通りの観音開きの門で、教えた通りの蝶番が使われている。扉の大きさは敷鉄板1枚サイズで、それが2枚あって観音開きの門となっている。全て鉄で出来ているので、扉の重さも敷鉄板と同じで1枚800kgはあるだろう。
このサイズ、重さでもちゃんと扉が開け閉め出来るか確認をすると、かなり重いが、動きに問題は無く、しっかりと扉を開け閉めする事が出来た。
これを自分の手で作るとなったら、どれだけの時間と手間がかかるか想像もつかない程の完成度だった。
とりあえず、テストが上手くいったので、今度は本番だ。
連れて来た20体のアイアンゴーレムで門を作る様に指示を出した。
「良し!それじゃあ今度は、ここにいるみんなで門を作ってみて。」
敬太の声を合図に、門となっていたアイアンゴーレムがドロリと溶け出し、4体のアイアンゴーレムに一旦戻ると、ゴーレム達が一か所に集まり出し、20体のアイアンゴーレムがタイミングを合わせる様に、全員で一気にドロリと溶けた。
その様子は正に圧巻で、凄い量の液体状の塊が蠢き、徐々に形を成していく。
スライム状の物が地面から持ち上がり、天井まで到達すると、ダンジョンの通路を完全に塞ぎ、丸みを帯びていた表層が平になって行く。それから次第に門扉の形が浮かび上がり、蝶番などの細かい場所も水面から浮かび上がる様に、はっきりと形作られて行った。
「うほーー!」
出来上がったそれは、正に壁。
試しに手で叩いてみたが、パチパチと敬太の手が音を出すだけで、門には一切響いてない。その感触だけでも物凄い厚みがる物だと分かる。
問題はこの分厚い門を開け閉め出来るのかだけど・・・。
敬太は前傾姿勢になり、思いっきりチカラを入れて扉を押した。
だが、扉はピクリとも動かず、とても動かせる様な感じでは無かった。
「う~ん。やっぱり動かせないか。」
頑丈な門を作れたのは良いが、これをどうやって動かせばいいのか。
敬太は門の前で腰に手を当て、考えを巡らせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます