第84話 門作り3

「さて、どうしたもんかね。」


 敬太の目の前には、アイアンゴーレムで作り出した門がある。それは、とても重厚に作られていて、人のチカラでは動かせそうな気配すら感じる事が出来ない。


 この問題を解決する方法は二通りあるだろう。


 一つは、人力で動かせるまで扉の厚みを減らしていく方法。

 もう一つは、何か動力を付けて強引に扉を開け閉めさせる方法。


 正直、厚みを減らしていく方法は、折角ゴーレムのおかげで頑丈そうな門を作れたのに、その頑丈だと言う良い所を潰してしまう方法なので、出来れば避けたいのだが、現実的に考えれば、厚みを減らしつつ何かしらの動力で開け閉めする事になるだろう。

 

 滑車や電動ウインチなんかを、何十個と設置し、チカラづくで扉を開閉させる装置を作りだす事は出来るだろうが、いちいち出入りの度にウインチを作動させ、滑車の鎖を巻き上げたりして、一仕事しなくてはならない様な門は、実用性に欠けるだろうし、絶対に面倒だと思う様になってしまう未来が見える。

 実用性と防御力、どちらも大事だし、どちらも足らないと使い勝手が悪くなってしまう。


 過ぎたるは猶及ばざるが如しか・・・。


「ん~どうやって開ければいいんだろうね・・・。」


 巨大過ぎる門の前で、どうやっていい塩梅に持って行けばいいのか思案し、誰に話すではなく、なんとなく独り言ちていた。


ゴギギギ・・・。


 すると突然、金属が擦れる様な音が辺りに鳴り響き、分厚い鉄の扉が勝手に動き出していた。


 驚いた敬太は、辺りを警戒し「探索」を使って敵影を探したが、スキルが届く範囲には何の影も無く、あれ?っと首を傾げたが、よくよく考えればこのクソ重い門を動かす事が出来る可能性があるのは、それを形作っているゴーレム達だけだという考えに至り、肩のチカラを抜いた。


「もしかして、ゴーさん扉の開け閉めって出来るの?」


 一応、確認の為に敬太の隣で突っ立ってるゴーさんに話しかけると、直ぐにシュタっと敬礼ポーズをしたので、どうやら犯人はゴーさん達で間違いなかった様だ。


 まだ門から「ゴーレムの核」を抜いていない状態なので、単にゴーレム達が変形している門ってだけなので、ゴーレムが体を動かす様にして、門の扉も動かしたのだろう。


 言わば「ゴーレムの門」だな。


 この様なゴーレムの運用の仕方もあるんだなと、ゴーレムのさらなる可能性に敬太はひとりニヤつきながら、門の扉がゆっくりと開いて行く様子を眺めていた。



 

 結局「ゴーレムの核」を抜かずに「ゴーレムの門」のままで置いておく事で、ヒジまでの長さぐらいの厚みがある、大銀行の金庫室の様な鉄の扉の開け閉めを行う事が出来、ここ数日頭を悩ませていた「門」の問題はあっけなく解決した。

 また、門の開閉はゴーレムの判断によって行われるので、高性能な識別機能が付いた自動扉となり、これまでの原始的な門から飛躍し、圧倒的な防衛力を手に入れたのだった。


 

 その後、改札部屋に戻り、「ゴーレムの門」をダンジョンの入口に作った事、その門はゴーレムで出来ているので「開けて」と言えば門が勝手に開く事を伝え、モーブ達にダンジョンの中に行かない様と言いつけていたものを解除し、ダンジョンの中ならば自由にしていいという事にした。


 それと、崖の門の方の様子はまだ見て来てないし、多分壊されてしまっているだろうからダンジョンの外へは子供達だけで出て行かない様にとも言っておいた。




 夜になって子供達が寝てからは、改札部屋前の小屋に行き、ご飯を食べる様になって幾分元気になったが、ちょっと臭いサミーの世話をした。


「調子はどうだ?」

「・・・ずるずるずる。・・・モグモグ・・・ぼちぼちっすね。」


 相変わらず素っ裸で、手錠を手首と足首に嵌められたまま、敬太が「デリバリー」で買って来た、うどんとかやくご飯のセットを器用に頬張りながら頭がギトギトのサミーは答えた。

 

 もっと「尊師の聖水」の効果があって信用出来るような態度ならば、改札部屋に連れて行ってお風呂に入ってもらってもいいのだが、「尊師の聖水」は効いているのかいないのか良く分からないし、ハンガーストライキをやっていたのも敬太の信用ポイントを大きく下げているので、とてもじゃないが改札部屋に入れる気は起きない。


「モグモグ・・・もうちょっとパンと肉を多めに置いていってくれてもいいっすよ。」

「あっそう・・・。」


 その上、出てくる言葉がこれだ。

 なんだか助けた事を後悔しそうだ。


 敬太としてはエロい事が出来なそうな時点で、もう何処へなりとも好きに行ってくれて構わないのだが、モーブからすれば隠れ暮らしている情報が洩れる可能性があるならば殺した方がいいとなってしまうだろう。

 さすがに、一度助けてしまった手前「世話が面倒だから死んでください」とも言える訳が無く、頭を抱えてしまいたくなる。


 ウサギの子の事もそうだが、殺されるのを黙って見ていられずに、簡単に助け過ぎているのだろうか?



 この日はちょっとへこみながら、多めの食料と汗拭きシートを小屋に置いて、改札部屋へと帰ったのだった。





 

 「ゴーレムの門」を作ってダンジョン内の安全を確保出来た次の日からは、ダンジョンの外の雑木林に散らばっているストーンゴーレムの残骸の片付けを、ゴーさん達に完全に任せて、敬太は1階層の「蜂の巣部屋」の罠の修復に取り掛かる事にした。

 修復と言っても、罠はサミー達によって滅茶苦茶にされてしまっているので、またいちから作り直す感じになる。


 いつもの様に午前中はリポップしたモンスターを倒して回って、作業自体は午後からの半日だけとなってしまうが、今はもう敬太やモーブを追ってダンジョンの中に入って来れる奴なんていないのだから、焦る必要はない。ゆっくり行こうではないか。


 1階層のニードルビーが湧き出る部屋は、コンビニぐらの広さがあり、その中にニードルビーが逃げられないぐらいに隙間を詰めた電気柵を張り巡らすのだが、1km近い長さの電線を支柱に引っ掛けていき、その際他の電線に触らない様にもしなければならないので、結構大変なのだ。


 罠を壊された時に散乱していた、折れた支柱や切れた電線なんかは、既にニードルビーを狩るついでにちょこちょこと片付けていたので、今の「蜂の巣部屋」は綺麗になっていて、直ぐに罠の設置に取り掛かる事が出来た。


 部屋の端に電線を引っ掛ける為の支柱をハンマーで打ち込み、するすると電線を引っ掛けて行く。

 頭を使い、なるべく電線と電線の間の隙間が開かない様に気を付けたり、次の支柱を打ち込む場所を考えたり、広い部屋の中なのにチマチマとした作業を続けた。




 夕方のご飯の時間には、さっさと改札部屋に戻り、次の日の作業も午後からって具合でやっていると、「蜂の巣部屋」に再び罠が張り巡らされた頃には、既に3日が過ぎていた。

 

「良し!完成だ。後は明日の朝ちゃんと動いているか見に来ればいいな。」

「おっちゃん、完成したのか?」


 何故か敬太の後ろには、ゴルと遊びながら作業を見ていたクルルンが居て、終わったかどうかを尋ねてくる。ダンジョンの中は自由にしていいと言ってあるので構わないのだが、暇なんだろうか?暇なんだろうな・・・。


「そうだよ、これで完成。この電線に触ったらダメだからな、ビビビビって痺れちゃって死んじゃうから。」

「えええ!死んじゃうの?じゃあ触らない!」


 犬族の獣人のクルルン。頭の上に生えている茶色い耳をペタンと下げ、お尻に見え隠れしているフサフサの尻尾がだらりと垂れ下がった。

 やはり犬族なだけあって、クルルンは心持が素直で扱いやすい。

 ちなみに妹分のテンシンは狸族で、ちょっとぼんやりしているが、今は寝室でボロボロに噛まれたウサギの子の看病をしてくれているらしい。


 クルルンもテンシンも辛い思いをして来ているはずなのに、ひねくれたりせず、優しく素直な子に育ってくれている。


「さて、戻ってご飯にしようか?」

「はーい。ゴルも帰るよ。」

「ニャー。」


 2人と1匹で歩いて改札部屋に向かっていると、ふと思い出した事があった。

 異世界に来て直ぐの頃、モーブとクルルンとテンシンが奴隷狩りの追っ手に追い込まれている所に、敬太がたまたま出くわして、人生で初めて人の命を助けるという事をやったのだっだ。そしてその時から、助けられるものなら助けたいと考える様になっていたんだなと気が付くと、敬太は何だか無性に嬉しくなってしまっていた。


「・・・まぁ悪くないな。」

「・・・ん?おっちゃん何か言った?」

「いや、なんも。」


 敬太の横で、敬太を見上げながら笑っているクルルンを見れば、敬太の気持ちは温かくなるのだった。





 次の日の朝は、罠を作り直した「蜂の巣部屋」の様子を始めに見に行ったが、特に問題は無く、罠は正常に作動していた。

 これで、後は崖の門を直せばサミー達が壊した物が全部元通りになるだろう。なんて考えていたらゴーさんから「通信」のイメージで、外に出ている片付け部隊が崖の門まで辿り着き、片付けが全て終わったって事が伝えられた。


 ゴーさんから知らされる前から、今日明日には終わるだろうと思っていたので、驚きはしなかったが、良いタイミングだ。崖の門もとっとと直してしまおう。




 午前中は、いつも通りにリポップしたモンスターを狩って、午後になってモトクロスバイクを走らせた。


 途中からは「索敵」を使い辺りを警戒しながら、ストーンゴーレムの残骸の山を「亜空間庫」にしまって進んだので、崖の門に辿り着いた頃には、既に日が傾き始めてきてしまっていた。



 現場に着くと、やはり思っていた通り崖の門も見事に壊されていて、木の破片が辺りに飛び散っている。分かってはいたが、ひどいもんだ。


 今回はゴーさんが居れば直ぐに直す事が出来るのを分かっているので、そう落ち込む事は無かった。


「ふぅ~・・・。ちょっと門の破片拾うのも手伝って。」


 敬太は、直ぐに頭を切り替え、ここに集められているストーンゴーレムの残骸を「亜空間庫」にしまう間に、ゴーレム達には門の破片を集めてもらう事にした。

 外なので放っておいても良いのだが、門の破片を見る度に、敬太お手製の門を破壊された事を思い出してしまいそうなので、なるべくなら集めて処分してしまいたい。


「ゴーさん、ここも観音開きの門を頼むよ。」


 敬太はストーンゴーレムをしまい終えると、スマホを見せながら、ゴーさんと打ち合わせをする。

 ここの崖の門は、崖が崩れてしまっている所を塞ぐように門を作っているので、ダンジョンの入口の門よりかなり大きく、門扉の他に門そのものの建物っぽいものを作って隙間を塞ぐようにしなくてはならないだろう。


 今いるアイアンゴーレムは75体。足りるだろうか?

 ここは門の頑丈さと、ゴーレムを何体使うかの鬩ぎ合いになるな。



「良し、それじゃゴーさんよろしく頼む。」


 ゴーレム達が門の破片を集め終わった頃を見計らって、ゴーさんに指示を出すと、ゴーレム達が一か所に集まりだし、一斉にドロリと溶け始めた。

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