第40話 異世界の情報

 ゴーさん達に小屋作りを任せたまま、モーブと話込んでいた。

 今まで森に会いに行ってた時は、警戒もあったのか何を言っても「うむ。」としか答えてくれず、イエス、ノーの2択の答えしか聞けなかっのだが、ダンジョンに連れてきて、奴隷の枷を外し、新しい服を着せ、美味しい食べ物を一緒に食べたからなのか、モーブは良く喋るになっていて色々と教えてくれた。

 

 ここはルシャ王国の西北端に位置し、ここから一番近い街はマシュハドと言うらしい。ダンジョンから東に行くとあって、モーブ達は追っ手から逃げ逃げ来たので正確には分からないが、距離は歩きで1週間ぐらいかかるらしい。

 ルシャ王国の首都程ではないが、そこそこ栄えているので、まずはそこを目指すといいと教えてくれた。

 

 それから、敬太が異世界で探しているポーションより強い回復薬は、その街に行けば売っているみたいで、金貨30枚以上という値段らしい。モーブの右腕より高いと言う話なので、それ相応の値段なのだろう。

 日本の「円」ならば敬太のススイカに唸るほど入っているのだが、ポーションを手に入れるには、まず異世界のお金を稼ぎ出す必要がある様だ。



 モーブと談笑していると、ゴーさんが敬太の背中をトントンと叩き作業が終わった事を知らせに来てくれた。モーブから聞ける異世界の新しい知識に夢中になっていた為、作業中なのをすっかり忘れてしまっていた。


「ありがとうゴーさん。今行くね。」


 モーブに目配せをして椅子から立ち上がり、小屋作りに戻る事にした。



 壁際に引いた線の上に、敬太が指示した通り2mちょっとの高さがあるコンクリートレンガの壁が出来上がっていた。

 部屋の大きさは5m×3mぐらいで、1か所だけ出入り口用にスペースを空けてあるが、ぐるりと四方を壁で囲んだ単純な作りだ。

 クルルンとテンシンがゴルを抱きながら、少し離れた位置で出来上がった壁と、後片付けをしているゴーレム達を眺めている。


「すごいねー。」

「すごいね~。」

「ミャー。」


 さて、ここからは敬太の仕事だ。

 早速、スケール(金属製のメジャー)を持って囲いの中に入り寸法を測って行く。

 それから、タブレットから次々と必要な資材を追加で購入し、ゴーさんたちに壁の近くまで運んで来てもらう。

 次に、土台となる木材を寸法を合わせて切り出していく。

 文明の利器、電動丸ノコギリ(丸ノコ)を使えばあっという間だ。スケールで測り木材に印を付けたら、そこを切るだけ。


チュイイイイン


 辺りに音を響かせ木材を切っていると、ゴーさんが傍でじっと敬太の手元を見ているのに気が付いた。


「やってみるか?」


 ゴーさんに声をかけてみると、元気よくシュタっと敬礼ポーズをしてきたので任せる事にした。やる気のあるゴーさんがいると作業が捗るわ。


 敬太は必要な本数、必要な長さで木材に印を付けたら、切った木材を持って壁の中に入って次の作業に取り掛かる。


 四方を壁に囲まれた壁の中は、蛍光灯の光が入って来ず暗くなっていたので、ランタンを改札部屋に取りに行き壁の上にあるだけ置いた。すると、作業に支障が無いぐらいには明るさを確保できた。


 土台になる木材には、地面から木材を支える突っ張り棒の様な床束と言う物を、ビスで取り付ける。この突っ張り棒はネジ式で長さが調整できるので、でこぼこの地面の上でも土台となる木材を水平に支えられる物なのだ。

 じゃんじゃんとゴーさんに木材を切ってもらい、手の空いてるゴーレムに運び込んでもらう。敬太は中で黙々とそれらを組み立てていく。

 段取り八分仕上げ二分と言う言葉にある通り、段取りの部分が作業の大半を占めるのだが、その段取り部分をゴーさん達にやってもらえているので、作業を楽に進める事が出来ている。


チュイイイイン ガガガガ ギュウウウウン


 あっという間に床の土台を作り上げる事が出来た。

 8畳ぐらいの大きさで、基本的な四角形の部屋なので、難しい事は無かった。

 ゴーレム達に指示を出しウレタンボード(FP板)を運び込んでもらい、床一面に嵌め込んでいく。所謂、断熱材だ。

 それからその上に合板を打ち付けていけば床の完成だ。本当ならばこの上にキレイな床板を張ったり、畳を敷けばいいのだろうが、とりあえず今は置いておく。


 次は出入り口にドアを付けてしまおう。ぐるりと囲まれた四角い壁に1か所だけ空いている出入り口。そこに、ネットショップで購入できたスチール製のドアを付ける。

 木製のドアとかもあったのだが、昭和時代の団地に付いているようなスチール製のドアの方が頑丈そうだったので、こちらにした。


 出入り口の足元にコンクリートレンガを水平に敷き詰めて、上にドアの枠を置く。

 枠と壁との間に出来ている隙間には、コンクリートレンガを割って嵌み込みモルタルで周りを固める。そしたらモルタルが渇くまで誰も触らないように注意をしておくのを忘れない。子供達は離れているので大丈夫だろうけど、念の為だ。


 次は屋根に使う角材の切り出しにかかる。

 角材に印だけ付けて切るのはゴーレム達に任せ、敬太は脚立を使って壁の上に角材を置いて、金具を使い壁と角材を固定する。

 壁にはコンクリートビスを使いしっかりと打って、屋根と壁を一体化させて強度を高める。それから角材を流しその上に合板を打ち付ければ完成。屋根と言うよりは平らな蓋の様な感じだ。

 この上にトタンやガルバリウム鋼板なんかを張り付ければ雨風に強くなるが、ここはダンジョンなので必要は無いだろう。


 屋根から降りて作った小屋の中に入ると、光が差し込まず真っ暗なので、次は蛍光灯を付ける事にした。とりあえず今はランタンで明かりを確保しておく。

 天井になる屋根裏の角材の間に、断熱材のウレタンボードを詰め込んだら、合板を張り付けて天井にする。ここにも合板の上から更に天井ボードを張れば良いのだろうけど、合板剥き出しで十分だろう。太陽が照り付けないダンジョンの中なのだ。そこまで断熱に気を使う必要は無い。


 一旦小屋の外に出て蛍光灯の為の配線に取り掛かる。

 配線を通す位置を決めコンクリートレンガの壁に電動ドリルで穴を開け、そこに配線を通して、気になるようなら穴の隙間を発泡ウレタンスプレーでも吹き付けてやれば問題ないだろう。

 天井に蛍光灯を取り付けて、配線を繋げばチカッっと蛍光灯が点いた。

 突貫工事の手抜き内装だが、寝るだけならば十分だろう。


 最後にモルタルが渇いたか確かめてから、ドアの枠にスチール製のドアを嵌め込んで小屋の完成だ。はぁー疲れた。


「おーいモーブ。ちょっといいですか。」


 モーブを呼び寄せ、蛍光灯の使い方と、ドアの鍵の使い方を教えておく。

 モーブは蛍光灯が点けば驚き「これは魔道具なのか?」と興奮し、ドアの鍵の作りを見れば「細かい仕事じゃのう」感心していた。


「これで外から襲われる心配はないと思うので、しっかり寝て下さいね。」

「うむ。だが良いのか、このような物を・・・。」

「気にしないで下さい。私の方が気になってしまうので押し付ける形になってしまいましたが使って下さい。」

「うむ。いや、しかし・・・。」

「じゃあ、後日手伝って欲しい事があるので、それを手伝ってくれませんか?」

「うむ。手伝うぐらいなら問題ないのじゃ。」

「良かったです。その時はお願いしますね。それじゃ遅くなってしまいましたが晩飯にしましょうか。」

「うむ。すまないな。」


 お腹を空かせた子供達プラス1匹が、すでにダイニングテーブルに着いているのが目に入ったので、急いでデリバリーを使って晩飯の準備をした。



「うわービチャビチャのうんこみたい。」

「いい匂い~。」


 今夜はカレーにしてみたのだが、そういう反応は止めて頂きたい。どうして子供はカレーはうんこ、もんじゃ焼きはゲロって表現するんだろうか・・・。


 気を取り直しスプーンを手に取り、口を付けた。

 そうするとみんなも敬太の真似して、スプーンを使って食べ始めた。


「わー美味しいね。」

「美味しいね~。」

「うむ。」

「ミャー。」


 みんな見た目はともかく、味の方は気に入ってくれたようだ。

 ゴルはいつもの餌だけど、みんなと一緒にご機嫌で食べている。

 見れば子供達はスプーンをグーで握り込むようにして必死にカレーかき込んでる。モーブもグーでスプーンを握っていた。

 パスタをフォークで食べていた時にも思ったのだが、異世界ではこういう食べ方が一般的なのだろうか、それともモーブ達が奴隷というのが関係しているのだろうか。野趣あふれる食べ方であまりテーブルを汚さないでくれると後片付けが楽なんだけどな。



 晩飯を終え、作った小屋に布団を運び込むと、子供達がはしゃいでいたので敬太はそっと改札部屋に戻る事にした。

 今日も小屋作りで体を動かし疲れているのだ。あんな台風の様な子供達を構うスタミナは残ってない。


 デリバリーでワクドナルドのホットコーヒーを頼み、リクライニングチェアに座ると、当然の顔をしながらゴルが膝の上に乗っかって来た。

 しかし、大きくなったものだ。ゴルが卵から産まれて4か月ぐらい経ったのだろうか、まだまだ小さいが哺乳瓶でミルクをあげていた頃と比べると大分成長し、今では全然手のかからない子になっていた。このまま良い子で元気にしていて欲しいものだな。


 コーヒーをすすりながら、ゴルの毛並みを堪能し、忙しい一日を終えた。




 翌日、朝食のおにぎりを食べ終え、食後のお茶を飲みながらモーブに話しかけた。


「モーブ。小屋はどうでしたか?」

「うむ。子供達は、はしゃいでおったが、久々によく寝れたわい。礼を言うぞケイタ。」

「いえいえ、それなら良かったです。」

「お部屋凄かったよー、ぱっと明るくなるのが上にあったんだー。」

「ふかふかで寝床が気持ちよかった~。」


 どうやらモーブ達には好評だったようだ。子供達の素直な感想に、敬太の顔も笑顔になっていた。


「しかし、あのような魔道具なんかを使ってもらっても、わしらに返せる物は何もないぞ。」

「それでしたら、今日一緒にダンジョンの探索に行ってもらえませんか?」


 モーブのレベルを「鑑定」で見た時から考えていた。レベル47という高い数値。たとえ片腕を失っていても、敬太の素人丸出しの戦い方の参考になるではないだろうか。大きな戦力になってくれるのではないのだろうか。

 それに、モーブもそうして手伝った方が気が楽になるんじゃないかと思い提案してみた。


「う、うむ。それはケイタの戦闘奴隷になれと言う事か?」

「いやいや、そんな事は考えていませんよ。ただ出来るならばダンジョンの探索を手伝って欲しいだけで無理強いはしませんよ。モーブが嫌と言うなら、それはそれで構いません。ただ、子供達はゴーレム達に守らせますし、報酬も考えています。」

「ふむ。それは冒険者の様に雇うという事なのか?。」

「う~ん。その冒険者と言うのが、どのような感じなのかは分からないですけど、一緒に来てくれるなら現物支給になってしまいますが報酬は出します。」


 モーブが高レベルだったので簡単に誘ってしまったが、よく考えれば命をかけた仕事になるのだ。実際、怪我はするかもしれないし、湧いてくるモンスターの命を奪いにいくのだから、軽々しく考えてはいけない事だったのかもしれない。


 モーブはしばらく子供達を眺めて黙っていたので、敬太もモーブの答えを黙って待った。


「うむ。クルルン、テンシン。お前たちだけで留守番は出来るな。」

「出来るよー。」

「出来る~。」

「うむ。ケイタには恩がある身じゃ、一肌脱ぐのが道理じゃろう。」


 少し考えたようだが、モーブは承諾してくれた。

 だが、敬太はこれにちょっと申し訳なく感じてしまった。元戦闘奴隷だったと聞いて、これぐらい大丈夫だろうと敬太はモーブの事を下に見て、勝手に決めつけていたのだ。助けてやった奴隷なんだから言う事を聞くだろうと。


「すいません。勝手な事を言ってしまって。」

「なーに、問題ないわい。」


 しかし、モーブは気にする様子も無く、話は決まったとばかりにお茶を飲み干し立ち上がったので、敬太も慌てて立ち上がり、すぐにゴーさん達に指示を出す。


「ゴーさん。子供達をお願いね。もし何かあったら作った小屋に匿ってやって。」


 ゴーさんはいつものようにシュタっと敬礼ポーズをして了承と、示してくれた。

 何だかモーブに悪い気もするが、折角やる気になってくれているのだ。何も言うまい。

 敬太は気持ちを切り替えて、しっかりと学んで来ようと考えた。

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