第41話 モーブの実力
それでは久々にダンジョン探索の準備を始めよう。
まずはモーブの装備を整えてやらないといけないな。ジーンズにシャツではブレイドラビットの歯でも簡単に切られてしまう。
モーブは敬太より背が高くガッチリした体形をしているが、服のサイズ的には3Lだ。この辺は普段着を買い与えたので分かっている。
「モーブ。ちょっといいですか。」
軽トラの荷台に積み込んだままにしてあった、追っ手からの略奪品を漁っているモーブに声をかけ、足のサイズを計らせてもらい、それからネットショップで装備一式を購入した。
ゴーさんに改札部屋の物置から、外のダイニングテーブルに運んで来てもらい、どんどんとモーブに着ていってもらう。
防刃ロングTシャツをインナーにし、その上にステンレスメッシュシャツ(鎖帷子)、そしてその上に追っ手から剥ぎ取った皮の鎧を付ける。下には普段着として渡したジーンズを履いているので、その上にステンレスメッシュズボン。このまま動くとジャラジャラと音がして気になってしまうので、更にその上から防護ズボンを履かせる。足元はロングブーツの安全靴、開いている首元にはネックガード。
「ヘルメットは被りますか?」
「いや、被り物は音が聞こえにくくなって好かんのじゃ。」
モーブに聞くと、頭の上に付いている耳を差しながら断って来た。
なるほど、それもそうか。
モーブにヘルメットは諦め、頭にはヘッドライトだけを邪魔にならない位置に付けてもらい、ネックライトを付け、ランニングライトを胸辺りに付ける。
敬太が使っていた普通のリュックにランタンを取り付けて、中には水やちょっとした食料を詰め背負ってもらう。後は、追っ手から剥ぎ取ったナイフを腰に携え、短槍を片手にするとモーブの装備が整った。
「明かりの魔道具がこんなに沢山あるとは・・・。これ程高価な物を持たせられたら失敗出来んな。」
「怪我したら大変ですからね。準備だけはしっかりとさせてもらいますよ。」
装備が仕上がったモーブは、満更でもない顔をしている。
敬太は追っ手から剥ぎ取った皮の鎧は気持ち悪いので、代わりにモトクロスバイクのボディプロテクターを身に着け、エルボーガードとニーガードも付けている。
追っ手のナイフも持っていこうと思ったのだが、どうも切れ味が悪そうなので代わりにサバイバルナイフを1本、新たに腰にぶら下げる事にした。
更に今回からは追っ手の剣を使ってみようと思う。切れ味には期待出来なそうな刀身だったが、まぁしょうがないだろう。
木製の鞘を腰に携え、剣を持ってみるが金属製なので重く、思ったより動きづらい。慣れるまでは気を付けて動かないと振り回されてしまいそうだ。
2人の準備が整うとゴルが敬太の体を駆けあがり、自分でハードシェルバックに飛び込んできた。
「準備出来ましたね。」
「うむ。」
「ミャー。」
クルルンとテンシンにも声をかける。
「それじゃあ、留守番お願いね。ゴーさんも頼んだよ。」
「うむ。少し出掛けてくるぞ。」
「はーい。」
「は~い。」
子供達は元気に返事をし、ゴーさんはいつものようにシュタっと敬礼ポーズしていた。
改札部屋から左手側に進んでいく。トンネルを進み分岐部屋、そこから階段がある部屋へと進む。
この辺りはブレイドラビットが出る所なのだが、敬太が作った罠によってリポップしたそばから倒される様になっているので、1匹も目にする事は無く、何もいないダンジョンを進んだ。
元は階段だったのだが、埋めてスロープにした所を下って行くと、真っ暗な空間に出る。
ここにはロウカストというデカいバッタが居て、敬太の実力ではここを殲滅して蛍光灯を付けるって事が出来なくて未開発のままだった。
「ここからは真っ暗じゃのう。」
「はい。ここからは、まだ手を付けられてないので・・・。」
「まぁ、これだけ魔道具の明かりがあれば問題ないがのう。」
魔道具って言うのが、どんな物か知らないけれど、単なるライトですよモーブさん。
「チキチキチキ・・・」
早速、ロウカストの鳴き声が聞こえてきた。
敬太は「梟の目」と「自動マッピング」があるので、迷うことなく暗闇の中に足を進める事が出来るようになっている。
「それじゃあ、モーブは私の後ろに付いて来て下さい。」
声をかけロウカストの鳴き声がする方に進んでいく。
しばらく歩き、先の方にロウカストを見つけたので、モーブにも見える様に軍用ハンディライトで照らし出す。
「チキチキチキ・・・」
「あれが・・・。」
敬太が説明しようとしたら、照らしていたハンディライトの光に反応したのか、いきなりロウカストがこっちに向かって飛翔してきた。
「うわぁあああ!」
敬太はビックリして情けない声をあげながら横っ飛びした。なんせ手漕ぎボートぐらいの大きさのバッタだ。直撃したら骨の1本2本いかれてもおかしくないのだ。
地面を転がり、ロウカストの突撃を避けられた事に安堵したのだが、後ろにはモーブが居たんだったと思い出し、慌ててモーブの方を振り返ると、地面に転がり紫黒の煙を吹き出すロウカストが目に入った。
「モーブ・・・。だ、大丈夫ですか?」
「うむ。この程度なら問題ないわい。」
地面に横たわり煙に巻かれているロウカストの後ろにいるモーブに焦って声をかけたが、返って来た言葉は、当然の事だったかの様に落ち着き払った声だった。
あれだけ大きなロウカストが突っ込んできていたのを短槍の一撃で仕留めていたのだ。
敬太は避けるので精一杯だったのに・・・。
「ケイタは土魔法を使う魔法使いなのだったな。」
「う~ん、どうなんでしょう?・・・。」
モーブに問われたが、私は魔法使いですっと答えられるような自信は無かったので、曖昧な返事になってしまった。
「まぁよい。この程度ならば目を瞑っていても倒せるからな。」
「えっ!」
素で驚いてしまった。前回ここに来た時にはゴルが気を失う程吹き飛ばされ、ゴーさんに体を張ってもらって、どうにか脱出出来たぐらいの難易度なのに。
あれから時間は経っているのだが、1人だと足が向かない程恐れていたのに、モーブにとっては余裕だったらしい。
モーブのレベルが高いと言うのもあるのだろうが、それぐらい異世界基準で言うと敬太は未熟で弱いのだろう・・・。
「何を驚いているんじゃ、ケイタのストーンゴーレムでも簡単に倒せるじゃろ。」
「ええっ!」
さらに驚かせる事を言われた。そうなの?そうだったの?・・・。
一度、土ゴーレムのゴーさんを崩され倒されてしまったイメージが強くて、とてもじゃないがゴーレム達を派遣する気にはならなくて、今日も連れて来てない程だ。
だが、そうか、ストーンゴーレムなら倒せるのか・・・。
しばらく驚きの事実で何もない空間を見つめてボケーっとしていると、今度は驚いたモーブの声が聞こえてきて、現実に帰った。
「なんと!ここはクズダンジョンだったか。」
「え、クズダンジョンですか?」
「うむ。このように『紙クズ』が落ちるような所を皆そう呼んでいるぞ。」
モーブが落ちていた1万円札をぴらぴらとさせていた。
あれ?「自動取得」が効いていない。敬太が倒した時には勝手にススイカの残高に加算されるようになっているのだが・・・。
そうか、モーブが倒したせいで地面に落ちているのか。
落ちている1万円札見て、ひとりで驚き、ひとりで納得していた。
しかし「クズダンジョン」か。確かに異世界では役に立たない日本の紙幣が落ちる訳なのだが、名前が付いていてそれが知れ渡っている事を考えると、ここの他にもお金が落ちるダンジョンがあるのかもしれない。逆にお金が落ちないダンジョンもあるのがモーブの言葉から想像出来た。
「そのクズダンジョンってのは有名なんですか?」
「うむ。何処にあるかは知らなかったのじゃが、そういう物が存在してるのは有名な話じゃ。なんせ奴隷の身のわしの耳にすら届く程じゃからな。」
「はぁ・・・。」
「命を張った対価が『紙クズ』なのじゃ、誰が好んで潜るものか。」
「なるほど。それで有名なんですね。」
「うむ。そうじゃな。」
納得がいった。潜っても意味がないダンジョン。日本のお札なんか異世界では使い道が無いだろうからなぁ。
「しかし、わしも納得がいったわい。何故ケイタがダンジョンに居を構えているのか不思議だったのじゃ。こんなクズダンジョンならば誰も来るまいな。」
モーブは「わはは」と笑いながら1万円札を投げ捨てたので、焦って声をかける。
「モーブ。それは私の世界のお金なんです。」
「なんと!そうじゃったか。」
モーブは驚いて地面に落ちている1万円札に目をやっている。敬太はいそいそとそれらを拾い集めウエストポーチにしまい、説明を付け加える。
「このお金で、私達のご飯をなんかを買ってるんですよ。この装備も、あの小屋も、このお金を元にしているんですよ。」
「うむ。そのような仕組みがあったのか。」
「なので、お願いしますね。」
「うむ。あいわかった。」
お互いに情報を交換し終えると、自然と次の標的に向かって歩き出していた。
敬太が「梟の目」を使ってロウカストを見つければ誘導し、モーブには見ていてもらい、果敢に慣れない剣を振り回して挑んで行くのだが、木刀の様なしょぼい打撃ダメージしか与えられず、ロウカストの反撃にあいそうになると、横からモーブが短槍で一突きして仕留めてくれる。
そんな感じで広くて暗い部屋を虱潰しにしていった。
「うむ。こんなものじゃろう。」
「はぁはぁはぁ・・・。」
ぐるっと部屋を1周してきた頃には、重い金属の剣を振り回していた敬太は息切れし腕はパンパンになってしまっていた。日課でピルバグというダンゴムシをつるはしで潰して回っているのだが、どうやらそれぐらいでは戦闘の体力作りには足りないようだ。
現にモーブを見ると涼しい顔をしているからね。
「ありが・・・とうござい・・・ました。」
「うむ。そうじゃな今日は戻るとするか。」
結局ロウカスト11匹と遭遇したのだけど、1匹も敬太が止めを刺す事は無く1万円札を全部拾う形になってしまった。追っ手の剣で切り刻む予定だったのに、1回も切る事なんか出来きず、全部打撃になってしまっていたのだ。難しいねぇ。
しかし、ロウカストを殲滅出来たし、敬太の特訓にもなった。今回は探索を進めるという事で言うと、かなり前進出来たと思う。
改札部屋前に戻るとクルルンとテンシンが手を振って出迎えてくれた。ゴーさんも手を挙げて挨拶してくれている。何も問題は起こらなかったようだ。
敬太とモーブは装備を外し、椅子に座ってお茶にする。
「モーブ。これっていくらぐらいする物なんですか?」
敬太は今日の戦利品マジックポーションをテーブルの上に置いて尋ねた。
「うむ。ポーションならば金貨1枚ぐらいじゃないかのう。」
「あ、いえ、これマジックポーションです。」
「そうか、ふむ。あまり詳しくないので正しくはないかもしれんが、それも金貨1枚程度じゃたような気がするわい。」
金貨か。前にも聞いて存在は知っているのたが、日本円にしたらどれぐらいの価値になる物なのだろうか?
「では、金貨1枚だと小麦はどれぐらい買えるんですか?」
「うむ。それはわからん。」
きっぱりと言われてしまった。奴隷の身分だとお金を使う機会が無かったのかもしれないな。
マジックポーションはゴーレムを量産するのにも欲しい物なので、買い取れないかと価値を聞いてみたんだが難しいかな。
「このマジックポーションなんですが・・・。」
「いいぞ、わしは世話になっている身じゃ。たいした手伝いでもなかったしケイタの好きにしたらいいじゃろう。」
「じゃあ・・・。」
マジックポーションは敬太に譲ってくれるようなので、今日拾ったロウカスト11匹分のお金55万円をモーブに差し出した。
「ケイタ。わしはこの紙をもらっても使いようが無いのじゃ。」
「あ、そうですよね・・・では、これからのご飯代として預かっておきます。」
「うむ。そうしてくれると助かるわい。」
モーブからすれば日本円は紙クズになってしまうのを忘れていた。そこら辺も検討して、これからを考えていかないといけないな。
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