(株)ダンジョン

２章 ダンジョン新生活

第24話 ダンジョン新生活

　仕事を辞め、父親を施設に預け、とうとう２４時間ダンジョンと向き合う生活に切り替えてしまった。

　理由は２つ。

　１つはポーションの回復（小）を超える、回復（中）とか回復（大）とかの捜索の為。

　もう１つは、１週間の罠の稼ぎで黙っていても敬太の年収を稼ぎだしてしまうからだ。

　この人生のボーナスステージのようなダンジョンに来れたのはススイカを拾ったおかげであって、いつ本当のススイカの持ち主が現れてストップをかけてダンジョンに入れなくなるか分からないので、それまでは出来るだけ稼いだ方がいいんじゃないかと考えて頑張っていた。

　だけど、仕事をして父親の世話をしていると時間が取られてしまうので、このボーナスステージで活動できる間は全力で挑んだ方がいいと思うようになり、そして、その決断が出来るぐらいに稼いでいた。ススイカの中には２千万円強あるのだ。

　ちょっと失敗しても取り返せるぐらいは、稼いで持っている。

　そこでようやく決断が出来た訳だ。

　これからは、仕事や、父親の世話といった時間的な縛りがなく、好きなように進めるので、出来る範囲で頑張って行こうと思う。

　ダンジョン新生活1日目。

　やる事、やりたい事は山の様にある。まずはブレイドラビットの調査だ。ブレイドラビットがみっちりと居るあの絨毯部屋、あそこがリポップ場所なのか？罠が通用するのか？

　その辺を確認出来たらニードルビーの蜂の巣部屋の様に、絨毯部屋にも罠を仕掛けてしまいた。これが近々の目標だ。

　次にブレイドラビットの先に居たバッタ、ロウカストの研究。１匹にスキルを４発も５発も使って倒したのだが、それでは危険だし効率も悪い。何か弱点とかいい倒し方が無いか探りたい。

　それから先に進んでいってポーション回復（中）とか回復（大）とかを探していきたい。

　あと、同じ様に蜂の巣部屋周辺の探索もやっておきたい。あの先には何があるのか？まだまだ探索は始まったばかりだ。

　やる事が決まったら、次にするのは準備だ。

　絨毯部屋にも罠を仕掛けたいので、コードを引いて電気を通す必要がある。ネットショップを開き必要な物を見繕っていく。

　配電用ケーブル１００ｍ×２、差し込みプラグとプラグ受け、ケーブルステップル、延長コード、電気ボックス、熊用電気柵、コンパネ、角材、キャスター、タイヤストッパー、折り畳み式アルミリアカー、作業灯６個、狩猟用クロスボウ、カーボン完成矢、矢筒、矢じり、アルミ足場板、荷台ゴム紐、一体型LED蛍光灯。

　こんな物だろうか、カートに進み全部買う、確認っと。

『カードをかざして下さい。』

「ピピッ」

　いつものやり取りをして物置に品物が届く。

　毎回毎回、作業に持って行く荷物が多くなっていくので今回とうとうリアカーを買ってしまった。リアカーに工具や材料を積んで移動すれば、効率アップは間違いないだろう。

　前回の蜂の巣部屋までは２箇所上り階段があったので敬遠していたが、今回の絨毯部屋までは階段が無いので、導入することにした。

　それから狩猟用クロスボウ、４０ｃｍぐらいの矢が撃てるライフル銃のような形をしててトリガーで発射するタイプ。

　どれぐらいの威力があるか分からないけど、飛び道具が欲しかったので買ってみた。

　思っていたより重かったけどリアカーがあるので持ち運びには問題ないだろう。

　最初に折り畳み式アルミリアカーを畳んだまま扉の外に出してパタンと組み立てる。パタンパタンパタンと３ステップで出来るので簡単だ。

　そしたらリアカーの上に足場板を置いてゴム紐で固定する。今回はこれが脚立代わりだ。移動して上り下りの作業が楽になるだろう。

　次にリアカーの淵に作業灯を付ける。クリップ式なので脇の板を挟むだけだ。前後左右に６個、ちょっと下を照らすような角度で付ける。

　後は荷物を積み込んだら準備完了。

　少しリアカーを持ち上げ引いて見るが、楽ちんだ。これなら作業も捗るだろう。

　オレンジ色のチェーンソー防護服、モトクロスのヘルメット、腰にはコンクリート釘とかが入っている腰袋。ハンマーを腰に差し体中に９個のライトを付けて、背中にはハードシェルバッグを背負いゴルが入る。

　よし、準備完了だ。

　扉から左手側に進んでいく。１ｍ進んだらリアカーを置いて上に置いてある足場板に上り、ケーブルステップルを打ち込んで電気のケーブルを引っ掛ける。

　１０ｍ進んだらケーブルステップルに加え、蛍光灯を取り付ける。付属のフックをコンクリート釘で打ち込んで蛍光灯を引っ掛ける。延長コードで伸ばしてきている接続コードを繋げて、また先に伸ばしていく。

　蛍光灯のスイッチを入れれば辺りが明るく照らされて、見えていなかったものまで見えるようになり、安心感が増していく。

　蛍光灯を１０本付けた頃には左手側のトンネルにまで来ていた。改札部屋の前の部屋は何気に広いのだ。

　後ろを振り返ると蛍光灯が並び、壁沿いを明るくしている。これだけでも大分違うな。面倒で大変な作業だけどもやった甲斐はあった様だ。

　とりあえず食事休憩と蛍光灯補充をしに改札部屋に一旦戻る事にする。

　前に１１日間もやった作業なだけに順調に進める事が出来た。

　改札部屋に戻りご飯にする。最近はゴルも固形物を口にするようになりミルクは卒業していた。

　ウエットタイプの餌と水をゴル専用の器に入れてやり床に置くと、自分でハードシェルバッグから出てきてモシャモシャと食べている。

　敬太もタブレットからデリバリーを開き、ざるそばとかつ丼のセットを頼んだ。

　すぐにテーブルの上にある白い箱が開きだし、中からおぼんに乗ったかつ丼セットがせり出して来る。セットにはキュウリの浅漬けが小皿で付いていて、美味しそうだ。

　食休憩はゴルと遊ぶ。少しづつ大きくなっていくゴルはどんどん活発になっていき、寝ている時間が減ってきている。

　前なら食べた後はすぐに寝ていたが、今はこうして遊んでくれるようになっていた。まだまだ、抜けているところも見られるけど、それも含めて可愛いもんだ。

　前回新しくレベルアップボーナスで出したトイレで用を足してから、追加の蛍光灯をリアカーに積んで、左手側のトンネルまで戻って行く。蛍光灯がずっと照らしてくれているので、随分と歩きやすくなっている。

　ハンディライトでトンネル内を照らしてみると、トンネルの先が大きく右に曲がっていて、カーブの手前にはブレイドラビットが２匹佇んでいるのが見えた。

　距離的には１５ｍぐらいかな。敬太はおもむろにリアカーを漁りさっき買った狩猟用クロスボウを取り出す。試し打ちには丁度良い相手だろう。

　クロスボウの先にある取っ手のような輪に足先を入れて踏みつける。そこから背筋力テストのようにおもいきり弦を引っ張ってカッチとフックに引っ掛ける。そしたらクロスボウに付いていたアルミの４０ｃｍぐらいの矢を本体の溝に置く。これで準備完了だ。

　本体を左手で持って銃床部分を肩に当てグリップを握る。足元にハンディライトを置いてブレイドラビットを照らしながら、スコープを覗き見る。

　しっかりと狙いを付けて、トリガーを引く。

　フッっと弦が弾かれた小さな音がしたと思ったら、先にいるブレイドラビットが崩れ落ちた。どうやら上手く当たったらしく、ブレイドラビットから矢が生えている。

　もう１匹の方が敬太に気が付き走り出したのが見えたので、クロスボウを地面に置き木刀を構える。

　走ってくるブレイドラビット越しに、矢が刺さったブレイドラビットをちらっと見たら、煙を吹き出していたので、目の前の相手に集中出来た。

　真っ直ぐに突っ込んでくる中型犬ぐらいの大きさのブレイドラビットを闘牛士の様にひらりと躱して、すれ違いざまに木刀を振り下ろす。

　カッと硬い物に当たった手応えがあった。

　ブレイドラビットは走ってきた勢いそのままに地面を転がっていき、やがて煙を吹き出した。

　とりあえずクロスボウは通用する事が分かったが、連射が出来ないのが欠点かな。

　少し離れた１匹とかならバンバン使っていこうと思った。

　矢が刺さっていたブレイドラビットが煙と共に消えて無くなると、矢がカランと地面に落ちたので回収して、再び電気工事に戻る。

　トンネル内は入って１か所、右に曲がるカーブ辺りに１か所、最後に１か所と、計３か所に蛍光灯をつけて、次の部屋に進む。

　進んで来た部屋は左手にトンネル、正面は壁、右手にもトンネルと分岐があるので分岐部屋とでも呼んでおく。

　左手に進むと大きなバッタが居る所への階段があり、右手に進むと地面にびっしりとブレイドラビットがひしめいていて白い絨毯の様に見える絨毯部屋へと繋がっている。

　広さ的にはバスケットコートぐらいあり、蜂の巣部屋よりは大きく、体育館部屋よりは小さい感じだ。

　今いる分岐部屋にはブレイドラビットが４匹いたので、クロスボウを１回撃って、後は木刀で殴り倒して殲滅した。

　その後、出てきたトンネルから電気工事を再開して右手側に蛍光灯を伸ばしていく。

　５本も蛍光灯を付けると右手のトンネル前まで来たので、ここら辺で一旦ゴルのご飯時間なので改札部屋に戻る事にした。

　ダンジョン新生活３日目。

　罠を仕掛けるにしても、リポップする場所を調べるにしても、一旦絨毯部屋の中のブレイドラビットを全滅させる必要がある。なので、蜂の巣部屋と同じくタイヤ作戦を決行しようと、昨日一日かけてトンネルを塞ぐような大きなコンパネの蓋を作ってから燃え盛るタイヤを投げ入れたのだが、ブレイドラビットの体は蜂より大きく強いので、コンパネの蓋をあっさり突き破られ、トンネルや分岐部屋にブレイドラビットが溢れかえってしまった。

　最早、手が付けられる状況では無いので、全力で走り逃げ帰った。失敗した。

　ダンジョン新生活１５日目。

　先日の失敗を糧に、コンパネでは弱かったので今度はコンクリートブロックを大量に発注し、リアカーで運び込み、左官屋と化した。

　水平を取り、モルタルを作りブロックを積み上げる。中には鉄筋を入れて強度を上げてモルタルを置いて積んでいく。

　ブレイドラビットの突進力にはブロック塀１枚だと不安なので、その壁を３重に築く。

　縦方向の弱さを補うために３重の壁の間にも、縦に置いたブロックを積んで、壁と壁とをつなぎ合わせるようにした。

　壁の真ん中には人が出入り出来るぐらいの空間を開け、そこにお手製の材木を重ね合わせてた厚み１５ｃｍの引き戸を付ける。

　壁の一番内側に１枚と外側に１枚の計２枚の扉。戸の下にキャスターを付けて動かせるようにし、長さがぴったりなつっかえ棒を鍵代わりにして開閉の自由を無くした。

　ここまで準備して、ようやくタイヤ作戦が成功し絨毯部屋の殲滅に成功する。

　ダンジョン新生活１９日目。

　作った壁に電線を通す穴を開けたり、リポップする度に叩き殺したり、余計な作業も多々あったが、この日ようやくブレイドラビットの絨毯部屋にも罠が完成した。

　ちゃんとブレイドラビットも熊用電気柵で倒せる事が確認出来たので、これで罠作りを完了とした。

　この時点で残高は３千５百万円。

　そして、これによって蜂の巣部屋と合わせて毎日約１４０万円が入ってくるようになったのだった。