第25話 投資

 先日、ブレイドラビットの罠が完成した。

 その罠を作っている間にレベルが上がっていて、レベルアップボーナスを2つ獲得していた。

 ひとつはテーブルの矢印の先にあった「ベッド」。

 もう一つはトイレの矢印の先に出ていた「シャワー」だ。


 ベッドを選んだ時は、改札部屋にドアが現れ、中はベッドが置いてある部屋になっていた。所謂、寝室ってやつだ。

 実はこのベッドが来てから家に帰ってない。仕事を辞めたので家に帰る必要が無いのと、それぐらい罠作りに集中していたからだ。


 もうひとつのシャワーを選んだ時は、トイレの脇にドアが現れ、シャワー室が出来ていた。脱衣所も何もないコインシャワーのような狭い箱型のシャワー室だったが、体を洗えるようになり、軽い洗濯も出来る様になった。

 家への足が遠のいた原因の一つでもある。


 

 今までは夜勤で働いていたのでダンジョンに来るのは変な時間が多かったが、最近は朝に起きて夜に寝る、普通の生活に戻っていた。

 夜中はATMの営業時間外となり電気が消える時間なので避けるようにしていたら、自然と今のリズムになっていた。


 ちなみにゴルはすっかり大きくなっていて、トイレもちゃんと覚えてくれた。

 固形の餌もバリバリ食べられるようになり、いつも元気に走り回るようになった。

 ただ少し甘えん坊さんで、いつも敬太の近くに居たがり、少し姿が見えなくなるとミャーミャー鳴きだすのは変わってない。

 このままゴルには元気に育っていって欲しいと思う。



 

 それで今日はスキルか魔法を取ろうとしている。何故ならススイカの残高が凄い事になっているからだ。



残高  37,676,430円



 一日に約140万円増えるので、寝ていても1週間で1千万円ぐらい貯まっていく。

 蜂の巣部屋から始まり2か月ぐらいかけて辿り着いた、罠による殲滅。今、考えられる最高のお金の稼ぎ方の賜物だ。

 こうなると、次の目標の回復(中)以上を目指すのに自分に投資するのが良いのではないかと考えて、今日は何か取ろうと思っている。


 まずはスキルから見ていく。



剛打   ¥3,000,000-

通牙   ¥1,000,000-

連刃   ¥1,000,000-


石心   ¥1,000,000-

見切り  ¥3,000,000-

瞬歩   ¥3,000,000-

剛力   ¥3,000,000-


梟の目  ¥5,000,000-

駝鳥の目 ¥5,000,000-



 うん。良く分からんね。

 一番上の「剛打」っていうのは、敬太が今持っているスキル「強打」の上になるのかな?同じ「打」って字がついているから、そんな気がする。

 後は「見切り」とか「瞬歩」ってのは、何となく分かる。攻撃を見切ったり、素早く踏み込む感じが文字から読み取れる。

 梟の目、駝鳥の目は、何か見えるようになるのか?・・・。


 残高が3,700万円あるので、何かしら取得しておきたいのだが、何を選んだらいいのか文字だけなので分からない。

 う~ん、何となく想像がつく「剛打」いってみようかな。


「ピン」

『カードを置いて下さい。』


 いくぞ~。

 ススイカを置いた。


 画面が切り替わりパワーゲージが出てきて「しばらくお待ちください」の文字が点滅する。すると例のスポンジケーキに挟まれる感覚がやって来た。

 なんとも言えない待ち時間がしばらく続く。

 やがて「しばらくお待ちください」の文字が消え、スポンジケーキの感覚も消えた。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意ください』


 言われる通りにススイカを手に取ると、スキル「剛打」を理解出来た事が理解出来た。

 思った通り「剛打」は「強打」の上位互換だったようだ。

 よしよし、これでバッタと楽に戦えるだろう。


 後は、魔法も見ておこう。



火玉   ¥10,000,000-

水玉   ¥10,000,000-

風玉   ¥10,000,000-

土玉   ¥10,000,000-


光玉   ¥100,000,000-

闇玉   ¥100,000,000-


スロウ  ¥500,000,000-

空間   ¥1,000,000,000-



 相変わらず無茶苦茶な値段だな。1千万円、1億円、5億円、10億円。

 10億円とか買うやついるのかよ、高すぎるわ。

 今、敬太が持っている魔法は「クイック」って言う時間魔法だけなんだけど、何か条件を満たしていないようで使うことが出来ない。

 なので、切り札的なポジションで1個は使える魔法を取ってもいいかなと思っている。


 項目の上の方にある4つの火、水、風、土の1千万円シリーズなら手が届くし、現実的だろう。

 定番で言えば「火」になる。攻撃魔法の代表格だ。

 「水」も回復とか絡みそうで持っていて損はなさそうだ。

 「風」は微妙かな?あんまり知らない。

 「土」は当たりはずれが凄そう。


 悩ましい。情報が少なくて決め手に欠けてしまう。

 「風」は微妙そうなので無しだな。「水」もいいかなポーションあるし。そうなると残りの2択か・・・よし。このペットボトルの蓋を投げて、表だったら「火」裏だったら「土」にしようか。


「それ!」


 投げたペットボトルの蓋は壁に当たり床を転がり、ゴルに足で弾かれ遊ばれていた。


「ゴル、だめだって。」

「ミャー。」


 なんでーって顔されてしまった。そうじゃなくてコイントスの様にやりたかったんだけど・・・。

 ペットボトルの蓋はゴルの前で裏になって止まっている。


「裏か~。まぁ、ゴルも参加したと思えばいいか。」

「ミャー。」


 よし決めた。「土」でいってみよう。


 ATMの画面をタッチしてススイカをかざすと、またしてもスポンジケーキの様な感覚がやって来る。

 それから待機時間が終わり、ススイカを手に取ると全てが理解出来た。


 どうやら土魔法の「土玉」とはゴーレムの核を作り出す魔法のようだった。


 ゴーレムと来たか。

 攻撃魔法で土とか石を飛ばす様なものを期待していたけどハズレだったようだ。



残高  24,676,430円



 まぁいいか。また稼いだら挑戦してみよう。

 今回はスキル「剛打」と魔法「土玉」を覚えた。


 

 さてと、折角覚えたのだから使ってみないとな。ってな訳で、まずは手軽に出来そうな「土玉」からやってみる。

 ゴーレムの核を作るって事だけど、どうなるんだろう。


「土玉!」


 敬太が魔法を唱えると、手のひらにピンポン玉ぐらいの白っぽい球がヌルっと湧き出てきた。

 これがゴーレムの核か・・・うぐっ。

 ヤバい・・・ハンガーノックみたいのが来ちゃった。

 急いで状態を確認する。



『鑑定』

森田 敬太  37歳

レベル  15

HP  38/38

MP   0/20

スキル 鑑定LV1 強打LV3 剛打LV1

魔法  クイックLV1 土玉LV1

契約獣 ゴル



 あぁ・・・MPが0だ。土玉って、凄くMP使うのね・・・。

 敬太はよろめきながらリクライニングチェアに座り込んだ。そうすると、ゴルが心配したのか敬太の足をよじ登り膝の上に座って顔を覗き込んできた。


「だ、大丈夫だよ・・・。」

「ミャー。」


 しばらくチカラが入らずボケーっと座っていると、徐々に症状が治まってきた。

 MP枯渇のハンガーノックみたいな症状は辛い。何度喰らっても慣れる物ではなかったようだ。

 「剛打」の試し打ちは、明日に延期だな。




 翌日、すっかりMPも回復して準備万端。早速「剛打」の試し打ちへと出かける。相手はもちろんピルバグだ。動かないのでこれ以上ない相手だろう。

 扉を出て右手側の階段に向かって歩いていたのだが、ちょっと立ち止まる。昨日出した「ゴーレムの核」を使うのを忘れていたのだ。すぐにウエストポーチにしまっておいたのを取り出した。



『鑑定』

ゴーレムの核LV1

土に埋め込むとゴーレムを作りだす事が出来る



 そのまんまだな。土に埋め込めばいいのか。

 敬太はしゃがみ込みゴーレムの核を地面に押し込み、めり込ませた。すると、ゴーレムの核が一瞬光かり地面に吸い込まれて行った。

 地面を見ていると段々盛り上がってきて、中から丸い物体が飛び出してきた。

 ドンと地面を鳴らし現れたのは、1mぐらいの雪だるまのような物体で、足は足先だけが生えていて、腕もあるが丸みがあり短い。

 チャームポイントは鼻の位置のゴーレムの核。そんな土の塊だった。


「弱点丸出しかよ・・・。」


 敬太のボヤキに敬礼で答えるゴーレム。腕が短いので、あまり敬礼のポーズが格好付いていないのはご愛敬か。

 まぁ、LV1なのでこんなものなのかもしれない。

 とりあえず何か命令すればいいのか?しなくていいのか?まったく何もわからない。


 どう扱えば良いのか分からないので、ゴーレムを見ながら階段の方へ移動して見ると、ゴーレムが敬太の後を追いかけてテコテコとついてきた。どうやら自動追尾は出来るらしい。

 もう少し様子が見たくなったので、階段を上り踊り場まで行って、折り返した時にちらりとゴーレムを見たら、足が短くて階段の一段目にも上れずワタワタしているのが目に入った。

 

 仕方がないので階段を下りていき、ゴーレムを持ち上げてやろうとしたのだが、クソ重くて持ち上げる事が出来なかった。それもそうか1mの大きさの土の塊だもんな何百kgとあるのかもしれない。


 どうしようかとちょっと考えた。

 足場板を階段に流せば段差が無くなり登れるかもしれない。あ、ダメか。ゴーレムが重くて足場板が折れちゃうか。それじゃあ・・・。


「ちょっと持ってて。」


 とゴーレムに声をかけて改札部屋に戻り、小さなゴーレムでも扱えるような小さなハンドスコップをネットショップで買って、すぐに部屋を出る。


 しかし、1千万円の魔法であれてってさぁ・・・。

 もっと肩に人を乗せてドスンドスン歩く様な、強くて大きくて「E」の文字を消すと止まってしまう様なものを想像していたのだが、実際に出て来たのは1mぐらの雪だるま体形のちんちくりんとは・・・。

 いやいや、これは序盤の初級だから。先があるから。

 自分に言い聞かせながらゴーレムが待つ階段に戻った。


 階段に戻ると、ゴーレムは座って待っていたらしく、短い足を前に投げ出してお尻で地面に座っていた。

 だが、敬太の姿が見えると慌てたように立ち上がった。そんなに慌てなくてもいいのに。

 敬太は持ってきたハンドスコップをゴーレムに渡して説明する。


「これで土を階段の段差の所に集めて、階段を坂道にしちゃてね。ココから半分のこっちだけね。」


 身振り手振りを交え説明すると、ゴーレムが分かったと言うようにシュタッと敬礼してきた。

 本当に分かったのかな?としばらく様子を見ていると、丸い手を器用に使いスコップで土を集めて、言われた通りに段差を埋め始めた。

 思ったより高性能だな。


「じゃあ、頼んだよ。」


 階段はゴーレムにまかせて敬太は階段を上り、やっと本来の目的であるスキルの試し打ちに向かえた。


 体育館ぐらいの大きさの部屋に着くと、いつも通りにピルバグがあちこちにゴロゴロ転がっていた。

 前まではこの部屋にはニードルビーも飛んでいたのだが、今はリポップする蜂の巣部屋に罠を仕掛けてあるので、ここまで飛んで来るニードルビーはいない。


 目に付いた一番近いピルバグの前まで行き、背中から水に沈む木刀「櫂方木刀」を取り出し上段に構えた。

 いつもはピルバグにつるはしを突き刺して倒しているのだが、はたして・・・。


「剛打!」


 今までに無いスピードで木刀が上段から振り下ろされた。

 使ったのは重い方の木刀なのに、敬太自身驚くぐらいの速さだった。

 ピルバグを見ると、あの金属バットを破壊した硬い外殻がべっこりと凹んでいて、既に煙を吹き出していた。



『鑑定』

森田 敬太  37歳

レベル  15

HP  38/38

MP  17/20

スキル 鑑定LV1 強打LV3 剛打LV1

魔法  クイックLV1 土玉LV1

契約獣 ゴル



 MP消費は3。これならばバッタも一撃でいける気がしてきた。

 流石300万円のスキル、なかなかやるじゃない。


 この後、スキルの感覚を掴むためにMPが切れるまでピルバグを倒しまくった。

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