第11話 スキル

 サラ金1件を片づけた後に、更にもう1件完済させてきた。そこでも同じ様に、カードをハサミでちょん切る様子を見せられてきた。

 これで残りのサラ金は2件、丁度半分の借金が消えた事になる。おかげで手持ちのお金が、ほぼ無くなってしまったけれど清々しい気持ちになれた。


 返済作業に結構時間がかかったので、お昼をとっくに回ってしまっていた。予定ではこの後ススイカを駅に届けに行こうと思っていたのだが、急いで家に帰る事にした。



 家に着くと、急いで父親にお昼ご飯を食べさせる。お昼の時間はとうに過ぎてしまっているのだ。急ぎながら敬太も軽くご飯をつまんで、歯磨きをしてから、さっさと寝た。今日は夜勤の仕事があるのだ。




 翌日、仕事帰りの朝。通勤ラッシュに紛れて「これ落ちてましたよ」と、拾ったススイカを軽く駅員に突き出し、何か言われる前に駅を後にした。


 拾ってから日数が経っていたので、根掘り葉掘り聞かれると、ぼろが出ると思い、逃げるようにして押し付けてきてしまったがどんな形であれ、これで一応の責任は果たせたと思う。

 ダンジョンのATMで登録してしまっているので、敬太が持っている自分のススイカがあれば、ダンジョンに出入り自由なのは変わらない。なので、後ろめたさバリバリだけど、これで良かったのだと思いたい。

 後は、元のススイカの持ち主にダンジョンを追い出されないように祈るだけだな。

借金が無くなるぐらいまでは、お目こぼししておいて欲しと自分勝手ながら思ってしまう。




 さらに翌日。ママゾンから荷物が届いた。先日頼んだ、チェンソー用の防護服。パトロールグローブ、モトクロスバイク用のヘルメットとゴーグル。全部で6万ちょっとのお買い物。


 荷解きをして身に付けてみる。動きやすさとかを確認して準備を済ませてしまう。今日は荷物が届くのを待っていたので時間が無い。なので、明日になるがダンジョンに行こうと思う。




 翌日。仕事を終えてから家に帰り、父親に朝ご飯を食べさせたりして世話をしたら、早々に駅に向かう。チェンソー用の防護服はオレンジ色が多く使われていて目立ってしまうので、紙袋に入れて持って来ている。なので今の敬太は、作業ズボンにジャンパーと普通の格好だ。ヘルメットを袋に入れた物を小脇に抱え、防護服上下が入った大きな紙袋を手に持ちリュックとウエストポーチ。


 荷物が多いからと言って目立ってないよね?


「ピピッ」


 改札から改札部屋へ。


「ピッ」


 流れるようにロッカーを開け、着替え始める。ジャンパーを脱ぎハンガーにかける。中には防刃ロングTシャツを着ていて、その上に防刃ベスト着こむ。

 下は作業ズボンの上にチェンソー用の防護ズボン、丈夫なテント生地で頑丈そうだ。足元はロングブーツの安全靴、つま先には硬いプラスチックが入っている。

 上にもチェンソー用の防護服を着る。ネックガードを付け、ヘルメットを被りゴーグルも付ける。手にはパトロールグローブと言う合成皮革っぽい黒い手袋、切りつけても刺してきても破れにくいらしい。

 頭には3つヘッドライトを付け広範囲を照らす。首からも2つネックライトで足元を照らす。脇腹の辺り、左右のランニングライトが前方を明るくし、ウエストポーチのベルトに作業灯2つ、両脇を広範囲で照らす。リュックにランタン1つ後方を照らす。手には軍用ハンディライト、こいつが一番明るいのかもしれない。

 背中にバットケースを斜め掛けにして中身は木刀2本。その上にリュックを背負い、中身はペットの卵とお茶、タオルが入っている。最後に肩につるはしを担ぐ。


 長い装備を終えた。


 ロッカーの鏡に装備を終えた敬太の姿が映る。オレンジ色の防護服に包まれ、世紀末覇者の三男坊のようなヘルメットをかぶる。

 肩にはつるはし。街で会ったら逃げ出すような格好してるな。今更だけど・・・。



 今日は右手側に行く。スキルって奴の試運転をしたかったのだ。だから、動かないダンゴムシは格好の的になるだろう。


 階段を上り体育館ぐらいの大きさの部屋に出る。そこには鳩ぐらいの大きさのニードルビーが数匹飛んでいて、地面にはピルバグことダンゴムシが転がっている。


 まずはニードルビー、蜂から倒そうか。つるはしを置き、背中から普通の木刀「赤樫 小次郎」を抜く。歩きながら蜂をバシバシと叩き落していき、向こう端の壁に着いたらUターンして落ちている1万円札を拾いながら戻ってくる。

 5匹仕留めたので、5万円だ。よしよし。


 ダンプのタイヤみたいな形したダンゴムシ、ピルバグ。この部屋には6匹転がっている。つるはしを拾い近づいていく。この動かないダンゴムシ相手なら、スキルの試運転が出来るだろう。


 ダンゴムシの手前で足を開き腰を落とし、つるはしを頭の上まで持ち上げスキルを使う。


「強打」


パスッ


 なんと言うのだろうか、バッティングセンターで大きな当たりをした時や、ゴルフで気持ちよく真っ直ぐに飛んだ時のような、いわゆる、芯を食った感じと言うのだろうか。手に伝わる衝撃は強く感じないのだが独特の感じで、だけど打った球は物凄く飛んでいる時みたいな。


 要は、気持ちいいのだ。


 つるはしを見ると、根元辺りまでダンゴムシに突き刺さっていて既に煙が噴き出している。いつもなら、つるはしは半分ぐらいまでしか刺さらず、そこからグイグイやって柄を起こしてやって、それで止めを刺しているのだが。スキルを使ったら一撃だった。不思議だ、どんな理屈なのだろうか。


 だが・・・これは凄いかもしれん。


「強打」パスッ


「強打」パスッ


「強打」パスッ


 ぎもぢいいいいいいいいい。

 あっという間に部屋に居たダンゴムシを倒しきってしまっていた。早い!疲れてない!良い事ずくめだ。意味が分からない不思議なチカラだけど、これは使わない手は無いな。


 落ちていたお金を回収して、鼻歌交じりで次の部屋に向かう。これだと今日もまた、稼ぎの新記録作っちゃうかもしれないねぇ。堪りませんわ。


 壁に開いている洞窟のような狭い穴を抜けると、同じ様な大きさ、同じような作りの部屋が現れた。移動してきたこの部屋も体育館ぐらいの大きさで、蜂とダンゴムシしかいない。


 さっきと同じ様に蜂を叩いてからダンゴムシに取り掛かる。


 ダンゴムシの傍に立ちつるはしを構える。


「強打」パスッ


「強打」パスッ


 調子よくスキルを使いダンゴムシを煙に変えていってたが・・・なんか、急に手が震えてチカラが入らなくなってしまった。なんだろうこれ?


 病気か中毒か?分からない・・・。症状としてはハンガーノックに近い感じがする。手が小刻みに震えだし、血圧が上がるのか視界がグワーッってなって、チカラが入らない。どうしたんだ?


 これはポーションを飲むべきか、でも勿体無い気もするし。どうしよう。残り1本だけあるポーション。今なのか?


 しばらくの間アワアワして、ポーションを飲むか飲むまいか迷っていたら症状が少し落ち着いてきてくれたので、逃げるようにつるはしを担ぎ改札部屋へと戻った。



 改札部屋へと戻り、装備を外し楽な恰好で休んでいると次第に手の震えは治まり、体にもチカラが入るようになって来た。


 ふう、ビックリした。なんだったんだろうか、最初は毒とか病気とかかと思ったが、そんな感じじゃない気がする。症状的には、ハンガーノックのような感じだったんだが、お腹は空いてないのでハンガーノックじゃない。


 他に考えられるのは「スキル」使い過ぎかもしれん。調子に乗ってスキルをバカスカ使っていたからなぁ。そう考えると、これが一番可能性があるように思えてきた。


 何かスキルに回数制限とかがあるのかもしれない。もしそうであるならばもう一度スキルを使ってみて、また症状が襲ってくれば、原因はスキルだと言えるだろう。使って何もなければ、原因はスキル以外だ。


 ちょっと怖いけど確かめてみようか、スキルが関係してるのか?してないのか?


 立ち上がり木刀を手にする。ゆったりと構え2~3度素振りをする。体の方は何ともない。チカラは入るし、震えてもいない。先程の症状は消え失せている。「ふっーと」息を吐き、大きく息を吸い込む。


「強打!」


 声に出し、スキルを使おうとした。だが、木刀の振りに「強打」を使った時のような鋭さは無く、ただの素振りの時と同じ様な感じだった。スキルが不発したのかと、ひとり首を傾げていると、先程も感じたハンガーノックのような症状が襲ってきた。チカラが抜け、手が震えだす。独特の辛さだ。


 やっぱりこれはスキルのせいだったか。症状は辛いが、毒とか病気では無かったのが分かって安心する。


 チカラが入らないので、床に体を投げうって楽な姿勢で横になる。頭がボケーとしてきて、うまく物事を考えることが出来なくなってきた。なんだか先程よりも症状が強い気がする・・・。


 やがて瞼が重くなってきて、なんとか抗おうとしたが、意識は闇へと落ちていった。





「ジリリリリリリーーーーン」


 スマホのアラームで起こされる。夜の19時。あれ、改札部屋で寝ていた?・・・周りを見渡し、徐々に記憶が蘇る。


 無理やりスキルを使おうとして倒れたのだ。何か制限とかに引っかかり、体に負担が掛かってそれに耐えられなかったとか、そんな感じだろうか。気を失ってしまった事は予想外だったが、逆に今それを知れて良かったかもしれない。戦闘中とかに気を失ってしまったら目も当てられないからね。それにダンゴムシに毒を受けたとか、病気にかかった訳じゃないのが、ちゃんと証明出来たので良かったと思う。うんうん。


 特に体の不調なんかも無いようだし、人体実験は成功したと言えるだろうか。これからは回数に気を付けないといけないな。


 それよりも、父親の世話を放り投げて倒れてしまっていたのがよろしくない。今日は昼飯を食べさせてないのを思い出し、現実に戻った。


  

 急いで装備品を片付けて家へと帰り、腹をすかしている父親に謝りながら世話をしてから、敬太は身なりを整えて仕事へと向かう。


 自分の食事の時間を犠牲にしたので、ギリギリ遅刻はしないで済んだが、夜、朝の2食抜きはさすがにキツく、同僚からは「ダイエットか?」なんてからかわれてしまった。



 朝7時。仕事を終え家に戻り、父親の世話をしてご飯を食べる。

 今日はデイサービスで父親が風呂に入る日なので、ダンジョンには行かない。なので家でゆっくりしてデイサービスの車が来るのを待つ。


 ゆったりとした時間が流れる中、テレビを眺めつつ昨日の出来事を思い返す。


 スキルの使い過ぎが倒れた原因だった。ハンガーノックのような症状があり、それが治まってから、さらに無理やりスキルを使おうとすると意識を失う。何発使えるのか、回数制限はどのような条件か、どれぐらいの期間で回復するのか。最低でもその辺りは把握していないと、おいそれとは使えない代物なのが分かった。大きな被害が出る前に知れた事は、僥倖だったのだろう。



 デイサービスの車がやってきて、いつものおばちゃんが父親をお風呂に入れてくれる。


「森田さん。」

「はい。」

「お父さんの床ずれ、大分良くなりましたね~。」

「そうですね~。」

「良かったですね。」


 相変わらずデイサービスのおばちゃんは、父親をしっかりと見てくれているようだ。「どうして治ったの?」とか「どこの薬使ったの?」とか聞かれるかと、身構えてしまっていたが、おばちゃんは何も聞いてこなかった。


 いつも良くしてくれているおばちゃんに、嘘をつくのは嫌だったので有難かった。


 お風呂が終わり、デイサービスの車は忙しなく次の家に向かっていった。


 お昼になり父親にご飯を食べさせて、敬太もご飯を済ませる。この後、いつもなら寝るのだが今日は寝室で「布団叩き」を構えていた。スキルの検証だ。


 前回スキルを使ってから24時間ぐらい経っている。時間で回数が回復するのか、どれぐらいの時間で何回分回復するのかとか、その辺りが分かると思う。


「強打」


 スパっと音を立てて布団叩きが振られた。いつもより鋭い振りが、スキルが使えた事を証明する。


 手の振るえは・・・来ない。よし次だ。


「強打」

「強打」

「強打」

・・・


 うぐっ・・・手が震えだし、チカラが抜けていく。頭の中がグワーッっとなって、考え事が出来なくなる。


 スキルを8回使ったら症状が出たようだ。布団叩きを放り投げて、スマホのストップウォッチボタンを押し横になる。


 それから5分20秒、横になっていると症状が治まってきた。意識を失う事無くチカラが戻ってきたようだ。


 24時間経過で8回。時間経過とともに少しづつ回数が回復するのか、24時間あたりでバッと一気に回数が回復するのか、細かいところは分からないけど、大まかな回数限度は把握できた。


 さて次だ。これはちょっと怖いが確認しておきたい。この後、更にスキルを無理やり使おうとすると、意識を失うのかどうか。


 スマホを枕元に置いて、布団の上で布団叩きを構える。それから深呼吸して心を落ち着かせた。


「強打」


 布団叩きの振りが、スキルを使っていた時よりゆっくりに感じた。どうやら不発だったようだ。それから間を置かず手が震えてきた。チカラが抜け出し、膝をつく。崩れ落ちるように布団に倒れ込み意識を手放した。

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