第10話 お金の使い道

 改札部屋に戻ってきた。ポーションを飲んで元気になったのだが、ズボンがボロボロになってしまったので今日の探索はもういいだろう。


 明るい部屋に入ると装備の傷み具合が良く分かった。一つ一つ装備を外しながら確認する。アームカバーには穴が開いているし、防刃手袋も切り裂かれていて、ヘルメットにも引っ搔き傷があちこちにあり、ウサギとの激戦の後が見て取れる。


 リュックを下ろしダメになってしまった手袋とアームカバーをしまう。ついでに小箱に入っている卵の様子も見ておいたが、特に問題は無なかった。案外、頑丈だったようだ。


 次に、お待ちかね。拾った現金を詰め込んでいるウエストポーチに手をかけるが、厚みがヤバい。どれだけ稼いでしまったのか想像し少し手が震えた。


「97、98、99・・・」


 1万円札が131枚あった。昨日までの稼ぎの分を差し引き、計算すると今日はウサギを全部で33匹倒した事になるのだろうか、99万円増えていた。あれだけの混戦、激戦だったのでいちいち倒した頭数を数えているような余裕はなく、ここに来て初めて戦果を知る事が出来たのだ。


 お茶を一口飲み、1万円札を整えて10枚ずつの束にして、ウエストポーチにしまっていった。ちょっとした成金おじさんになった気分だ。


 今回はお札の汚れに気を付け集め、防刃手袋をしていたのもあったからなのか、血でべったり汚れてしまっていた物はなく、そのまま外に出しても問題ない程度の汚れで済んでいる。


 後、ウエストポーチの中にはポーションが2本入っているのも忘れてはならない。大事な戦利品だ。


 スマホの時計を見ると午前0時20分。という事は3時間ちょっとで約100万円になった訳だ・・・ちょっと信じられない額稼いでしまったな。


 そして、これだけ稼いだのだからとATMに目を向けると、思った通り画面には


『レベルアップおめでとうございます。』


 まぁそうだろうと思っていたさ。


『スキル開放ボーナス!』

『スタートボタンを押して下さい。』


 むむ。また知らない単語が出てきた。「スキル」ってなんだろうか?相変わらずのキャンセル出来ない強制仕様なのは知っているので、疑問は置いといて先に進む。


「ピン」

『スタート』


 色々な文字がくるくる回っている。スロットみたいだね。


『ストップボタンを押して下さい。』


 あいよっと。


「ピン」

『テ・テ・テ・・・テテーーーン』


 止まった「強打」ってあるな。


『カードを置いて下さい。』


 いつものように指定の場所にススイカを置くと、画面が切り替わりパワーゲージが出てきて「しばらくお待ちください」の文字が点滅している。そのゲージが動き出すと、前にもあった感覚が襲ってくる。挟まれるスポンジケーキの様な感覚。ふわふわしていてちょっと楽しいかもしれない。


 やがてゲージが溜まるとスポンジケーキは消えて無くなった。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意ください』


 置いてあるススイカを手に取ると、スキル「強打」の使い方を理解出来たのが理解出来た。


 どうやら100%のチカラが乗せる事が出来た会心の攻撃を、スキル「強打」を使うといつでも打てるようになるようだ。


 「スキル」ねぇ。よく分かるような、分からないような。まあ、折角の物だし、ありがたく頂いておこうかな。



 ATMの画面が切り替わると。


チャージ

スキル


 いつもの「チャージ」だけだった待機画面に、新しく「スキル」が追加されている。確認の為に「スキル」を押してみる。



剛打   ¥3,000,000-

通牙   ¥1,000,000-

連刃   ¥1,000,000-


石心   ¥1,000,000-

見切り  ¥3,000,000-

瞬歩   ¥3,000,000-

剛力   ¥3,000,000-


梟の目  ¥5,000,000-

駝鳥の目 ¥5,000,000-



 一、十、百、千・・・300万円だと!100万円とか500万円とかもある。これは稼いだ額で貰えるのか、それとも買えって事なのだろうか?「ヨシオ」に問いただしたい。


 ATMの正式名称「ダンジョン端末機ヨシオ」謎が多いなぁ。


 とりあえず、他に今すぐに出来そうな事は無さそうなので帰る事にした。


「ピッ」


 ロッカーを開けて荷物を入れて、緑色の矢印が出ている改札を使う。


「ピピッ」


 いつもの駅に帰ってきた。時間的に終電間際なのだろうか、ホームに向かって走っている人を何人か見かけた。とりあえず、人が少ないのはありがたい。なんせ今の敬太はズボンがビリビリに裂け、破れまくっているからちょっと目に付いてしまうのだ。


「まぁ明日だな」


 ポーションを手に入れる事が出来たので、拾った方のススイカを警察に届けようと思ったが、ひどい格好だし時間も遅いしでまた後日にしようと思う。


 敬太は足取り軽く、駐輪場に向かっていった。




 家に帰り父親の様子を見るが、眠っていたのでポーションを飲ませるのは父親が起きてからにしよう。


 結構な汗をかいたし、血が渇いてガビガビにこびりついているので、まずはお風呂に入ろうかな。


 湯船につかりながら、いつもの筋肉マッサージをしていたのだが、滅茶苦茶動いた割に筋肉が張ってない。柔らかくほぐれている。と言うか、昨日のうっすら残っていた筋肉痛も消えている。あれ?これ・・・もしかしてポーション効果か?


 筋肉痛も怪我と言えば怪我だしなぁ・・・。これは検証が必要になったな。



 お風呂をあがり、半額弁当を食べてゆっくりする。昨日と今日とでかなり稼いだ。手元には現金131万円と細かいのがちょっとある。破れてしまったので、ズボンなんかを買わないといけないが、それを考えても凄い額がある。


 市民税を払い、さらにサラ金も1~2社完済出来そうだ。なかなか戦闘では苦しい思いをしたが、それ以上に実りがあったな。


 父親が倒れ、負債を抱え苦しいマイナス生活を送っていたが、人生を挽回出来そうな凄い事をやっているなと改めて思う。1か月に満たない数週間足らずで年収の半分ぐらい稼いでいるのだ。ススイカの本当の持ち主さんには申し訳ないが、もう少し夢を見続けていたいと願わずにはいられなかった。



 ゆっくりとしている所で、ママゾンを漁る。さて、今日探すのは破れてしまったズボンと手袋とアームカバー、曇ってしまうヘルメットだな。なんか多いな。


 まずはズボンから、やはりステンレスメッシュ(鎖帷子)が気になるけど重さが3,4kgもある。ズボンだけでだよ、さすがに重いよな~。って事でチェンソー用の防護服にする。実は、前回もこれ買おうかと迷ったのだが値段が高くて妥協したんだよ。そのせいで怪我しちゃったんだけどね・・・。上下セットで38,210円。高価な物だがケチらないでポチる。アームカバーにもっと頑丈そうな良い物がなかったから防護服上下セットで丁度良かったかもしれない。

 

 次は手袋。これもステンレスメッシュのがあるんだけど、持った木刀とかが滑りそうなので却下した。その代わりちょっと高いけど防刃、穿刺対応のパトロールグローブってのがカッコ良くてグッときた。9,800円いいでしょう。ポチる。


 それからヘルメットか。フルフェイスだと曇り止め塗っても、激しい呼吸で曇ってしまうので、口の部分の通気性が良さそうなモトクロスバイク用みたいなやつがいいかと思っている。ちょっと世紀末覇者の三男坊みたいだけど、これにしようかなっと17,300円ポチる。


 あと、付属でゴーグルも。ダンジョンは暗い所なので色なし透明なやつでいいね、1,800円でポチる。


 カートを見て、わお!合計67,110円。でも、必要な物を妥協すると痛い目を見るのを勉強したし、いっときましょか。


 ふ~、大きな買い物を済ませ一息つく。ダンゴムシ3匹分使ってしまったか・・・おっと考え方がおかしくなってくるな。いかんいかん、すっかりダンジョンに毒されているなあ。




 「ジリリリリリリーーーーン」

 

 朝7時のスマホのアラームだ。どうやら寝てしまっていたようだ。昼寝ならぬ仮眠かな、やたらとスッキリした寝起きだった。


 父親の世話をして、敬太もご飯を食べる。それから洗濯機回したり掃除機かけたりと細々した事をしてから、ちょいと一服入れる。


「あ、ポーション。」


 すっかり忘れていた、父親に飲ませるんだったな。部屋に行きウエストポーチからポーションを1本持ってくる。


「これ良く効くから飲んでみて。」


 父親に了解を得て飲ませてみる。普段から世話をしているので、特に嫌がることなく飲み込んでくれたが、数秒おいてから険しい顔をし始めた。


 あ~。お腹が熱くなってるんだろうなと思い見守る。父親はちょっとの間、体をもじもじさせていたが、すぐに動きがピタリと止まった。ポーションの効果が出たのだろう。


「ちょっと見せてな。」


 と断りを入れてから父親の背中からお尻を見てみると、痛々しい床ずれが綺麗に治っていた。よしよし。


「気分悪くない?」


 父親に尋ねると、首を横に振っていた。


 それからもう少し様子を見ていたが、それ以上の変化は見られなかった。分かってはいたけど、少しだけがっかりした。何か後遺症が軽くなったりとか、怪我を治す以上の事を期待してしまっていたのだ。やはり回復(小)だとこんなものか・・・。


 いずれ、そのうち、回復(中)やら回復(大)やらがあったら、ぜひ父親に飲ませたい。まぁ夢だろうけど・・・。




 さて、いつまでも考えていても仕方がない。今日は用事が結構詰まっているんだ。とっとと済ませて来よう。


 身支度を整えて、でかける。腰にはウエストポーチ、中には現金が唸っている。まずは役場だ、市民税を払いに行くのだ。


 自転車に乗り20分ぐらいで役場に到着した。建物の中に入り、番号札を取ってソファーに腰掛ける。


 それから、数分待つと機械的な声で呼び出された。


「支払いお願いします。」

「何月分ですか?」

「これ全部お願いします。」

「わっかりました・・・少々お待ちください。」

 

 催促で来ていた封筒の中身を渡すと、職員は奥に行き何かしてる。2~3分パソコンいじったり何か見たりしてから、こっちに戻ってきた。


「お待たせしました、こちらになります。あちらでお支払いください。」

「分かりました、お世話様です。」


 案内された場所に行き、支払い窓口に職員から渡された伝票みたいなものと、数えた現金を置く。窓口のおばさんは、現金を数えパンパンとハンコを押して控えとお釣りを渡してくれた。


「ど~も」


 これで市役所は終わり。28万8900円。結構な額だったが支払いが出来て良かった。これで滞納は無くなり肩の荷が少し降りた。


 次はサラ金の支払いだ。近くのATMではなくて駅前にある支店まで行く事にする。


 自転車を漕ぎいつもの駐輪場に止めて、そこから駅方面ではなく街の方に歩き、ひとつの雑居ビルに入った。エレベーターに乗り目的の階まで上り、短い廊下を進んでサラ金の支店の扉を開け中に入る。


「いらっしゃいませ、お借入ですか?」


 若い女の店員さんが話しかけてきた。


「いや返済です。」

「ではカードをお預かりします。」


 言われた通りにサラ金のカードを渡す。


「おかけになってお待ちください。」


 と残し、女の店員さんは奥へと消えていった。言われた通りに席に座り待つ。エアコンが効いた店内には、他に誰もいない。カウンターには「ご自由にどうぞ」と籠に入った飴があったが舐める気にはなれず、奥に行った女の店員さんの作業する音を聞きながらぼんやりと過ごした。


 しばらく待たされたが、女の店員さんは戻ってきて、持ってきた紙を指差ししながら説明してくれた。


「今月は8,900円になりますね。」


 しまった。きっちり伝えていなった自分が悪いな。


「すいません。あの、全額返済したいのですが・・・。」

「あっ、かしこまりました。少々お待ちください。」


 嫌な顔せず対応してくれた。若いのに出来た店員さんだ。


 こんな一括で全額返済なんてやった事が無くて舞い上がってしまっていたようだ。しっかりと用件を伝えなかった自分が悪かったなと反省しながら、急かす事無く待つ事にした。


 10分近く待っていると、ようやく女の店員さんが戻ってきて、何枚か紙を持って来ていた。


「ではこちらの490,890円になりますがよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 用意していた50万円をトレーに置いた。


「では、お預かりします。」


 女の店員さんは、お金が乗ったトレーを引き寄せ枚数を数え始めた。慣れた手つきでパッパッと1回数え終えてから、もう1回数え直している。


 金額が間違いない事を確認すると、トレーとお金と紙を1枚持って、また奥に消えていった。


「少々お待ちください。」



 今度はそれほど待たされる事なく戻て来た。手には数枚の紙とお釣りが乗ったトレーを持っている。


「お待たせしました、こちらお返しになります。それとこちらが借用書ですね。カードの方はどうしますか?」

「どうすると言うと?」


 意味が分からず聞き返してしまったが、女の店員さんはこんなやり取りに慣れているのか笑顔のまま答えてくれた。


「こちらのカードはもう使えないので、こちらで破棄してしまってもよろしいですか?」


 どうなんだろ、もうお金を借りる気も無いし、カードはいらないかな。


「じゃあお願いします。」

「はい、ではこちらでハサミを入れますので、見ていて下さい。」


 急に「見てて」と言うと、女の店員さんはハサミを取り出し、敬太が使っていたサラ金のカードを目の前で、半分また半分とジョキジョキ切り始めた。ちょっと驚いたわ。


「では、後はこちらで破棄しておきますので。」


 なるほど、このカードを切る儀式は、悪用しないよっていうポーズなのだろう。決まり事なのか規則なのか法律なのか知らないけど、カードを切られたら使えないもんね。


 女の店員さんにスッと差し出されたお店の封筒に、借用書やら渡された何枚かの紙を自分で折って入れて、それをウエストポーチにしまい席を立つ。


「どーもお世話様でした。」

「はい、ありがとうございました。」


 若いのにちゃんとした、女の店員さんでした。

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