第8話 お昼寝

「よいしょっとおおおお」


 掛け声とともに、つるはしの柄を持ち上げた。


 改札部屋を出て右側、階段方向に進みピルバグの住処。いや、金属バットがやられた部屋に来ていた。


 ここまで来る間に階段と部屋にニードルビーが1匹づつ、この部屋にはピルバグが3匹いて、今その3匹目を煙に変えたところだ。


 蜂×2 ダンゴムシ×3


 で合計8万円だ。美味し。この調子で滞納している市民税も払ってしまいたい。


 大分つるはしの扱い方がわかってきて、無駄なチカラを使わなかったからなのか、まだ余裕です。そんな訳で先に進もうかと思います。


 階段を上がると体育館ぐらいの大きさの部屋がある。その部屋には階段を背に正面、階段を上って真っ直ぐ正面に穴が開いていて、そこが今から行こうとしているところ。


 軍用ハンディライトで穴を照らすと10mぐらい先がまた開けてそうで、地面にはダンプのタイヤことダンゴムシが転がってるのが見えた。


 穴は2人並んでは歩けないぐらいの幅の、洞穴って感じで天井も手を伸ばせば届くぐらいの大きさだ。テクテク進み穴を抜けると、天井は高くなり結構広い開けた場所に出た。広さ的にはここも体育館ぐらいあり。体育館部屋を抜けるとまた体育館部屋って感じだった。正面の壁には、また穴が開いていて、そこからまだ先があるようだ。部屋には結構な数のダンゴムシが地面に転がっていて、蜂も何匹かいるようだ。


 穴の出入口に立ち、ハンディライトで部屋の中をぐるっと再確認したが、いるのはやはりダンゴムシと蜂だけだった。


 はい殲滅タイム!


 背中から普通の方の木刀「赤樫 小次郎」を引き抜き、つるはしを地面に置く。まずは蜂を片付ける。「赤樫 小次郎」は重くなく、バットと同じ様に振り回せて良い。剣道の「めーん」のように上から振り下ろしたり、野球のスイングのように横に振り回したりと自由自在に使える。


 体育館部屋の端から端まで行って、蜂は5匹煙に変えた。耳を澄ませるがブーーーンって音は聞こえてこない。残りはダンゴムシ軍団だけなったので、何匹いるか数える。


「ひぃふぅみぃ・・・」


 11匹おります。なかなかの作業量だが、頑張りますか。


 つるはしを拾い上げ端から順に殺っていく。


パスッ「よいしょお」

パスッ「せいっ」

パスッ「ほいいいい」


 順調である。




 途中で一度休憩を挟んだが、全てやり遂げる事が出来た。しかし、おじさんにはつらい作業だったのでもう帰ります。


 肩で息をしヘルメットのシールドを曇らせながら来た道を戻って行く。肩につるはし。今日も頑張った。


蜂×5 ダンゴムシ×11


 

 改札部屋に戻り床に敷いたダンボールに座り込む。装備を外し、お茶を飲み一息つけた。


 やはり、つるはしを振るうと腕にきてしまう。重い方の木刀の具合を試したかったが、腕にチカラが入らないので今日は辞めておこう。うん、今日はここまで。時間的には2~3時間だが体が付いていかないのですよ。


 今日の稼ぎは合計で・・・35万円!


 時給10万円超え。敬太の給料1か月半、いや2か月分だ。ポーションは見つからなかったがしょうがない。見つけるのは早い方がいいが急いでいる訳じゃない、また今度頑張ろう。


 なんとなくATMを見たら画面に文字があったので、立ち上がりATMの前に行った。


『レベルアップおめでとうございます。』


 ほうほう、またこれかと画面に触ると切り替わり


『レベルアップボーナス』


自動マッピング

椅子

ロッカー

ヨシオ音声


 いつぞやのやつだった。前回はこれで鑑定を選んだんだけど、今回はどうしようかな。マッピングは迷う程進んでないし、椅子は長時間この部屋に居座る気もないし、ロッカーかヨシオ音声のどっちかだな。


 確かこの「ヨシオ」ってのはATM機の名前だったはず。鑑定で出た名前が確かそんな感じだった。それの音声だから、このATM機がしゃべり出すんだろうか。だとしたら賑やかでいいかもしれない。ロッカーはあったら便利だろうと単純に思う。


 面白そうな音声か便利なロッカーか。


「ピン」

『カードを置いて下さい。』


 ヨシオ音声はハズレだった時のウザさがヤバそうだったので、無難にロッカーを押した。超音波のような声とかダミ声だったら目も当てられないじゃん。


 ススイカを指定された場所に置く。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意ください。』


 ススイカを置いた直後、後ろで何かが動く感じがしたのでパッと振り返ると、壁際にロッカーがあった。す、凄いですね・・・。前にもATMが突然現れていた時があったが、考えても答えが出るような事じゃないし、深く考えたら負けな気がした来た。


 ロッカーは白くて見た感じ結構大きかった。さっそく開けてみようと、取っ手を引っ張ったのだが鍵がかかっているのか開かなかった。取っ手の部分を見るとススイカのマークがあり、何か読み取ってくれそうな黒い四角の物体が付いている。はは~ん。分かったぞとススイカを黒い四角に近づけると


「ピッ」


 っと電子音がなった。よしよしと、取っ手を引っ張ると抵抗なく開いた。


 ロッカーの中は上と下に仕切りがあり、小物や靴がしまえそう。奥行きもありハンガーも2個ぶら下がっていて、フックやら鏡やらまであって、使い勝手はよさそうだ。


 さっそく使ってみよう。仕切りの下にはヘルメット、仕切りの上にはネックガードとか防刃手袋を置いて、つるはしは・・・余裕で入りました。木刀もバットケースをフックに引っ掛けて、うん。丁度いいわ。


 とりあえず部屋の隅にまとめていた物を全部片づけた。曲がったバットは少し迷ったが、一応しまっておく。ロッカーのドアを閉めてから、これ鍵はどうするんだ?と思ったが取っ手を引っ張っても開かなくなっていた。自動ロックとはハイテクですな。


 何回かススイカをかざし、開けては閉めてして遊んだ。


 ATMを見てみると、いつもの「チャージ」のみの待機画面になっていたので、用事は終わったとばかりに部屋から出る。


「ピピッ」


 駅に戻り、今日はドラッグストアに寄ろうと思う。またひどい筋肉痛になりそうだったので、スプレーとか塗り薬が欲しくなったのだ。


 自転車を漕ぎ24Hのドラッグストアへ。目当ての物はすぐに見つかり、塗り薬にした。なんちゃらゲルってのが効きそうだ。それからロッカーにだいぶ荷物を置いてきて身軽になっているので、オムツやらトイレットペーパーやら入浴剤とかも買って、自転車一杯にして家に帰った。


 

 家に帰り、買ってきた荷物をしまい風呂へ入る。ちょっと高い入浴剤で湯船につかり、入念に筋肉マッサージをする。風呂上りには買ってきた塗り薬を塗っておく。


 それから買っていた半額弁当を食べて昼寝とは言わないのかもしれないが、仮眠をとった。

 


 朝7時にスマホのアラームで起こされ、父親の世話をする。家の掃除やら何やら細々した事をして、朝ご飯だけど敬太にとっては晩御飯を食べて、そこからはゆっくりした。テレビを見たり、たまに父親をひっくり返したり。


 昼になり父親にご飯を食べさせて、それから敬太は寝る。いつも通りだ。



 19時にスマホのアラームで起きる。父親の世話をして、敬太もご飯を食べる。


 今日も休みの日なので、ダンジョンに行くか考える。少し体を動かすとちょっと筋肉痛で痛いが、お風呂のマッサージや塗った薬が良かったのか、動けないほどではないので少しだけ行くことにした。


 家を出て、いつものルーティンで半額弁当とお茶を買い駅へ行く。


 ほとんどの装備品をロッカーに置いてきているので、いつもの目立つ格好の敬太はここにはいなかった。


「ピピッ」


 改札部屋につき


「ピッ」


 ロッカーを開ける。なんかカード一つで色々出来てカッコいい気がした。


 ちょっと筋肉痛をほぐすように屈伸したり腰を回したり、準備運動みたいなものをしてから、装備を身に着ける。やはり、つるはしで使った筋肉が痛むなぁ。今日はダンゴムシは止めておくか・・・。


 つるはしをロッカーに残したまま閉めた。今日は木刀で勝負するつもりだ。


 扉を開けて、いつものダンゴムシが多い右手の階段には向かわずに、左手の穴に向かう。


 左手を壁に添え進んでいく。隅に着き壁と同じ様に90度曲がって先に進む。しばらくすると穴が見えた。車が1台走れるぐらいの大きさで、天井は丸くアーチ型になっている。奥を照らすと白い奴を見つけた。ブレイドラビットだ。


 背中から普通の木刀「赤樫 小次郎」を抜き出し両手で持ち構える。ウサギはライトに照らされても反応しないで丸まっていた。昆虫系なら何も考えないで殺れるのだが、このウサギはかなりSAN値を削られる。精神的にきついのだ。


 ウサギは噛みつき引っかき、危ないやつなのは分かっているけど、3万円落とすのは分かっているけど、気が進まないんだよね。


 ほら嫌だと思っているとダメなんだよ。ウサギがこっちに走ってきたよ。木刀を腰の位置で構えているけど動けないでいた。


 そんな敬太を嘲笑うかのようにウサギは足元に突っ込んできた。前回と同じように、片足を上げ躱す。今回はウサギが軸足に当たることなく敬太の後ろに消えていった。

 

 ウサギの姿を追いかけ敬太はグルんと後ろを向くと、ウサギは既にUターンしてさらに突っ込んできていた。予想以上の早さだったので太ももに当たられてしまった。 


シャカッ


 敬太の太ももには、ぶつかってきた重さだけが残り何か擦れる様な音がした。多分噛みついてきたんだろう。草刈り防護ズボンが仕事をしたようだ。

  

 握っていた木刀で叩くというよりかは、押しのけるような感じで太ももからウサギを引きはがすが、押しのけられた途端にまたすぐ飛びついてきた。


 むむむ・・・となった敬太は、飛びついてきたウサギに合わせ今度は蹴とばした。カウンターで蹴とばされたウサギは2~3m先にまで飛んでいき、そこで止まった。


 蹴とばしたウサギが穴の方向にいるので、そちらを見ていると穴の後ろからもう1匹ウサギが近づいてくるのが見えた。


「増えた・・・」


 仲間を呼ぶ機能でもあるのだろうか。2匹となると嫌な記憶が蘇ってしまう。


 そう、分かっているんだ。殺るか、殺られるかだ。


 後ろから来たウサギは、蹴り飛ばし、じっとしていたウサギの脇を抜け勢いそのままで、敬太に迫って来ようとしている。


 左足を後ろに引き、腰を落とし木刀を上段に構える。それと同時に突っ込んで来たウサギはぴょこんと飛んだのが見えた。中途半端な攻撃は、精神的ダメージを受けるんだ。やるなら思いっきり。


 タイミングを計り上段から木刀を振り下ろすと、カツンと硬い感触が木刀から伝わった。


 木刀を喰らったウサギは地面に叩きつけられてから、一瞬起き上がるような仕草を見せたが、すぐに支えが無くなったかのように横に転がり倒れた。


 良かったと胸を撫で下ろし、蹴とばした方のウサギに目を向けると丁度こちらに突っ込んで来ているところだった。ウサギ同士で通じているかの様にコンビネーション攻撃をしてくるので驚いたが、納得もした。大怪我させられた時も、そんな様子だったからだ。


 振り下ろしていた木刀を、腰を捻ってスイングする。スピードがあまり乗らずタイミングがずれる。その為ウサギが敬太の脚に激突してから、ウサギの腰辺りを打ち付ける感じになった。完全に振り遅れた感じだ。


「キー」


 ウサギには発声する器官は付いてないらしいのだが、痛かったりすると悲鳴を上げる。


 中途半端な攻撃で中途半端な事をしてしまった。鳴き声を聞かされ申し訳ない気持ちになる。せめて手早くと、ススッと半歩近づき上段からの打ち下ろしを放つ。ウサギの動きが鈍くなっているので狙いやすかった。


コッ


 狙った通りの後頭部。剣圧に押し潰されるように地面に突っ伏して動かなくなった。


 それからちょっとだけ時間差で、2匹のウサギは煙に包まれ消えていった。



 ウサギは嬉しいときには「クークー」って鳴くんだよ。


 後には1万円札が落ちていた。

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