第7話 開放
小休止を終えヘルメットを被り直し、リュックを背負ったら準備はOKだ。さっそく次のピルバグと言う名のダンゴムシに向かう。
ダンプのタイヤみたいなダンゴムシ、不思議な事にまったく動かない。グルリと1周ダンゴムシの周りを回って様子を見ても動かない。ご飯とかどうしているんだろうとか疑問は絶えないけど、とりあえず殺りますか。昆虫系は気が病まないから楽だ。
「いよいしょおおお」
パスッ
深々とつるはしが突き刺さる。殺ったかどうか手を放し様子を見るが、ダンゴムシは足をワキワキさせているだけで、煙を出す様子は無い。仕方がないのでもう一発だなと、つるはしを抜きにかかる。
ぐりぐりしたり引っ張ったりするが、つるはしが抜けない。足をかけ引き抜こうとしたり、ねじりを加えて抜こうとするが、びくともしない。
なんだこれ。つるはしを振り下ろすより抜こうとする方が疲れるじゃないか。
精一杯のチカラを込めて引き抜こうとする。
「う~~~~」
ぐりぐりしたりしながら、どうにか引き抜こうと戦っていると、急に煙が噴き出してきた。慌ててつるはしから手を放して、後ろに下がる。すでに、はぁはぁと軽く息が上がっている。
煙が薄れてくると、やがてつるはしは地面に落ち、お金が落ちている。
お金を拾い、次に向かう。
パスッ
煙は出てこない。仕方がないのでまたぐりぐりしていたら煙に包まれた。
これ、ぐりぐりがしんどいんだけど~。もはや呼吸は乱れ、ヘルメットの中は激しい息遣いで曇り、前が見えにくい。仕方が無いのでシールドを上げようとしたが、ヘルメットの上に付けているヘッドライトが邪魔で、シールドが上がらなかった。これでは作業が出来ないので、ヘルメットを脱ぐと結構な汗をかいていた。日頃の運動不足が悔やまれる。
お茶を飲み再び休憩を入れる。今までつるはしを使った事がなかったので、どうやって扱えばいいのか分からない。イメージだと地面とか掘るときに使ってそうだけど、振り下ろす度に抜けなくなるのに、どのようにして使ってているんだろうか?つるはしを見つめぼんやりと考える。
そこでふとテレビでやっていたのを思い出す。どんな番組だったかは思い出せないが、つるはしでアスファルトをめくり上げ、浮かしたところをハンマーで叩き割るという昔ながらの手作業の道路工事風景。それが脳内で再生された。つるはしをアスファルトの下に潜り込ませるように振り下ろして、てこの原理でくいっと持ち上げていた。
そうか「くいっ」とすればいいのか。
単純なもんで、なんだか分かった気になってやる気が復活した。さっそくヘルメットを被り次のダンゴムシに向かう。
パスッ
よし。振り下ろしは上手くいっている。深くまで刺さっている。ここから、つるはしの柄を「くいっ」と立ち上げればいいのだろ?
「よいしょ」
「くいっ」とやるとダンゴムシのワキワキしていた足が止まり、煙が噴き出してきた。どうやら上手くいったようだ。一息で仕留められ、かなり早く殺れ、しかも楽だった。
一度扱いのコツを覚えたら早く、あっという間に殲滅が完了した。さて、腕にきちゃってるから一旦戻ろう。きっと明日か明後日には筋肉痛だろうなぁ。
階段を降りて改札部屋に戻り、くつろげるぐらい装備を外し、つるはしをカモフラージュしていたダンボールがあったのでお尻の下に敷き座った。
「14だから今日の稼ぎは15万円」
ウエストポーチからお金を取り出し数えてみた。今の時間は23時40分なので、約3時間でこの稼ぎ。時給5万円だ。稼ぎ的には満足したが、目的のポーションが出てこない。運が良くないのか、何か手順があるのか。どちらにせよバットが曲がってしまったので、今日は帰るしかあるまい。つるはしを振り回せるような腕力は持ち合わせていないのだよ。
さっそくとばかりに立ち上がり帰り支度を始めようとしたが、ATMの画面に文字が写っているのが見え手を止めた。
『レベルアップおめでとうございます。』
お、来たな。前にもあったやつだ。
『ペット開放ボーナス』
『スタートボタンを押して下さい。』
ん?ペットとな。相変わらず意味が分からんし、キャンセル出来ない。何か押さないと先に進めない。半ば強制だよね、これ。
「ピン」
『スタート』
画面にデフォルメされた動物とかの絵が映し出され、ルーレットの様に次々と絵が入れ替わっている。
『ストップボタンを押して下さい。』
はいはい・・・
「ピン」
『テ・テ・テ・・・テテーーーン』
何か止まったな。
『忘れずにお持ち帰りください。』
ガタン
ATMの、そこが開くの~?ってところが開き、中を覗き込むと卵が1個入っていた。何か知らんけど「持ち帰れ」って言われたのでとりあえず手に取ってみる。すると、ATMの開いていた所が閉まり、画面にはペットの扱いに関するであろう注意事項が書かれていた。
ふむふむと全て読み終えると、画面は切り替わり「チャージ」とだけある、いつもの待機画面に戻った。
注意事項を要約すると、卵は割れちゃうけど身に着けていてね。卵が孵ると仲間になるよ。って事らしい。
まいったなぁ。まさかATMから生モノが出てくるとは思わなくて、受け取っとてしまったよ。ATMの中に戻せないし、割ってしまうのは忍びない。
手のひらで転がる卵を見て困り果てるが「仲間になる」との一文が、どうなるのか面白うそうなので持って帰る事にした。ダンジョンの探索に役に立ってくれればいいけどね。割れないように持っていたタオルで包み込み、ウエストポーチにそっと入れた。
「はて、帰ろか。」
ひとり呟き荷物をまとめる。リュックを背負いヘルメットを拾い上げようとしたが、荷物がガチャガチャとあると卵を割っちゃいそうだなと思い、つるはしや曲がったバット、ヘルメットなど大物はこの部屋に置いていく事にした。まだポーションを手に入れられていないので、また来るつもりだからね。
おいていく荷物を部屋の隅にまとめ、改札を使う。
「ピピッ」
翌日、案の定、筋肉痛に襲われた。特に前腕がバキバキで、箸を動かすのも大変だったぐらいだ。だが、密かに翌日に筋肉痛が来て、まだまだ若いななどと喜んでいたのは秘密だ。
父親には悪いがポーションは、もうちょっと待ってもらおう。こんな状態では、つるはしどころかバットも振れない。安全第一、急がば回れだ。
そんな訳で、今日は父親の世話をして、ゆっくりと過ごす事にした。しっかりとご飯を食べて、時間をかけてお風呂に入り筋肉をほぐす。戦士の休養日だ。心身ともにリフレッシュ、いい休日を過ごした。
眠る前にママゾンを漁る。なんだか最近の日課のようになってしまっているな。欲しいものは2点。1つは「く」の字に曲がってしまったバットの代わりに、手軽に振り回せるような武器になる物。もう1つは卵入れだ。何か入れ物に入れて持ち歩けば、割れてしまう確率を減らせるだろうと考えたからだ。
まずは武器を思い浮かべる、ゴルフクラブとかバール、鉄パイプ、後は木刀辺りだろうか。腕力がなくても、ブンブン振り回せる物。
一つ一つ検索して眺める。重さとか長さが数字で表示されているのだが、いまいちピンと来ない。どれぐらいの感じなんだろうと想像は出来るけど、それ以上が分からない。この辺がネットショッピングの不便な所だよね。
そんな中一つピンと来るものがあった。素振り用木刀というものだが、レビューの評価が高く「硬くて、いい重さ」ってのが大半だった。商品名は「日本刀より重い 水に沈む木刀素振り用木刀115cm(2,5kg)」だ。お値段9,800円。何か水に沈むってフレーズが気に入った。いいね~っとポチる。
ついでに重すぎた場合を考え、関連商品の普通の木刀も1本ポチっておく。「赤樫 小次郎」ってやつにする。レビューの評価が高かったからで、思い入れは特にない。
続いて卵の箱を探す。これはすぐに見つかった。宝箱型にした。箱の中に梱包材を一緒に入れておけば大丈夫だろう。
ついでに防刃ロングTシャツもポチった。29,820円と高かったが、肩が無防備だったので欲しかった。値が張るがケチって怪我したら、元も子もない。
次に日からは、仕事が忙しくなりダンジョンに行く時間を作れないまま、あれよあれよと1週間が経ってしまった。
だが、その間に何もしていなかった訳ではない。
ママゾンから荷物が届き、木刀が2本という事で二刀流剣士みたいだとテンションがあがってしまい、どのように2本帯びればカッコいいかと考え、あーでもない、こーでもないと試行錯誤に時間を取られてしまったのだ。
始めは腰に差すのがいいと思い、バットケースを改造して腰の辺りにくるように紐やベルトで調整して作ったのだが、どうしても歩く時に足に絡まるので断念。ならば忍者の様に背に斜め掛けにしようと、ベルトの長さを調整し紐などでバランスをとり、納得がいく仕上がりになったが昨日という事だったのだ。
なので今回の探索も休みの日、丸々一週間ぶりにダンジョンに向かう。
夜の19時に起きてご飯を食べて、父親の世話をし洗濯機を回し、家の用事を粗方済ませて20時半に家を出た。
途中いつものスーパーに寄り、半額弁当と特売のペットボトルのお茶を3本買って、颯爽と自転車を走らせ駅に着く。
今日の出で立ちは、背中に斜め掛けのバットケース、中身は木刀2本。その上にリュックを背負い、腰にはウエストポーチ。手には半額弁当が入ったスーパーの袋を持つ。
はい敬太です。
ススイカを取り出し改札に進む。
「ピピッ」
パッと改札部屋へ辿り着く。ぐるっと部屋を確認するが、何の変化もなかった。つるはしやヘルメットなどの装備品は部屋の隅に置いたままの状態であるし、敬太が汚した床の汚れ、床に敷いたままのダンボール。前回来た時のままの状態だ。
何故こんな確認をするかと言うと、敬太は拾ったススイカでこの改札部屋に来た訳だ。という事は、そのススイカには持ち主がいて、この改札部屋に出入りしてるのではないだろうかと考えたからだ。拾ったススイカはまだ敬太が持っているのだが、何かしらススイカ以外の方法で来れる手段や伝手があるのでは?と考えたのだ。
だが人が来たような痕跡は発見出来ず、かと言ってススイカを求めてコンタクトを取ってくる人もいない。敬太的には勝手に人の物を使って、勝手にダンジョンを荒らして回っているっていう状態なので、正当な持ち主に見つかり「出ていけ~」って言われるのが怖いのと同時に、会って話をしてダンジョンの情報が欲しいというのと半分半分な状態だ。会いたいような、会いたくないような。
しかし、ここまで何もないとススイカを落とした人も困っているのでは?と考えてしまう。早々にススイカを警察に届けて、この改札部屋に書置きでも残した方がいいのかなとも思うのだけど、お金が落ちるし、美味しいんだよね。
『鑑定』
ススイカ(改)
魔改造されダンジョンに入る為の通行手形の役割も付いている
※※※※専用
相変わらず何も出ない鑑定結果。
本当は独り占めして、お金を沢山欲しいところだが、本当の持ち主を困らせてしまっていたら、問題があるし・・・
とりあえず、ポーションが取れてからかな。それから、その後にススイカを警察に届けて、部屋に書置きもしておこうと心に決めた。
ネックガードにフルフェイスのヘルメット。今日は防刃ロングTシャツも着こんできている。背中には木刀2本、肩にはつるはし。
ポチポチと各部のライトを点灯させて扉に手をかけて、グイっと押し開けると広がる闇の世界。ライトで照らさなければ何も見えない漆黒の闇。
恐ろしい場所なのだが、夥しい数のライトを身に付け、金に目がくらんだ敬太は先へと先へと進んでいく。
一番恐ろしいのは人間の「欲」かもしれませんね。
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