冒険者の街‐4
「メシができるまで時間もある。話そうや坊主」
アルゴがそう言うので、カウンターに座って会話をすることになった。
「それにしても大変だなぁお前さん、いきなりこの街の三大冒険団に目ぇつけられちまった」
「三大冒険団……?」
「なんでぇ、知らねぇのか?」
アイラ……彼女もこの世界の女神なのだから、この街ぐらい十分に詳しいだろうに、何も説明せずに放り出したようだ。妖精族のことといい、俺のステータスのことといい、若干腹が立ってきた。
「三大冒険団ってのは、半分伝説みてぇなヤツらが作った冒険者の集団だ。だいぶ昔のことだから今は団長も代わっちまってるがな」
「なるほど。ありがとうございます。なにせ俺、別の街のさらに辺境の村から来たもので……」
「あぁ、いいって事よ!まぁ、この辺の話に関しちゃあ、俺より詳しいヤツに聞いた方がいいぜ」
アルゴと話していると、いつの間にか横にエルフの女性が立っていた。
「お客様、お待たせしました。お料理二人前です」
するとアルゴが丁度いい、とその女性に話を振った。
「スエル、おめぇ見送りながらこの街の冒険団について教えてやれ」
「はい、わかりました」
スエルと呼ばれた女性とギルドを出る。家は神殿の近くで借りていると伝え、神殿に向かう。
「……先程は姉がご迷惑をおかけしました」
「……ん?」
「失礼。まずは自己紹介を。私、クー・スエルと申します。セレナは私の姉です。」
「あぁ、そういうことですか!俺はタカミネハヤトと言います。今日この街に来ました」
「そうなのですね。……お客様に気を使っていく訳には行きません。いつもの口調でお願いします」
そうはいわれたものの、上品を形にしたような彼女に対して、いつもの口調を出す気にはならなかった。
「いえ、このままでいいですか?」
「タカミネ様がそうおっしゃるなら。ところで、この三大冒険団について、説明させていただきますね」
スエルさんのほうが、よほど女神らしかった。取り替えてほしい。
「そうですね……、だいたいはアルゴの話の通りです。伝説級の冒険者がそれぞれ創った冒険団。その意志を継いだものが代々団長となっています。そして、現団長ロンド・サヴァン、フィティス・サージュ、ベルトロ・インウォーカーの三人は、いずれもSSランクです」
「SSランク……?俺より、二つ上ですか」
「えぇ、ですが、ランクが高ければ高いほどその一つ一つの差は大きいと言われています。SSともなると、およそ人間とは思えないステータスとなるそうです」
女神から能力をもらった俺がAランク、SSランクとは、どれほどの力の持ち主なのか。
「中でも≪聖騎士≫と呼ばれるインウォーカー氏は、この三人の中でも実力が一番と言われています」
三大冒険団をまとめるSSランクの冒険者三人のなかでもトップ。つまりは最強というわけか?となるとSSSランクはどうなのだろうか。
「そして、SSSランクの冒険者は────いません」
「……いない?」
「はい。いません。伝説と言われる三人の冒険者を除いて、SSSランクは未だに現れていません。現状、インウォカー氏が最も近いとされてはいますが」
現在存在しないSSSランク。SSランクですらこの目で実力を見たことがないが、一体どれほどの高みなのだろう。しかしここで、俺のゲーマーとしての血が騒ぐ。上があるならばどれだけ上でも目指したい。そう思った。
「冒険者にも派閥やそれぞれの考えがあります。もちろん、同じく高みを目指し続ける三大冒険団にも、方針や気質が違うものです。たびたび衝突を起こしていた彼らですが、数十年前に条約を結び、現在は良好な関係を保っているようです」
「では、それ以外の冒険団は?」
「三大冒険団以外の冒険団も存在しますが、いずれも規模の小さいものです。他と違う独特な考えや、戦いを好まない冒険者たちが集まって結成されています」
「なるほど……。ありがとうございます。だいたいのことはわかりました」
分かりやすい説明だった。本当にアイラよりもこの街のことを知っているのではないだろうか?これからはわからないことがあったらスエルさんに聞いてみることにしよう。
「あぁ、冒険団についてではないですが。妖精族についてもある程度知識が必要ですね」
頼もしいことこの上ない。是非この機会に聞いておこう。いろいろ省くどこぞの女神と違ってしっかりと教えてくれそうだ。
「よろしくお願いします」
「太古の存在である妖精が、時代に適応し変化を繰り返した結果、人間に近づいた種族。それが妖精族です」
そこまでは知っている。しかし、その関係や種族の特徴については、割愛されてしまったので全く分かっていない。
「まず、エルフの特徴としては、尖った耳と緑系統の髪の色、男性含めあまり筋肉質でないことですね。だいたいのエルフが、ドワーフとは不仲です」
セレナやスエルさんを見ているので、エルフの特徴はもう掴んだ。ドワーフと不仲ということは押さえておこう。
「そしてドワーフは比較的背の小さい種族です。しかしながら、もともと山や洞窟に住んでいた彼らは寝台能力が高く、非常に頑強です。また、彼らの打つ武器は、高性能であることで有名ですね」
「スエルさんはドワーフについてどう思っているんですか?」
そう聞くと、スエルさんは少し困りながらも、しっかりと答えてくれた。
「どう思っている……ですか。種族的に、面だって関わりはしませんが、実際私自身が嫌なことをされたことはないので、嫌っている、というわけではないですね」
改めて上品で良い人だと思う。種族まるごとの関係となると、小さいころからそう教えられているはず。それでもこうハッキリと言えるとは。
「次に、サラマンダーですが、彼らは火の妖精と言われています。耳は長く、鋭い爪を持っています。全員体のどこかに火の模様の刺青が入れている種族です」
他にも、水の妖精ウンディーネにはプライドが高い者が多いことや、猫の様な妖精、ケット・シーについても教えてもらうことができた。
結構話していたのだろう。いつの間にか神殿のほぼ手前にまで来ていた。
「ありがとうございました。ここまでで結構です。料理、いただきますね」
「こちらこそ、お話しできて楽しかったです。今後とも、どうぞごひいきに」
別れの挨拶を告げ、ある程度大通りから離れた後再度神殿に向かう。極力人目につかないように気をつけながら暗い夜道を歩く。大通りを外れると人気は一気になくなり、灯りも減った。不気味なまでに静かだ。
足早に神殿前の階段まで歩き、誰も見ていないことを確認して登っていく。
無事、誰にも会わずに神殿まで戻ることができた。
「アイラ、帰ったぞ。入れてくれ」
「はーい、わかったわー」
返事が返ってくると同時に、足元に魔方陣が浮かび、光と共に俺を転送した。
女神さまの小間使い!~眷族として転生しました~ @ginnan8288
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