冒険者の街‐3
俺と受付嬢の話が終わると、囲っていた人々は散っていった。登録も済んだことだし、本来の目的である酒場に行こうとすると、行く手を塞がれた。
「初めまして。私はメア・シアール。アイリスクランに所属する幹部だ。……この後、時間をもらえるだろうか?」
「あっ!おい!抜け駆けはズリィぞ!よう、俺は炎竜旅団所属、ウズル・シームってんだ。話なら俺もあるんだ。よろしく頼むぜ」
「ちょっと待ってください御二方!私も話したいんですよ!あ、森の守護団、クー・セレナです!よろしくお願いします!」
そう言って一斉に声をかけてきたのは三人の冒険者だった。
一人は薄い紫髪のサイドテール、濃い黒目の女性、おそらく俺と同じヒューマンだろう。いや、眷族の俺がヒューマンと呼ばれるのかは知らないが。
もう一人はヒューマンではない、耳の尖った赤い髪の男だった。
「サラマンダーね。火の妖精族よ。腕に火の様な刺青が入っているのわかる?」
ネックレスから通して見たのだろう。アイラが教えてくれた。丁度いいので、この街に来てから気になっていたことを聞くことにした。
「アイラ。妖精族とはそもそも何なんだ?」
「妖精族、って言うのは、太古の妖精が時が経つにつれて姿を変えて、ヒューマンに近づいた存在と言われる一族よ。」
「エルフやウンディーネといったものか」
「そうねー、まぁ仲が悪い妖精族同士もいれば、無駄にプライドが高いのもいるから、気をつけてね」
アイラが言い終わると、ネックレスから漏れる淡い光が消えた。
では、最後の一人は、エルフだろう。尖った長めの耳、緑色の肩ぐらいでそろえられた髪、他の二人と比べて軽装の女の子だった。
「初めまして。タカミネハヤトです。それで、お話しとは何でしょうか」
初対面には礼儀正しく。うん、アイラの時はとてもそんな気が回らなかったし、彼女に礼儀なぞ払いたくないが、大事なことだ。
「あぁ、そういう堅苦しい感じじゃなくていいぜ。話ってのも、そこまで難しい話じゃねぇ」
おそらく、三人とも同じ要件なのだろう。そろって頷いている。
ウズルが堅苦しくなくていいというので、敬語を使うのはやめることにした。
「まぁ、難しい話じゃないと言うなら。時間にも余裕ある」
「タカミネ、アイリスクランに所属する気はないか?」
「ハヤト!是非とも炎竜旅団に参加してくれ!」
「ハヤトさん!森の守護団でどうでしょう!」
三人同時に俺を勧誘してきた。さらに、今度はその三人で俺を奪い合う言い争いまで始めた。
「はぁ、聖騎士がまとめる我がクラン以外選択肢などないだろう?」
「バカ言ってんじゃねぇ!一番は炎竜旅団に決まってんだろ!?」
「森の守護団もすごいところなんですよー!御二方!」
なるほど。新しくこの街に現れたAランクの冒険者を自分たちの仲間に引き入れようというわけか。……俺としては構わないし、面白そうだ。
だが、俺は今女神の眷族。アイラが許してくれなければ無理だろうな、といったところだ。
「どう思うアイラ」
俺が呼びかけると、すぐに返事が来た。
「ダメよ!ゼーッタイダメ!冒険者になってもあんたはあくまでも私の眷族、小間使いよ!他のやつの下につくなんて許すわけないでしょ!」
だそうだ。仕方がない。俺が何処かの集団に入ることを前提として言い合っている彼らには悪いが無理なようだ。
「……あぁ、言い合っているところすまないが、俺はどこにも所属する気はないぞ」
俺がそう言うと、唯一クールそうな雰囲気のメアまでもが
「「「えぇーーーーーーっ!?」」」
と叫んだのだった。
「申し訳ないな。俺はしばらくはソロでやっていくつもりだ」
少しは団やクランに所属したり、パーティを組んで冒険に出ることに興味があったが、うちのわがままな女神さまの言うことに従っておこう。彼女の機嫌を損ねたら面倒くさそうだ。
「タカミネ君あなたAランクなのよね?絶対にどこかに所属したほうがよりうまくやっていけるわよ?」
冷静さを取り戻したメアが諦めずに食いついてくる。
確かにプレイしていたオンラインゲームでも、俺はチームに所属していたし、ソロで試合に参加するよりも圧倒的に戦いやすかった。だがそれは、チーム内で連携が取れる状態、つまり、面倒な隠し事や、関係のしこりがないことが条件だ。
どこかに所属するとしても、自分が眷族であるということは隠さなければいけないだろう。万一のことを考えると、やめておいた方がいいと自分でも判断を下した。
「今は無理だ。諦めてくれ」
「じゃあ、いかは入ってもらいますね!」
「あぁ、いつかはな」
俺が絶対にどこにも所属しないと分かったのだろう。三人とも引き下がってくれたので、これからも縁があれば、と挨拶だけして別れた。
これでやっと酒場に行ける。本来の用事はこれだったのに、ギルドへの興味本位で受付に立ち寄ってしまった結果、こんな時間がかかってしまった。アイラも待って居ることだ。少し急ごう。
酒場のカウンターにつくと、いかにも酒場のおやっさん、といった風貌のマッチョな男が、やはり豪快に話しかけてきた。
「おぅ坊主ゥ!聞いちまったぜ?おまえさん一年でAランクだってなァ!最近の若いモンってのはわかんねェ!」
「ははは……」
あまりの勢いに押されてしまう。今までこんな豪快な人物と話したことはなかった。これからこの酒場を利用するとなれば、慣れるまで大変そうだ。
「あぁ、俺はアルゴってんだ!なんとでも呼んでくれ。ここの連中はだいたい、おやっさんなんて呼びやがる」
「じゃあ、アルゴさん、適当に二人分。お持ち帰りで」
「あいよォ!オメェら、適当に二人前だ!」
「「「あいよォ!」」」
どうやら、豪快なのは店主だけでなく、店員全員のようだった。
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