冒険者の街‐2
ギルドの中は、いきなり広間になっていて、受付や掲示板、待合のためだろうか、テーブルが多数並べられ、酒場までもが一つの広い空間にまとまっていた。天井は、通常の建物なら二から三階分の高さがあるだろう。
とりあえず、入口の反対側にある受付に行く。数人の受付嬢の内、一人が向こうから声をかけてきた。
「こんばんは!初めましての方ですよね?冒険者登録ですか?」
「あぁ、いや、実は酒場を使いに来ただけなんだが……」
「あぁ!そうでしたか!では、何か他に職業をお持ちで?」
しまった、自分の身分がない。まさか女神の眷族と答えるわけにもいかないし、この街はうまく噛み合って回っている。職業面で適当にごまかしても後々困りそうだ。それに、冒険者登録をするにしても登録に情報が俺にあるのだろうか。
「アイラ、どうすればいい?」
女神に助けを求める。帰ってきた返事は意外なものだった。
「すればいいんじゃない?冒険者登録。この街での住人票のようなモノよ。しておいて損はないわ」
「しかし、俺は君の眷族だ。住所どころか、この世界での経歴がない」
「別の街から来たことにすればいいわ。街ごとに冒険者の登録は別だから」
「なるほど──あぁ、すまない。そう言えばここは俺とは別の街だったな。冒険者登録で頼む」
アイラの機転に助けられた。腐ってもこの世界の女神だということだろう、なんだかんだ言って頼れる。そのおかげで正式にこの街での身分を手に入れることもできた。
「はい!そえではこちらの用紙に、お名前と年齢をお願いします。あぁ、信仰される神はアイラ様でよろしいですね?」
……必要とされる情報少なくないか?正直、そう思った。
というか、信仰される神を確認されるということは、この世界にも他の宗教が存在するのだろうか?その辺も知っておかねばと、胸に留めておく。
言われた情報を書き込んで、用紙を受付嬢に返す。
「ありがとうございます。では、次にこちらの紋章に手を置いて頂けますか?」
今度は紋章の書かれた紙を差し出される。アイラの加護といい、魔力や祈りは模様に込められるらしい。
指示に従って手を置く。すると、手が淡い光に包まれ、紋章は文字列に変わっていった。見慣れない文字だが、女神の眷族だからだろうか、読むことができた。
どうやら、ステータスのようだ。体力や筋力などの表記とともに、ランクがかかれていた。
光が収まると、受付嬢が紙を手にとり、俺のステータスを眺める。不意に、受付嬢が質問をしてきた。
「ハヤト……様。17歳……ですよね?何歳から、冒険者になれれました……?」
「あー……、いや、実は故郷で一年ほど冒険者をやっていたんだが、物足りなくなってな。この街に出てきたんだ」
俺がそう答えると、受付嬢の顔がみるみる驚愕に変わっていった。驚きのあまりか、彼女は叫んでしまった。
「いっ……、い……、一年ーーーーーっ!?……えっ!?でもこれ、この、ステータスだと、Aランクですよ!?」
他の受付嬢や、ギルド内にいる他の冒険者たちから、多くの目線が集まっているのが分かった。
どうやら、相当な高ステータス、高ランクらしい。自分でも予想していなかった展開だった。なぜなら俺は生前、ネトゲばかりやっていた上に、部活にも入っていなかった。お世辞にも身体能力がいいとは言えなかったのだ。
「あ、いや……Aランク?……すごいなぁ」
「すごいなんてものじゃないですよ!Aランクといったら、Eランクから冒険者デビューしたら十数年かかるランクですよ!?数もかなり少ないですし……。S~SSSとまではいかないものの、超上位ランクであることは間違いないです……!」
彼女の声があまりにも大きかったので、周りにも丸聞こえだったようだ。周囲がざわつき、あちらこちらから驚愕の声が聞こえる。
「あ、ははは……どうしてだろうなあ……?」
俺は困惑しつつ、心の中でアイラに疑問をぶつけた。
「──おい、なんでこうなった?」
「あー……。あんた、なんでか知らないけど、状況把握能力とか、反射神経とかがもともと異常に高かったのよね。それで、与えれる能力も強力なものが与えられたの」
おそらくだが、俺がやっているゲームの影響だろう。そのゲームではマップ一つ一つをしっかりと理解する能力や、音や味方からの報告で戦況を把握する能力が求められた。俺はかなりやりこんでいて、かなりの高ランク帯に所属していたし、立ち回りが上手いということで、名前も知られていた。それらの能力は結構鍛えられていたはずだ。
「神々が見えるステータスと冒険者としてのステータスは全然違うようだけれど、私が与えた能力と、私の加護の影響で、ステータスが大幅に上がったのね」
「能力?なんだそれは」
「あぁもう。説明してないことだらけね。あんたにあげた能力は≪掌握シージング≫よ。詳しくは私も知らないわ。上位神様から指定されただけ。でも、能力を与えるための器の必要量が超巨大だったし、チート級でしょうね」
俺がアイラと話している間に、受付嬢は落ち着きを取り戻したようで、話を再開してきた。
「……まさか、一年でAランクに到達される方がいるとは……。Sランク以上も夢ではありません!第一線を張る冒険者として、活躍きたいしております!」
酒場に行くだけだったはずなのに、いつの間にか超高ランクの冒険者になってしまった。本当になにがあるかわからないものだ。
なんだか、新ジャンルのゲームに手を出している気分だった。俺は期待に胸を膨らませていた。これから、どのような冒険が待ってるのか、どんな仲間と出会っていくのか。
ドラゴンの住む火山。財宝の眠る迷宮。魔物の巣と化した洞窟。いままでしたこともない想像が、次々と脳内に飛び出してくる。自分でも驚きだった。現実として体験できることに喜びもしていた。
そしてとりあえず、女神が直接見れない世界を見て回って、自慢してやろう。そう決めたのだった。
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