第10話 一人で行くのは止めとけと説教される
「でもさ、オスカー、先週の敵は小さいやつらが多かった。今度からは体重を量らないといけないかも」
「ノッチ、小さいからって危険度は同じだ。レーザーを一本食らっても、まず、どうってことは無いが、いっぺんに五本とか食らうと危険だ」
ジェレミーの忠告に、私は浮かない顔をした。
「うん。わかってる。最近、出現率が高いからね」
「ぼくとしては、複数行動を薦めるね、ノッチ。特に君は多くの敵に遭遇している。危険だ」
「シェリかゼミーを、いや、二人いっぺんに連れて行ったらどうだ」
オスカーが真顔で薦めた。
「敵さんは、倒した数が多い人間をチェックしているような感じだ。君は絶対マークされている。先週のこともある。やつらが、いっぱい出てきたら危ないぞ」
「そりゃチャンスだ」
「バカ言うな。危険だ」
オスカーが大きな声で言った。レッドの連中がびっくりして、装備の準備の手を止めてこちらを眺めた。
「すまん。声が大きくなった」
オスカーがあやまった。
「だが、本当だ。誰か連れて行け」
「ぼくからも薦めるよ。君は危険を気にしなさすぎる」
ジェレミーが心配そうに額にしわを寄せて薦めた。
「シェリとゼミー、二人も連れて行くだなんて多すぎだよ。遠足じゃあるまいし」
「では、ギルを連れて行け。あいつなら役に立つ。一応まだ見習いだ。ちょうどいい」
「ギルは充分すぎる。もったいない。チームとしての総計が減る」
「グラクイの数が多い時は、必ず、すぐ呼べ。約束してくれるな? ノッチ」
オスカーとジェレミーは、真剣に心配してくれているのだ。
「わかった……」
「オレを連れてって下さい。」
突然割り込んできたのはギルだった。
「オレなら役に立てる。そう言ったじゃないですか?」
オスカーとジェレミーは、驚いたようだった。私もだった。議論が白熱していて、ギルが来ていたのに気がついていなかったのだ。
「ギル……。お前じゃ、もったいなさ過ぎるんだ。たいしたことじゃないと……」
「行きますから。連れてってください」
「いや、なにしろ、敵さんが来ないかもしれないから……」
「いや、ノッチ、いっそもう、このままギルを連れて行ったら……」
「行きます」
ギルは真剣だった。
「とりあえず様子を見るよ。そんなにたくさんの敵に遭遇できないかもしれない。一匹でも多く殺したい。囲まれても連絡はすぐ取れる。大丈夫だよ」
オスカーとジェレミーは顔を見合わせた。
あんまり真剣に心配されると、不吉な気さえして、ちょっと嫌だった。それより、こんな不毛な議論は早めに終わらせて、糧食の選択だ。なにしろ、荒野に出たら、これしか楽しみが無いんだから。
「オスカー、なんとかなるって。それより、今度新しく入ったフレンチの糧食って、どうなの? デザートのチョコレートって言うのは、どうだった?」
オスカーはあきれて、そしてあきらめたようだった。
「……ノッチ、お前はどうしてそんなに食い物の話が好きなのにやせてるんだ」
倉庫に入って、一週間分を選んで申請しておいた。
これで明日から狩りに出られる。
準備万端だ。
この狩りがいつ終わるのだか知らないが、とりあえず人間相手じゃないので気楽だ。
ジェレミーは持ち場に戻り、マイカと明日の打ち合わせを始めた。ギルはなんだか点数表に取り掛かっていたが、気になるのか、ときどきこちらを見ていた。
シェリとゼミーがやってきた。シェリは頑張り屋の女の子で、まだトレーニングコースを卒業してから半年にしかならない。ゼミーはおとなしそうな、めがねをかけた細い男の子で、配属にはなったものの、内心、私は、彼はハンターには不向きでないかと思っていた。確かにシューティングの技術は確かなのだが、なんと言うか線が細いのだ。
「ナオハラ、遅いぞ」
オスカーが声をかけていた。
金髪に染めた髪を伸ばしたナオハラは照れ笑いをしていた。
コイツは、わりといい加減な男だ。だが、敵を容赦なく殺す。的確で迷いが無い。いいハンターになれる。なにしろ、荒野に女はいないから目移りする心配がない。
自室に戻って、私はベッドの上に横になった。
軍はグラクイを悪者にするためのデータを探していた。
グラクイが悪者にならなければ、軍の存在意義がなくなってしまうからだ。
この暗い空の原因が、グラクイにあると立証できればいいのだが。
そのために軍は、グラクイ出現前の気象データを探していた。比較立証というヤツだ。こうなると太陽光の防衛じゃなくて、ほとんど組織防衛の様相を呈している感があった。
なんだか、目的が途中ですり替わっているような気もするが、一方で、私の目的だって、彼らの首をはねるゲームに参加することだけだったから、似たようなものか。
そのほかのことは、どうでもよかった。
軍の事情は理解できるし、給与をもらっている以上、完全に軍の味方だが、空を明るくすることなど、私なんかの手に負える話じゃなかった。
一人で狩りに出るのが、とても気に入っていたのだ。あの灰色の風の中にたった一人で座って、まずいお茶を飲んでいると、心が澄み渡っていくのを感じる。
空は灰色だが、わずかに渦を巻き、かすかに色づいて流れていく。それは、美しいものだった。
グラクイは、私にしゃべりかけない。要求したり、感情を持ったりしない。ただのモノだ。
ライフルをセットして、空をにらむ。時間が過ぎていく。それでよかった。
いろいろありすぎて、二年前、ここへ来たのだ。
たいしたトラブルではなかった。だけど、自分にとっては、やりきれなかったので、何もかも捨ててここに居ついた。
軍は、私をほっておいてくれた。一人で狩りに行かせてくれた。
仲間は大勢いたが、誰も何も聞かなかった。衣食住に不満はなかった。
ありがたかった。
私は、今、人生を休憩しているのだと思う。こういう時間は大切なんじゃないかな。
翌日、荒野へ出るのは、ブルーの隊。一日置いてレッドが出る。その翌日、シルバー。次にブラックが出る。
次の日、基地へ出てみると、バルク少佐が眠そうに座っていた。
私はきちんとあいさつしたうえで、少佐にはかまわず、本日の着地スポットの確認に入った。
かなり敵地を侵食できている。
ジェレミーによると、我々は南方から攻め寄せているわけだが、この間の大成功のおかげで、大分と南方戦線は進んだということだ。
今まで一進一退だったことを考えると、大変な進歩になる。
オスカーが呼びにきた。バルク少佐が呼んでいるというのだ。
振り向くと、バルク少佐がこちらをみていた。
「失礼しました。着地スポットの確認に夢中になっていました」
「ううん、それはいいんだ」
少佐の話し方は、いつもどこか軽い感じがした。
「君の目は、薄茶色だね」
私はびっくりした。目の色?
「それはさておき、君の最近の戦果は、危険だよね」
ジェレミーめ。ちくったな。
「一人で行きたいとがんばっているらしいが、それは危険だ。ダメだ」
「では、シェリを連れて行きます。彼女の勉強にもなります」
少佐は首を振った。
「彼らは、自分たちを多く殺した者を覚えている。君と一緒に行く者は、彼らに覚えられてしまう危険を背負うことになる。ある程度、腕がある者でなければならない」
「こちらが複数だと、やって来るグラクイの数が減ります。グラクイが大勢出てきたら、救援を呼びます」
少佐は、私を見つめた。
「優秀な隊員を、あまり危ない目には合わせたくないのだよ。今後とも続く、長い戦いだと思っているのだ」
私は頭を下げた。
「必ず、遠慮なく救援を呼べ。一人で頑張ってはならない。そして、一人で頑張り続けるような人間は信用ならないのだ」
諭すような言い方だった。思わず、バルク少佐の目を見つめてしまった。反省しなくてはならなかった。彼の言うとおりだ。その言葉は身に沁みた。
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