第2話 仲間とシューティングゲーム三昧状態

「グラクイは出たか?」


「全然だめだ。今からいったん戻る」


「OK。ブルー隊のほかの連中も戻ってきてるよ」


 ジェレミーは不漁でも全く気にしていなかった。こういうことは良くあることだ。基地に帰れば仲間が大勢いる。

 うちのチームはブルー隊と呼ばれていて、メンバーは、親友のオスカー、まだ若い女好きのナオハラ、おとなしいゼミーと女の子のシェリの四人だ。我々のボス、オーツ中佐のしたにはこういった小隊が全部で四つあって、ブルー隊のほか、それぞれシルバー、ブラック、レッド隊と呼ばれている。最前線配備の中隊は、そのほかにもうひとつあり、それはパレット中佐の下に配置されている。


 昔はうちの隊も、もっと大規模だったそうだが、今は小さなものだ。実際に狩りには出ない兵站や研究部や事務方の人員を含めても、ここの軍の人員そのものはわずか百数十名程度。その他は、民間からの人員でまかなっていた。

 あとは中央に部隊がある。

 この規模では、真剣に戦争をする気があるのかどうかさっぱり意気込みは伝わってこないが、国と言う概念がなくなってしまったわけではないので、グラクイ狩りを口実に組織と装備だけは執念深く維持しているのかも知れない。


 軍の施設はかなり広く、この街の大部分を占めていた。むろん、そのほかに工場や学校もあった。ただ市民生活のかなりの部分が軍隊に依存していて、その意味でここは軍の街だった。


 戦争だけは断固として起こさないこの社会で、かつての銃だの手榴弾だのボムだのが残っていて自由に使えるここは、ひとびと、とくに若い層から妙な関心と人気があった。軍への入隊志願者は結構多い。なにしろ誰も死なないし殺さないが、銃は撃てる。

 軍隊の定員は恐ろしく減ってしまっていて募集数は少なかったので、入隊のための予備校まである始末だ。


 基地に戻るのにはGPSの瞬間移動を使う。

 基地や病院なんかだと受容装置があるので移動しても痛くもなんともないが、荒野にはそういう設備がないので、少しばかり衝動が残る。我々が基地と呼ぶのは最前線の我々の隊がベースとしている倉庫みたいな建物のことだ。


 一週間出ていたので、かなり汚い格好だった。おまけにほこりだらけだ。


 私が、ぶぉっとほこりとともに基地に着いたとたんに、ジェレミーが声を掛けてきた。


「ノッチ、新しい仲間が着いたよ」


 ジェレミーがにやにや笑いながら、私に言った。


「ああ、先週連絡のあった彼だね。なんて名前だったっけ」


 おそろしく大柄な若い男がやってきた。


「ギル・カービンです。よろしくお願いします」


「ノルライドだ。よろしく」


 頑張って脱ごうとしたが、すぐには脱げなかったので、仕方なく手袋のまま握手した。


「大きいな、君は。何センチあるの?」


 私は思わず聞いた。


「ノッチ、マイカも含めて、みんなが何回も聞いた質問をまたするなよ」


 ジェレミーが笑った。マイカはジェレミーの部下で、連絡係りと世話役をしている。


 彼らは戦場に出ない。常に情報を提供し続ける役回りだ。これは結構大変な仕事だ。気の利かないヤツでは勤まらない。

 ジェレミーは私とそう変わらない身長と体重の持ち主で、いつもにこやかで気分にむらけのない、付き合いやすい男だった。


「一九七あります」


「二メートル近いなぁ」


 思わず感心した。

 ギルと名乗ったその若い男は、黒い髪黒い目で、感じのいい目鼻立ちをしていた。

 信じられないくらいがっちりした体つきで、横に並ぶ者がいなければ、背が低いと勘違いされるかもしれない。

 実際には大男だった。彼が少し身をかがめて下を向いてくれたからいいものの、私では彼の顔が見えないくらいだ。


 ゼミーとシェリもいて、感心したようにギルの体格を見ていた。ゼミーはおとなしい青年だが、決して小柄ではない。その彼が小さく見える。


「しかも、彼はライフル競技で高校と大学時代にタイトルを取ったことがある。そのほかに格闘技が得意だ」


「すごい」


 うらやましい。ギルのほうはかなり照れくさそうにしていた。大柄で、朴訥な感じだ。まだ、とても若い感じがした。基地にいたレッドやブラック隊の連中もギルを見ていた。


「いくつだったっけ?」


「二三です」


 ジェレミーにオスカーから連絡が入り、すぐに彼が基地にGPSで到着した。またもや埃だ。


「オスカー、この前連絡のあった新入りが来ているよ」


 私が言った。


「ぶぉっ、どうもこのほこりはやりきれないね。うん、カービンだっけ? 大学出たての若いやつが来るって言ってたよね?」


「そうです。ギルって呼んでください」


「おれは、オスカーって呼んでくれ。オスカー・ライトだ。ノッチには会ったのか?」


「会ったとも、オスカー。一九七センチあるそうだ。うらやましいね」


 オスカーは、初めて目を上げて、ギルをちゃんと見た。その目に感嘆の色が浮かんだ。


「すげぇな。でかい男だ」


 オスカーも相当に横幅のある男なのに、その彼が感心していた。


「格闘技系で、そのほかライフル競技でタイトルを取ったこともあるらしい」


 オスカーはにやりとした。そして、私を見ると、


「ええ? ノッチ、トップを取られるぞ。いいのか?」


「格闘技は私には無理だよ」


 私はおとなしくそういった。ギルは、どぎまぎした様子だった。


「楽しみだな」


 オスカーがにやにやしながら言った。


「曹長はライフルが得意なんですか?」


 ギルが私の肩章を見ながらたずねた。


「ああ、こいつは、こんな小柄なくせに、命中率はすごいんだ。おれなんか全然歯が立たない。今のところ、各隊のトップはいつもこいつさ。百発百中だ」


 オスカーが説明した。


 ギルが何かたずねかけたところへ、また、連絡が入って、今度はナオハラが帰ってきた。


 そのうちレッドやブラックの連中も含めて、みんながどやどや寄って来た。ギルは口下手なようだったが、そこは若いもの同士で、けっこう話が弾んでいる様子だった。


「まあ、よかった。うちはメンバーが一人足りなかったからな。パレット隊にも、ギルと同じ大学の卒業で同い年のモンゴメリってヤツが入ったらしい」


 オスカーが言った。ギルを眺めて、


「無口そうなやつだが、あれでなかなか根性はありそうだ。どうだ、ノッチ、最初は連れてってやるか?」


 一人が好きな私はため息を着いた。だが、仕方ない。


「ああ。次の作戦からは連れて行こう。まずは、食糧の選び方から」


「あんたの食い物に対する執着には感心するよ。だけど違うだろ。それはマイカに任せとけ。あんたがしなくちゃならないのは、戦場におけるノウハウだ。グラクイを退治した数はあんたがダントツなんだからな」


「うん」


 私は気乗り薄に答えた。正直、面倒くさい。一人の方がいい。しかし、やらねばならない。私はブルー隊の責任者-曹長だった。


 軍は昔の名残でかっちりした組織を持っていた。研修や教育制度もきちんと整っている。

 三日間、私はギルに付き添って、装備の使い方、選び方を教え、最後にライフルの練習場に遊びに誘った。


「へえー、いいですね。無料で使えるんですか?」


 設備の整った射撃場をきょろきょろ見回しながら、彼は言った。


「チケットの配給があるんだ。練習するためにね。距離はいろいろだ。どれくらいでやってみる?」


 その次の週はギルと組んで出かけた。グラクイが比較的多く出没したので、かなり撃つことができた。


 ギルは無口だったし自分を主張するやつでもなかったので、彼と一緒にいるのは気楽だった。風が吹くだけの灰色の荒野はちっともすてきじゃなかったが、ふたりで交互に撃っては、薄暗いような空にグラクイの黒いからだをぶっ飛ばすのは爽快だった。彼はいい腕をしていた。


 次の週はオスカーと組ませた。


「あいつは勘もいいし、腕がいい。なにより無茶をしない。お前やナオハラとは違う」


 オスカーの評価も高かった。


 順々に全メンバーと組ませてみて全員に実力を認識してもらい、その後一人でもパトロールに出る手はずとなった。

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