第3話 荒野の狩りと月みたいな太陽
翌週、私はまた一人で出ることにして、ジェレミーに今日行くべき方面の指示を受けた。
「ノッチ、今度、新型の光ボムが出来たんで、それを持って行ってくれないか。テストをしてみたいんだ」
やつらは光に弱い。まるでモグラみたいな連中だ。強力な光に当たるとショックを受けて気絶してしまうのだ。
「OK、ジェレミー。そのボムはどう使うの?」
ジェレミーは説明してくれて言い添えた。
「俺たちに言わせりゃただの目潰しだが、やつらには効くだろうね。一度に大勢出てくる習性があれば、ものすごく有効だろうと俺も思うんだけど、いつも一匹づつしか出てこないからなあ。少しもったいない気がするけど、この分はテストだから遠慮なく使ってくれって」
「OK」
「他の連中は、それぞれ十キロ違いで展開していく。期間は一週間程度。この散開で、グラクイを見つけたら処分するをやっていく。このエリアをきれいにしたい」
GPSにログインして、地図を確認した。
グラクイの本城とは少し離れたエリアだが、戦略的に必要なのだろう。
グラクイが最も多く出てくるエリアを、我々は漠然とグラクイの本城と呼んでいた。
これから一週間は、独りになる。
もちろん、毎日、基地に帰ったっていい。その辺は自由だ。だけど、グラクイをたくさんやっつけたければ、荒野にできるだけ長くいなくちゃならない。
荷物は三十キロにも達する。荷物の重さに少しよろけながら隣のオスカーを見た。
彼は黒い顔をニヤリとゆがめて見せた。そして、肩を軽くどつきに来た。
簡単なことだ。GPSで移動する。まず、私からだ。オスカーが続く。ギル、シェリ、ゼミー、ナオハラは少し緊張しているような感じだった。
GPSをログオンする。位置をセット。確認する。ジェレミーも画面で確認し、うなずいて見せた。OKだ。移動する。
いつものようにふっと浮く感触がして、次の瞬間、どさっと地面に落ちた。
これが嫌なんだ。計算して、一応、安全な地点に落ちることになってはいるが、たまに水に落ちたりすることがある。それから、自分自身の体重だけは避けようが無い。
ちゃんと受け入れの装置があるところへ帰る分には、こんな目にはあわない。でも、こんな荒野でどうしろって言うんだ。
当然、暗闇だ。赤外線スコープで闇を透かしてみる。
GPSによると、半径百メートル内にやつらはいない。地形の確認。少し高低がある。慣れたものだ。半径を広げる。五百メートル。千メートル。ああ、いたいた。赤い点がバラけて三つみえる。
つまり、この付近にはやつらが3匹いるってことだ。
GPSは便利な代物で、携帯電話と位置確認とレーダーと瞬間移動装置とをかねていた。
そのほか、持参している個人の状態もわかる。たとえば、私が死んだらすぐに反応が送られる。ジェレミーが仰天して、救援をよこすことになる。まあ、ほんとに死んだ後だったら、救援をもらってもどうにもならないが。
グラクイがGPSを持っているのかどうかはよくわからなかった。一度、えらく旧式のを持参している個体が見つかったことがある。私が殺した連中は持っていなかったが。
やつらの行動様式はわかっている。毎度、群れてしまうのだ。少し北東へ移動することにした。やつらも単独で行動しているが、こうすると何人かが出会うことになる。出会うと、つい群れてしまう。群れると行動が画一的になってしまう。
やつらは、できるだけ画一的な行動をとらないように心がけているらしい。それなのに群れると必ずいつものワンパターンな攻撃しか出来なくなってしまう。
だから、彼らの行く先に仲間の姿が重なるようなポジションをとることだ。
ここには体を隠せるような起伏とか岩とかがあまり無い。とりあえず、防熱服が頼りだ。彼らも赤外線を頼りにしている。体の熱は危険だ。
こっそりレーザー銃を取り出す。
GPSで確認しながら、二時の方向へ移動し始める。やつらは気づいてくれたかな。
足元は崩れやすい岩の道で、いや、実は岩なのかどうかよくわからなかったが、スピードが出なかった。それでなくても三十キロに泣かされている。
体が熱を持つ。
やつらも気がついたようだ。赤い点が移動し始めた。
普通に歩いているだけなのだが、荷物が重すぎて、たいして移動できていなかった。それでも十分も動いていくうちに、ふたつの赤い点が相手に気づいたらしく、すっと近寄りくっ付いた。しめた。
私は今度は6時の方向に移動し始めた。
この二つの赤い点ともうひとつの赤い点と私が一直線上に重なるようにするためだ。
五分も歩き続けるうち、この3点は互いに気づいたらしく、くっ付いてしまった。
彼らは、銃の射程範囲に私を捉えるため、近寄るスピードを上げてきた。
GPSがピーピーと警戒音を上げだした。
彼らのレーザー銃が私の体にロックオンしたのだ。
いまだ。
私は、重いリュックと防熱服を脱ぐと2時の方向にいきなり走り出した。身が軽い。それまでとは全く異なるスピードと熱量の移動だ。
一瞬、ロックオンが外れる。
ロックオンが勝手に外れるわけが無い。
やつらが、狼狽してロックオンを解除したのだ。
やつらの行動パターンだ。突発事態が起きると、とたんに慎重になりすぎるのだ。固まるとよりその傾向が強まる。そこが付け目だ。
私は走りながら、レーザーの一発目をぶっ放した。真ん中のヤツに当たった。多分、他の2体にもかすめたんじゃないか。
2発目。外れた。ロックオンがうまく作動しなかったのだ。
だいぶ近寄って、射程に入ったので、3発目をぶっ放した。これで3点が同時に動かなくなった。
GPSで確認する。
念のため、ロックオンしなおして、それぞれにレーザーで一発づつお見舞いしなおしてから、ザクザク傍によって行った。
黒っぽい細長い姿が小さな山になって横たわっていた。
赤外線スコープで見てみる。温度がだいぶ下がっている。たぶん動けないだろう。
やつらは、いつ見ても不気味だった。真っ黒でこうもりみたいだ。手足が細く、短く、顔には毛がない。胴体にはばらばら毛が生えているが。
近づいて靴の先でひっくり返してみた。ぐったりしている。生暖かいのだろうか。触る気にもなれやしない。
長いジャックナイフの先で、やつを切り裂く。
気持ちが悪いが、首を切っておく。でないと生き返るからだ。
手際よく3体の首を切って、GPSを確認する。
この前、一仕事終わったとたん、別の個体が近づいてきて、油断してて気づかなかったばかりに、あやうくこっちが首を刈り取られるところだったからだ。
少なくとも3キロ以内には、何もいなかった。
立ち上がると月が出ていた。
ぼやんとしたオレンジ色じみた月。
わずかばかり地上が明るくなり、荒涼とした灰色の平野を見渡すことが出来るようになった。
でも、そのオレンジ色じみた球体は月ではない。
あれが太陽なのだ。
あんな弱い光でも、やつらにとっては好ましくないらしい。
こっちは、その千倍強い光を待ち望んでいるのだが。
やつらから戦利品を巻き上げてから、荷物を放り出した場所へ戻り始めた。
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