Give me a kiss 『あなたが好きよ』④



 未だ咲かない桜のつぼみと、卒業式の朝の部室。千絢たち三人が、しっかりと腰を据える様子もなくテーブルに浅く腰かけて、ぼーっと窓の外を眺めている。


「マリっち、ひとりになっちゃうね」

「うーん、心配。寂しくて死んじゃうかも」

「それはお前らだろ。うさぎか」


「……ちーちゃんは寂しくないんだ。薄情者」

「くだらねぇ。どこに居ても関係ねぇよ」


 亜優美の批難に、千絢がその胸に手をあてる。

 

「もうココで繋がってるからな」


「「 ………… 」」


 いつもならキャー!とでもリアクションするところなのだけれど、それでも亜優美と麻耶は無言で虚空を見つめたままだ。思いがけない2人の裏切りに、千絢は何の取り繕いようもなかった。


「おい……そりゃねーだろ……」

「……ほんとにそうかなー」

「はあ?」


 小さく膝を抱き上げて、亜優美が呟く。


「マリっちだけ年下だったからさ。一杯気遣わせちゃったかも」

「おまえ、大人になったな」

「まあね」


 そんな千絢と亜優美のやり取りを、心在らずに聞いている麻耶。


「そうだ。あのさ」


 すると密かに胸に留めていたことを白状するように、麻耶が切り出す。


「マリちゃんね、……歌、コーラスが好きなんだって。知ってた?」

「なんだいきなり。なんの話だ」


 千絢が、脈絡のない麻耶の言葉を受け取りかねている。


「いつもずっと聞いてたみたいなんだ。でもバンドとか組んでないみたいだし」


「そんなの、たまにカラオケで歌えればそれで満足なんじゃねえのか?」

「……うん。かもね。でもさあ、がそれ言う?」

「どゆこと?」


 亜優美が小首を傾げながらにわかに眉間にしわを寄せて尋ねる。


「わたし達なんでも話してきたじゃん。好きなこと嫌いなこと。小さい時の話も、わかんないけど、将来のことも。ちーちゃんの初恋の話だって、マリちゃんがいたから話してくれたようなもんだし」

「あー。でもそういえば肝心の相手の名前ぇー!まだ聞いてなーい!」


「その話はもういいだろ。それで?」


 あくまで「いま真剣な話をしてるから……」といった体で、会話の脱線を希望する亜優美の追及を居なす千絢。


「……うん。いつも一緒にいるんだし。そりゃ「自分の趣味全開」だから、「一緒にバンドやろう!」とまではいかないかもだけど、せめて『ちょっとだけ一緒に歌ってみようよ!』くらいは、試しに言って来ても良さそうじゃん?」


 文化祭のランウェイで生き生きと、しかしたった一人で歌う茉莉を思う麻耶。


「……そう。そんなに好きならさ、『ちょっとハモってみようよ!』くらい……」


 記憶の中の茉莉の心中を思って申し訳なさそうに語る。


「たしかに。言うわ」

「なんだよ、水臭ぇな。言ってくれりゃいいのに。そんなのいくらでも」


「……もうっ!!だーかーら!!私たちがそれ言う!?って」


「あー」

「そっか」


 オシャレで、怖いもの知らずで、それでいてサッパリとした自称・最強の三人。可愛い後輩である茉莉の望むことであれば何でもしてやりたい思いだが、如何せん歌だけは苦手なのだった。一緒にいることがそれだけで茉莉に歯がゆい思いをさせていたのではないかと、今になって振り返る。


「これ、覚えてる?」

「「 どれ? 」」


「んーんーんー♪」

「「 ……わかんない…… 」」


「はぁ」


 だよねーとやや自嘲気味に、自分の歌唱力で伝えることを諦めてスマホを取り出した麻耶が、動画サイトで曲名を検索する。まもなく再生が始まったそれは聞いてみれば度々テレビコマーシャルにも起用されるような、彼女たちにも耳馴染のあるメロディだった。ただし、それはきっと本家本元のオリジナル版だったのだろう。普段耳にしている若手のポップス歌手がカバーしたスタンダードなバンド編成のアレンジではなく、少なくとも彼女たちが一聴しただけでは誰が何を歌っているのか分からないほどに入り組んだ「コーラス・アレンジ」を備えたものだった。


「……うわ、なんだこれめっちゃんじゃん!!!」

「……ムリ、ぜったい無理!!大学入試しけんより難しいでしょ、これ!!!」


 千絢と亜優美が驚愕する。すると、サビの終わりに聞こえてきた特徴的なメロディ。


「……あ、わかった!これマリっちの鼻歌じゃん」

「そう!」


「そういや、いっつも歌ってたな。確かにこれだわ」

「そうそう!そうなの!!しかもこの曲ね、んだよ!知ってた?」


「えっ、マジで?」

「どれどれ?どこ?」


 部室に入ってすぐ右手の壁。背の低いロッカーの上に乗せられた段ボールの縁からちょうど顔を覗かせるように、その小さな紙は貼り付けてあった。手書き、おそらく女性の字で書かれたそれは、日に焼けてしわがれてもその文字だけはしっかりと判別が出来た。


―――――――――――――――

あなたが好きよ

そっちはどう


もし叶ったら 死んでもいい

―――――――――――――――


 無遠慮にも元から壁に直接糊付けされていたそれをしばらく無言で見つめていた三人だったが、みな同じようなタイミングでそれぞれ同じような鑑賞の結果を述べる。


「あたし、マリっち好きだよ」

「わたしも。大好き」

「楽しかったよな」


 すると麻耶が、その文章の意味するところに気付いて絶叫する。


「ああっ!これウチら死んじゃうやつ!!?」

「あーーーっ!!まじだ!ヤバっ!!!」

「まだ本人には確かめてないだろ。恋に自信ありかお前ら」


 沈黙。


「「「 ……あはははっ!!! 」」」


 大笑いした後で、このありふれた掛け合いを噛みしめる三人。


「えーならならぁ?卒業式だし、告白しちゃう?」

「えーやだぁっ!恥ずかしい!」


「じゃ、手紙にしようぜ。ここに丁度いいもんもあるしな」


 部室右奥にある小さな黒板。暇つぶしに落書きを繰り返してはそれを消して、たっぷりチョークの粉を蓄えたラーフル。「下に人いるよ!」という亜優美にしては冷静な忠告にも耳を貸さずに、直下を歩く茉莉の頭上にクリーニング作業パタパタ中うっかりそれ落としてしまった麻耶。つい感傷的になって、そんなことを思い出す二人。


「ってか、ちーちゃん!さっきから言葉、お下品によ」

「そうだよっ。、するんでしょ?」


「……わかってるよ」


 二人の指摘に千絢がすこし沈黙して。


「あのさ」


「うん?」

「なあに?」


「お前らも、ありがとな」


 千絢の言葉の意味するを難なく察して、少し照れくさそうに無言で微笑む亜優美と麻耶。千絢もそれに笑顔で応える。そしてほぼ同時のタイミングで、腰かけていたテーブルから降り立つ三人。


「それじゃ、女の子っぽいことしちゃう?」

女子高生JKラストに本気出しちゃう?」


 三人それぞれにカラーチョークをその手に持つ。


「……まったく」

 

千絢がやれやれといった風に言う。


「男だ女だ言葉だなんて、ほんとにくだらないわよね」


 バストアップから、全景。

 茉莉が初めて出会った頃のボーイッシュなショートレイヤーから一転、ボリューム感のあるロングボブの丁寧にかされた黒髪に上品なナチュラルメイク。蛍光カラーの前髪クリップやリングにピアスといった装飾品も一切無し。左の手首には落ち着いた細身のチタンに薄ピンクの文字盤をとめた腕時計を、右にはエチケットライクな黒い髪ゴムだけを通している。皺ひとつないグリーンのリボン、ボタンをすべて留めたブレザーにパリッとした膝丈のスカートと、胸元には紅白の帯を備えた真紅のコサージュ。これは名も知らない在校生がさっき手ずから着けてくれたものだ。


「一番大切なのって、気持ちよ」


「 ひゅーひゅー! 」

「 ちーちゃん、かーわいっ! 」


 一気に大人びてしまった様でいて美しさの中にもちゃんとそれが付け焼刃とわかるような、いわゆるの見た目で、千絢・亜優美・麻耶の三人が最後の大仕事に取り掛かる。



* * * *



 卒業式。

 千絢・亜優美・麻耶の三人は、それぞれ髪に隠してこっそりイヤホンを付けて、何かを必死に覚えようとしている。来賓各位の在り難いお祝辞は一切聞こえていない。


 式も滞りなく終了して、散会後の混雑した校庭。

 人懐っこくも顧問の林田に記念写真をせがむ三人。至極迷惑そうでいて、しっかりポーズだけはとって見せる林田。すると千絢が甘い外見のラブレターのような包みを林田に差し出す。後ろで亜優美と麻耶がキャー!と囃し立てる。「開けてみて下さい」と伏し目がちに言う千絢の艶っぽい様に思わず林田がたじろぐが、いざ緊張してあけてみると中身はラブレター……に偽装した紙に貼りつけられた、彼女たちが無断で複製コピーしていた学校のマスターキーだった。えらく安堵したような、どこかガッカリしたような表情の林田。その紙の余白には「お世話になりました!」「卒業祝いちょーだい!」、そして最後に「頼んだぜ」。


 体育教師の堂島が涙を流して三人の肩を叩く。困り笑顔の三人だったが、そんな様子を遠巻きに何人かの在校生の女子が見ていることに気付いて千絢がその手をするりと躱すと、小さく彼に会釈してからそちらへと歩み始めた。


 後輩の女子から手紙を差し出されて告白の様なものを受ける千絢。それに対して決して拒絶も謝罪することもせずに、静かに礼を言う。そして、続々と集まってくる黄色い歓声のギャラリーを優しく制するように、続けた。


「ありがとう。……私達も、これからなのよ」



* * * *



 茉莉のスマホに亜優美からメッセージが届く。


――部室に集合!早く来ないと帰っちゃうぞ!


 茉莉、すぐに走って部室へ。

 階段を駆け上がり、廊下を疾走して、ようやっと南廊へとたどり着いた。勢いよくドアを明けるが、そこにはもう誰も居なかった。ドアは開けっぱなしで呆然と室内へと入る。

 卒業の事実を痛感し寂しそうな表情で、胸のあたりを押さえる茉莉。ふと、いつもとは違和感のある視界の端で、黒板に描かれているものに気付く。


――――――――――――――――

――――――――――――――――

  逢えてほんとよかった☆

  I did find you finally あゆみ


     まつりへ


これからもずっとずっと友達だよっ ♪

 This would be eternally まや


あなたのことが大好きです。ちひろ

Give me a kiss and make me survive 

――――――――――――――――

――――――――――――――――


 これぞ女子力の集大成。カラフルなガールズ・グラフィティ。卒業式恒例、女の子たちの大作である。


 すると突然、茉莉の背後から、歌声が聞こえてきた。

     

「「「……ギンミィアキスッ エン メイクミィ サーバーイ……」」」


 たどたどしくも、原型を留めた、優しい旋律。


「………先輩。」


部室の入口に三人がいた。


「とっても楽しかった。ありがとう、マツリ。大好き」

「わたしも大好き。マツリはどうだった?楽しかった?」

「もしそう思ってくれたなら、私たち、思い残すことなんてないわ」


 ひとりずつ中へと入って、ドアを閉める。


 テーブルにスマートフォンを置く。

 再生。低域の抜けた粗末な音質で、あの曲が流れる。それにあわせて三人がハミングする。歌詞なんて、卒業式中にサビだけ覚えるので精一杯だったようだ。


「マツリ、一緒に歌おう!!」

「これ好きなんでしょ!マツリ!」

「最後に、いいわよね?まつり」


千絢、小さく付け加える。


「今まで、ごめんね」


 表情をそのままに涙をポロポロと零す茉莉。とてもじゃないが、歌を歌えるようなコンディションではない。三人のハミングに乗せて、思いの丈を打ち明ける。


「……まつり……!……なまえ知ってたんですかぁー……っ!!? 」


 間の抜けたその第一声に、すこしだけ吹き出しそうになって、それでも静かに微笑む三人。


「それよりなんですかこれ!!歌えるわけないじゃん!!泣いちゃうでしょ!!それに楽しかったかなんて、なんで!!そんなの楽しかったに決まってるじゃないですか!!」


 室内を隔てるテーブル越しに身を乗り出して茉莉が叫ぶ。


「わたしっ」


 止めどない涙を、鼻水を拭って叫び続ける茉莉。


「……わたし友達いないし!空気読めないし!人付き合い『へたっぴ』だし!!いっぱい生意気なコト言っちゃったし!ジュースも買って貰ってばっかりだし!!だって、だってみんなじゃんけん弱いからぁっ!!!」


 ハミングは止まない。麻耶が涙目で、ツーンと痛む鼻頭を抑える。


「……でもっ!!ずっと傍にいてくれたし構ってくれたし、それに……それに、いっぱい褒めてくれた、嬉しかった!!わたしもみんなのこと大好きです!!……大好きだよ!!!」


 ハミングしたままの亜優美の目からも、左目をきっかけについに涙が零れ落ち始めた。


「『いままでごめん』ってなんですか!?なんなのっ!!?馬っ鹿みたいっ!!!」


 不細工ぶさいくにも、滴り落ちる鼻水を拭うことも忘れて、茉莉は高ぶる思いに身を委ねる。


「……さいしょ、ほんとはねっ!!!先輩みんな歌『へたっぴ』だからわたし、教えようかと思ったんです!!それで一緒に歌えたらいいなって!!!でもっ、でもやめたの!!そんなの私のわがままだった!!へたっぴでも先輩たちはとっても楽しそうだったから!!関係なかった!!!どうでも良いことだってちゃんと思えたんですっ!!!」


 ひたすら、叫ぶ。


「だってわたしは、本当はただ仲間が!!ずっと、ずっとずっと、友達が欲しくてっ!!!だから、賑やかで楽しそうなコーラスに!!だから『ポピュラー』に憧れたんだって!!そう気付いたから!!!」


 涙で湿らせたスカートの裾をクシャクシャに握りしめて。


「みんなと歌うことも、みんなと笑うことも、お喋りとかも!!今はもうおんなじなんです!!楽しかったよ!!!幸せだった!!!ほんとに、ほんとに!ほんとにねっ!!!」


 最後に、大きな息を吸い込む。


「ありがとうっ!!!」


 弱い自分と決別するような、大きな声で。


「 わたし……きっと私、もう負けないよ!!!大丈夫だよっ!!! 」


 すべてを吐き出し無邪気に笑った後で、また惜別の寂しさに両手で顔を覆い、ぐしゃぐしゃの顔で嗚咽する茉莉。


「……ううっ……ぐっ……うっ……」


「……うん。そっか。よかったぁ……」

「……安心したっ。ぐしゅっ……」


 自分で仕掛けておきながら、情けなくボロボロと撃沈した亜優美と麻耶。


「いいから、さっさと歌って」


「……えぇ……!?」

「……ちーちゃん……!?」


 千絢の冷めたその口調に一瞬度肝を抜かれそうになる亜優美と麻耶。しかし千絢も、その目にはすでに大粒の涙を溜めている。その姿に、二人の涙腺にもいよいよスパートがかかる。


「……ありがとう。でも、これでだから。一緒に歌おう……?」

「……せんぱい……」


「……あなたの歌で、返事が欲しいわ……」


 伴奏の最終盤、最後にもう一度Aメロが巡ってくる。お世辞にもとてもメロディとは言えない震える涙声で、未だクセの抜けない慣れたカタカナ英語で、茉莉がリードを取る。ひとり孤独な自室で何度と歌い、楽しげな未来を空想したその曲を。



 (原詞げんじ:Bobby "Datsmine") 

 (訳詩やくし:不明・海報研かぽけん部員OG



   Give me a kissあなたが好きよ 



――Verse


小石につまづいたわ 私のことが嫌いみたい

でも大丈夫よ 気にしない


もう雨でびしょ濡れ 約束と違うじゃない

でも大丈夫よ 負けない


どうせ私が悪いんでしょ?



――Bridge


やさしいあなたに爪を立てるわ

歯向かうついでに いっそ殺して

ぜんぶまとめて差し出すから


ねえ ねえってば



――Chorus


あなたが好きよ

そっちはどう


泣かせないでね 死んじゃうわ


あなたが好きよ

そっちはどう


もし叶ったら 笑ってあげる

もし叶ったら 死んでもいい




あなたが好きよI did find you finally


そっちはどうThis would be eternally



もし叶ったらGive me a kiss 笑ってあげるand make me survive


もし叶ったらGive me a kiss 死んでもいいand make me survive



 終わりに、思いを確かめるように、二回繰り返す印象的なメロディ。


「 ……ギンミィアキスッ、エン メイクミィ サーバーイ……。ギンミィアキース……エン メイクミィ……サーバーイ…… 」


歌い終わると、その場に泣き崩れる茉莉。


「……うぐっ……うぅ……」


「……マリっち」

「……マリちゃん」


 ただに床に伏して泣き続ける茉莉の様子に、胸を痛める亜優美と麻耶。


「はっきり言ってくれたわね。『へたっぴ』なんて」


「……ねぇ、ちょっとちーちゃん」


 千絢から出たその冷淡な言葉に、一瞬麻耶が素で反応するが、それを亜優美がいつもの小突きでフォローする。それに「あー」とニヤける麻耶。


「……たしかに、ひどかったね!マリっちキツいなー。ショックだったわー」


 千絢のきっかけを受けて、ワザとらしくショックを受けてみせる亜優美。


「……ぐすっ……いや、あの……うぐっ……」


「……ふふっ」


 最後は麻耶が整える。これもしばらく見納めなのだ。互いに顔を見合わせ、思えば幼稚園以来となる熟達したへと備える三人。


「……まぁ、でもさー。『へたっぴ』とか、にだけは」



「「「 言われたくないねっ!!! 」」」


優しく微笑む三人。膝をつき、茉莉の頭を撫でる。


「ウチらこれからいっぱい練習するからね」

「次はもっとかっこいいやつね」


「だから、それまで元気でいてね。茉莉まつり


 茉莉を中心に、互いの額を濡らすように抱き合う四人。


「……はいっ……!!」



こうして五峰茉莉は、また一人になった。



  *



  新学期、初めて部室外側の個別掲示板に自案の『訳詩』を掲載する三年五組の五峰茉莉。掲示板の傍らには、を見つけてくださいとばかりに、こんな言葉。


―― 想い、重ねて。気持ち、繋げる。 ――


 ドアを開け、室内へと戻る茉莉。

 しばしの作業の後に、おもむろに立ち上がって部室内の窓を開け風にあたる。四月もすでに半ばだというのに、まだ風は冷たい。聞いていた音楽プレイヤーのランダムサーチが、クーランシー最大のヒット曲でもある『ギブ・ミー・ア・キス』をチョイスしたところだった。


 窓から覗く眼下の砂利敷きされた道には誰も歩いてはいない。ここから真っ白な黒板消しを誰かの頭にぶつければその人と友達になれるらしいことは、経験上知っていた茉莉だったが、自分にそんな勇気が出せるとは思えなかった。


 もう守ってくれる先輩はいないし、褒めてくれる先輩もいない。やっと見つけた大好きな自分が今にも砕け散りそうな予感がする。一抹の不安と寂しさを感じて、不意に涙がこぼれてきた――――


――――そこにタイミング良く(悪く?)現れた少年が、どうやら薄葉千籠うすばちかごだった。




(Give me a kiss『あなたが好きよ』 おわり)


ⓒ城野亜須香

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