聖女「罪な女であったことは確かでしたしね」
れ、れれれれれれれれれ、恋愛相談!?
なるほど……? まさか、勉強熱心で色恋沙汰に興味の欠片もなさそうだったあのミナから恋愛相談をもちかけられるだなんて思いもよりませんでした。
「私に、恋愛相談ですか?」
「そうです! マノン先輩は学生時代から大層おモテになっていましたし、今では、あのルドヴィーク様と付き合われているんですよね?」
「ま、まぁ、そんな感じですわね」
私があの男とお付き合いをしているか否かはさておき、学生時代から、自然と殿方の気を惹き付けてしまう罪な女であったことは確かでしたしね。学生の本分は勉学に励むことですので、全て丁重にお断りさせていただきましたけれどもね。
「
なんでしょう、この、そこはかとない罪悪感は……! つい先ほどから、胃がキリキリと痛んで仕方ないです。これは、褒め殺すという新種の拷問なのでしょうか?
「も、もう、私の話はいいですからっ。それで、その相談内容というのは?」
「あっ、ごめんなさい! つい、先輩と久しぶりにお会いできたから、興奮してしまいまして。立ち話もなんですし、どこかカフェにでも寄りませんか?」
「ええ、そうしましょう」
「ちなみに、水着はどうされますか?」
そういえば、水着問題も全くの未解決でしたわね。
そうはいっても、ここで焦って適当に選択してしまえば、当日になって『あの時、もっとちゃんと悩んでいれば……!』と後悔することが目に見えています。どうせ明日もお仕事はないでしょうし、水着は翌日にでもまたじっくりと選びにくることにしましょう。
「大丈夫です。別の機会にまた購入しにきますので」
「でもっ。突然、お買いものに割り込んでおいて、中断させるなんて申し訳ないですよ!」
「決してミナのせいではないので、気になさらないでください。そもそもが一朝一夕で決められる問題ではなかったのです。一瞬の油断が命取りにつながりますしね」
「まるで危険なダンジョンに赴く前の装備選びをしているかのような言いぶりですね!?」
「ええ。むしろ、ダンジョンよりも危険かもしれません」
「先輩って、時々、不思議なことを言いますよね。そういうところも、可愛いですけど」
プールに行くということは、当然のことながら、女性だけでなく男性も水着姿になる必要があるわけです。それはつまり、彼の水着姿も目撃するということに他なりません……剣士様はああ見えて死ぬほど鍛えていますし、相当、良い身体をされているんだろうなぁ。
「おーい、せんぱーい!! 大丈夫ですかー!?」
「……ダメかもしれません。刺激が強すぎて、死んじゃうかも」
「本当に何の話ですか!?」
*
気を取り直して、水着屋さんと同じフロアに入っているカフェにまでやってきました。パステルカラーを基調とした内装が可愛らしく、店内は若い女性たちの華やかな笑い声で賑わっています。
白いカップに注がれた薔薇の香りのする紅茶を手に取ってうっとりと瞳を細めていたら、ミナも同じように紅茶から立ち昇る香りに頬をゆるめていました。
互いに一口ずつ淹れたての紅茶を口に含んだところで、彼女は私をおずおずと見つめながら、小さく首をかしげました。
「ええと、その。本題に入っても、よろしいでしょうか?」
「は、はい!」
大丈夫! 天下のマノン=ルーセンハートが、恋愛ごときに恐れをなすなどもってのほかでしょう。どんな男性だって、私が本気を出しさえすればイチコロに決まっているのですから。ほら、その証拠に、あの男だって私にメロメロでしょう?
学生時代、からっきし恋愛事には無頓着そうだったあのミナのことです。きっと、この歳になって初めて訪れた恋に戸惑い、頭を悩ませているのでしょう。例えば、そう。好きな人と、どうやってお話すればいいのか分からないだとか……?
「実は……最近、彼氏とあまりうまくいっていないんです」
……………………。
「えっ!? 彼氏がいるんですか!?!?」
「? なんで、そんなに驚いているんですか?」
冷汗がツーッと背筋をつたりました。
あれれー、おかしいですわね~? 現時点で既に、私の想定していた恋愛相談と次元が異なることが判明してしまいました。
彼氏がいるということは、ミナは、もう結ばれている側の人間だということです。彼女が、まさかそちらサイドに属している人間だったなんて! 想定外にも程があります。
恋愛相談といえばもっとこう、どうやったら彼と接点を持てるのか分からないだとか、ようやくお会いできたかと思ったのに何故だか喧嘩ばかりになってしまうだとか、できることならずーっとお顔を眺め続けていたいのにいざ近くにいるとドキドキしすぎて直視し続けられないだとか、そういう感じではにゃいのですか……!?
こほん、と咳ばらいをすることにより、どうにか平静心を保ちます。
「ええと、ごめんなさい。まさか、そんなに進んでいる話だとは思ってもみなくて」
「進んでいるだなんて滅相もないですよ! 付き合っているといってもつい先月からですし、ルドヴィーク様とマノン先輩のラブラブぶりに比べたら、自分たちなんてカップルの風上にもおけないと思います!」
「何故、単に噂を耳にしただけで、そこまで力強く断言できるんですの……!?」
軽率にラブラブだとかいう刺激的な単語を繰り返すのはやめていただけませんかね!? 先程から、顔が熱くて仕方ないですっ! あああ、もう! 耳の端まで真っ赤になっていないか心配になってきました。
「何の根拠もないわけじゃないですよ? この前、ギルドの休憩所で、先輩と同じパーティに属している可愛い魔導士のお方から聞きましたもの!」
アリスの馬鹿っっ! 一体、彼女に何を噴き込んだんですの!?
身構えていたら、ミナは、アリスの声真似をするように高めの声を装いながら、にこにこと笑顔で言ってのけました。
「『うちのパーティのルドとマノちゃんって、ほんっとに仲良いんだよね~。昨日なんて、あたしとギークの見てる前なのに、いきなり内緒話し始めたかと思ったら、二人そろって顔を真っ赤にして倒れちゃったんだよ! 二人ともそんなにお酒飲んでなかったと思うんだけどなぁ』って言ってましたよ?」
それって、つい数日前のことじゃないですか!? あの子ってば、そんなことまで言いふらしているんですの!? 信じられない! もうもうやだやだ……!
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