【SSその①聖女がたかがスライム討伐に魔法衣で出向いた理由】

 これは、半月ぶりに剣士様からパーティメンバー全員に招集がかかり、スライムを数十匹討伐するだけの簡単なお仕事を数十秒で終えた後のこと。


 わたくしとアリスは魔法衣から私服に着替えるため、冒険者ギルドの女性専用更衣室に立ち寄っていました。今頃、剣士様とギークはお店に着いていて、そろそろお酒を酌み交わし始めていることでしょう。


 正直、スライム討伐のためだけにわざわざ魔法衣を装備して出向く必要はなかったのではないかと思わなくもありませんが、依頼クエストを引き受けにいくのに私服姿で出向いていくのもおかしな話です。


 そんなことをして、剣士様に『君は、仕事をしに来たんだよな? それにも関わらず、そのちゃらちゃらとした格好はなんだ? もしかして……僕に会えることを、そんなにも楽しみにしていたのか?』と嘲笑されようものなら、舌を噛みきって死んでしまいたいぐらいの屈辱にもがき苦しむことになる! そんな事態だけは絶対に避けねばならなかったのです。


 しかし。


 仕事が終わってさえしまえば、多少のお洒落をしていても、何ら不自然な点はないわけです。決して、どこかの誰かさんに可愛いと思われたいだなんて邪な気持ちは欠片も抱いていませんが、私の美しさが自然と滲み出てしまう分には致し方のないことですしね。


「マノちゃん、なんだかすっごく嬉しそうだね?」

「ふえっ!?」

「さっきから、ずーっとニコニコしてるよ?」

「な、なにを言っているんですの!? アリスは、私が久しぶりに剣士様にお会いできて喜んでいると仰りたいんですか!?」

「? なんで、急にルドの話が出てくるの?」


 し、しまった……!


「な、ななな、なんでもないですわっ。だ、大体、誰があんな男のことを……!」

「えーっ! でも、あたし的には、ルドって実は結構なハイスペック男子だと思うよ?」

「ごほっごほっ」

「ふええ!? マノちゃん大丈夫!? 背中さすろうか!?」

「け、剣士様が、なんですって……?」

 

 アリスは大きな蒼い瞳をぱちぱちと瞬かせた後、なんでもないことのように、ふわふわと笑いながら言いました。


「んー? だから、ルドって実は、結構ハイスペックだよねーって話!」


 な ん で す っ て !?


 もおお! この子が言い出すことって、どうしていっつも、こんなにろくでもないことばかりなの!? 剣士様が実は良い男だなんて、とんでもない! 一刻も早く、この私が曇りきったアリスの目を醒ましてあげないと……!!


「はあ? あなたは何を仰っているんですの? 良いですか。剣士様の良いところなんて、この世界で一番剣の腕がたつところと、中性的な雰囲気なのに剣をもつと途端に凛々しくなるところと、ぶっきらぼうで口ではひどいことばかり言うくせになんだかんだでお優しいところと、とんだひねくれものな割に剣の腕を褒められると素直にでれでれ喜ぶところも可愛らしいというか――」

「ほらほら!  案外、ハイスペックでしょ!?」


 ち、ちがう~~~~!

 わ、私が言いたかったのは、そういうことじゃなくって……!


「ま、間違えましたわ!! あの男のいいところなんて、私のことを好きで仕方がないくせして、素直にそうと言い出せないところぐらいで「うおわあああ! マノちゃん、びっくりするぐらい顔赤いよ!? 大丈夫? 熱でもあるんじゃない!?」」


 じいいっと不安そうに覗きこんでくるアリスの大きな瞳には、たしかにルビースライムに負けず劣らず顔が真っ赤になっている私が映りこんでいて……いや、でもでも、これは違うのです……っ! 


「これはっ、アリスがあまりにおかしなことばかり言うから、すこしムキになってしまったというだけのことで別になんの他意も!」

「? よく分からないけど、体調が悪くはないの? それなら良かったよ~」

「っ~~! わ、私、着替え終わりましたから、先に向かってますわよ」

「ええーっ、先に行っちゃうの!? 待ってよ~~!」


 全く。アリスが異次元級にありえない発言ばかりしてくるせいで、無駄に心臓がびっくりしてしまったじゃないですか。人をびっくりさせるのは、せいぜい、戦闘時だけにしてほしいものですわ。


【SSその①聖女がたかがスライム討伐に魔法衣で出向いた理由わけ

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