6:観客席
「嫌っ!やめてっ!」
ディスプレイには革製の拘束具で身動きの取れない女性が映っている。
そこへフルフェイスのマスクをつけた殺人鬼が現れる。
手には鉈を握っている。
ゆっくり、ゆっくりと女に近づく。鉈を振り上げ―――
「……とまあ、こんなところ」
オオノキは動画を止めて背後に立つ松神たちへと振り返った。
神社のある山のふもとから地元の警察署へと引き返した松神たちは、そこでオオノキが見つけた動画投稿サイトのとある動画を見ていた。
動画のタイトルは【自主製作映画「お盆~13日の仏滅の金曜日6時6分6秒~」】投稿者名は蓮間陸男とある。
「確かに似ているな」
松神はそう言いながら画面をのぞき込む。
動画内の拘束具は青嶋が廃神社で見つけたものとそっくりだった。
と、そこへ藤堂と芝原が現れた。
「蓮間を見つけて連れてきました。今は取調室で待たせています。あと、クレジットカードの履歴の確認も取れました。例の手枷は確かに蓮間が通販で買っています」
「よし、固まったな。それじゃあ話を聞きに行くぞ」
松神の眼付が鋭くなった。
窓も時計もない取調室には時間そのものが無いようだ。
すでに遅い時間でありながら、部屋の中の様子は昼と一切変わることがない。
そんな部屋の中には一人の男が座っていた。
蓮間陸男。32歳の独身男性。
中肉中背を絵にしたような特徴のない体つきだ。
顔についても同じことが言え、覇気の籠らない半目の顔つき。その男の見た目はそのまま普段の生活態度を表しているようだ。
部屋のドアが開く。
入ってきたのは長身の刑事と、紙袋を被った小柄なゾンビだ。
刑事が席に着く。
ゾンビは立ったまま壁に寄りかかる。
「蓮間陸男さん。石原麻梨香さんについてはご存知ですか?」
「知ってる。俺の映画に出ないかって誘ったからな。まあ断られたけど。ただその後もアタックを続けたよ。あの子綺麗だったし、なんというか儚いのに存在感がある感じがしたんだよ。ああいうのをきっと、スターの原石って言うんだろうな」
「麻梨香さんが亡くなったことについては?」
「えっ、マジで?死んだのか?」
松神は2枚の写真を取り出した。
ひとつは麻梨香の、もう一つは神社内のものだ。
「被害者の発見場所の近くにある神社の中でこれが落ちていました。あなたが以前、自主製作映画で使ったものですね」
「ああ……なるほど、それで俺を疑っているわけか」
蓮間の眉間に少し力が加わった。
「そう。そしてボクは優しい刑事。そっちは怖い刑事。キミも創作に関わっているのならどういう状況か分かるよね」
「ああ。そんで、親の遺した金で遊んで暮らしている道楽息子が犯人。いいねえ分かりやすい。だけど俺が監督なら絶対にこんな筋書きにはしないね。犯人っぽい奴が犯人でしたなんて、見る奴が退屈する」
「麻梨香さんと最後に会ったのは?」
「三日前だ。あの子とばったり喫茶店で会った。その時も映画に誘って断られた。それだけだ」
「彼女を本当に役者としてだけ求めていたのか?女性として追っていたんじゃないのか?」
と、松神は少し口調を強める。
「おい、冗談はよせよ。あの子はまだ15歳の高校1年生で、右も左もしらないガキだ。確かに魅力は感じた。でも手出さない。まして襲ったり殺したりもしない。俺だって分別はあるんだ」
「それなら、手枷のことはどうなんだ?あんたが買ったんじゃないのか?」
「確かに俺が用意した。でもあの映画は半年は前に取り終えたもんだ。そのあとで小道具がどうなったかなんて知らない。あんたは捨てた包丁で殺人事件が起きたからって、包丁を捨てたやつが犯人だと言い張るのか?」
「じゃあ手枷について知っている人はいるのかな?誰か思い当たったりする?」
と、オオノキが口を挟む。
「どうだかな。撮影に関わった奴は少なくないし、手枷を使ったシーンは最初にとり終わった部分だ。そのあとも移動しながら録ったから誰が知ってるかなんて分からねえよ」
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