5:監禁部屋

 「おお、すごい。いかにも監禁して楽しんだ後、殺しましたって感じだ」


 本殿へと足を踏み入れるや否や、オオノキはそう楽しそうに体を揺らした。まるでおもちゃを前にした子供のよう。

 窓が無く、灯りもない本殿の中は暗く、長く放置されていたためか酷く湿っぽい。

 所々にある黒いシミも相まって、陰鬱な雰囲気が立ち込めている。

 床に散乱していた証拠品の数々はすでに鑑識に回収され、代わりに番号札が置かれている。

 資料に目を通しながら、松神は尋ねた。


 「指紋か体組織は見つかったか?」

 「今確認中ですが、使い捨ての手袋と漂白剤があるので望み薄でしょう」

 松神は手を口元に沿える。

 「……面倒だな」


 ゴム手袋は指紋が付くのを防ぎ、万が一ついてしまった汚れは次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤がすっかり分解してしまう。

 犯人との接点さえなければ、凶器でさえ有力な証拠になり得ない。これでは手の打ちようがない。

 あとに残るのは、それが犯人の所持品であるという第3者からの事実確認だけだろう。

 つまり本人にそれとは知らせずに「それは○○さんのものですよ」と言わせることができればいい。

 とはいえ、それも簡単な事ではない。


 「せめて購入履歴が分かればいいんだが……」

 「ナイフや鉈は近くのホームセンターでも買えるものですが、手枷や鎖からであれば追えるかもしれませんね」

 松神は部屋の隅を見る。そこには岩と呼んだ方がいいような大きな石が転がっている。

 しめ縄が巻かれていることを考えると、もとはご神体だろうか。捨て置くとは罰当たりなものだ。


 石にはフックが打ち付けられている。そのフックには鎖が繋がれ、先端には手枷と足枷が付いていた。

 拘束具は刑事たちが使う手錠のような金属のものでなく、黒い革製だ。そういうプレイ用だろうか。


 「近所にアダルトショップがあるか調べよう。あるならそこを、ないなら運送会社の履歴を調べるぞ」

 「その必要はない。これを用意したのはおそらく蓮奈陸男だ」

 「なんで」

 「映画を見たからさ」

 と、オオノキは自分の携帯電話を差し出した。

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