4:キャンプ場
通されたのは居間だった。薪ストーブやソファーに机。テレビもあり奥にはキッチンも見える。生活ができるだけの一通りの家具が揃っているようだ。
住み込みで働いているのだろう。
コーヒーを片手にソファーに座ると、大井は口を開いた。
「それにしても、残念です。まさかあんな……。麻梨香ちゃんはいい子だったのに」
大井と向かい合うように椅子に座る松神。オオノキはというと、近くに立ち身辺を見回しているようだ。
「麻梨香さんとはお知り合いだったと聞きましたが」
「そうですね。度々ここに、友達と一緒に来ていました。今の子には珍しく、自然が好きだったみたいです」
「昨晩は何を?」
「いつもと変わらず、このキャンプ場を巡回したあとは、ここでテレビを見ていました」
「麻梨香さんがここのオーナーに言い寄られていたというのはご存知でしたか?」
「ああ、それは、そうですね。一応、蓮間さんは雇い主なのであまり悪く言いたくはなかったんですが……知っていました」
「彼のことについて、何か知っていることは?」
「亡くなったご両親から土地を相続したということぐらいですかね。この辺りの山の一帯です。まあ管理は全部私に任せてあの人は1日中遊んでるようなものですが。あとは兄がいるそうですが、彼と違って真面目らしくて親の遺した資産を元手にして、都市部で店をいくつも経営しているそうです」
「では率直に聞きますが、蓮間さんが殺したと思いますか?」
「……正直、分からないです。そんな度胸が無い、と言ってしまえば簡単ですけど。あの人はなんというか、変わっていますから」
「そうですか、分かりました」
と、そこで会話が終わったのを見計らってか、オオノキは二人の近くまで歩いてきた。
「それにしてもここ、結構広いですね。いい家だ」
「元は蓮間さんの親父さんが作った別荘なんだそうです。それを中心にキャンプ場を作ったらしくて」
「そうなんですか。見晴らしもいいし、こんなところで働くのも楽しいでしょうね」
「いい事ばかりじゃないですよ。ここに来てからまだ半年ぐらいですけど、何度か辞めようと思ったこともあるぐらいですから」
「お客さんとのトラブルですか?」
「まあそうですね。ゴミを無茶苦茶に捨てたり、子供を遊ばせていたら怪我をしたなんてクレームで丸1日潰れたり。特に都会から来る人がよくそういう問題を持ち込んできます」
「それは、大変だ」
「まあ、もう慣れましたけど」
「そうですか。ところでここって地下にワインセラーがありますよね?」
「ええ、まあそうですけど。どうしてそれを」
「使われているグラスと空きの瓶はあるのにどこにもワインそのものが無い。そして場所によって違う足音。部屋にあるエアコンの数と一致しない室外機もありますね」
「……」
「ああ、気にしないでください。こうやって自分の観察力をひけらかすのを楽しんでいるだけですから」
と、松神が口をはさんだ。
「なんだ失敬な」
「……ああいや、すごいですね。これならすぐに犯人を見つけられそうだ。麻梨香ちゃんのためにも、よろしくお願いしますよ」
「はい。それではこれで失礼いたします」
まだ何か言いたそうなオオノキを引っ張り引きずりながら松神は部屋を出た。
大井のログハウスをあとにすると、松神は電話を取り出した。
「青嶋、現地の警察官と一緒に人を探してくれないか。名前は蓮間陸男。詳しい事は芝原に聞いてくれ」
いつもなら短い応答で済む。しかし電話口の青嶋は何があったのか、興奮しているようだ。
「あの、松神さん。実はちょっとすごいものを見つけまして……」
「どうした?」
電話の先で、青嶋は周囲を見渡す。
そこは廃神社の中。拝殿のさらに奥にある本殿の中だ。
管理されなくなってから長いのだろう。外からの見た目はあばら屋同然であり、内部も荒れ放題だ。
しかし青嶋の目を引いたのはそこではなかった。
青嶋の周りにはビニールシート、使い捨てのゴム手袋、塩素系漂白剤、鉈やナイフ、縄、鎖のついた手枷足枷、何かの骨などが無造作に転がっていた。
「……今から神社まで来れますか?」
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