5:知人

 トラックが並ぶ営業所にカルテの男はいた。

 運送会社が設けた休憩室には数台の自動販売機と簡素な洗面台。そして並ぶ椅子には数人の人影。それぞれが束の間の休息をとっている。

 その中に天野和人はいた。タバコを吸いながらテレビを見ている。昼のワイドショーでは別府の事件が取り上げられていた。

 男の背中に松神とオオノキが声をかけた。


 「天野さん、すこしお話があるのですが」

 「あててやろう、別府のことだろ」

 と言うと、天野は振り返った。肌は白く、眼は濁り、髪も脱色したように真っ白だ。変異が進んだゾンビに見られがちな症状だ。

 片足は義足だろうか。よく見ると指も数本無いようだった。

 「話が早くて助かります。署までご同行願えますか」

 「ああ、いいよ。だけどあいつの知人ってことで頼む。こんなナリだし、ここの連中に前科も知られたくない」

 「いいでしょう。じゃあ行きますよ」





 「で、何から話せばいい?」

 取調室に通された天野はそう切り出した。落ち着いた様子だ。いかにも慣れていると言わんばかりだ。

 部屋の中には天野と青嶋が向かい合って座っている。そしてマジックミラー越しに松神とオオノキが控えていた。


 「単刀直入に聞きますが、昨日の夜はどちらに?」

 「仕事を終わらせたあと同僚と飲みにいっていたよ」

 「それでは最近、別府さんと会ったことは?」

 「1週間ぐらい前に仕事で。機材の搬入だって言われて行先を見たら大学病院だった。実験室まで機械を運ぶ途中であいつがいるのを見かけたな。でも話しかけたりはしていない。誰かと電話していたしな。で、そのあと先生の娘さんに書類を渡して手続きを済ませてさっさと帰った」


 「その娘さんとも知り合いですか?」

 「ああ。いい子だよ。あそこに勤めていたころから知っている。ゾンビの俺に偏見を持たずに一人の同じ人間として接してくれた。やさしい子だ」

 「では、別府さんについては」

 「殺したいほど憎かった、と言えば満足か?……正直、仲良くしたくはないが、そこまで恨んでもいないよ。クスリを横流ししたのは事実だしな。あいつじゃなくてもどうせ誰かに見つかっていたさ。だいたい、殺すにしたって時間を置きすぎだとは思わないのか?俺ならまずそこを疑うね」


 「随分と余裕がありますね」

 「そりゃそうだ。今度ばかりは無実だからな」





 「それで、どう思う?」

 部屋に天野を残し、松神たちは一度オフィスに戻っていた。

 松神と青島は椅子に、オオノキは足を組み、机に座っている。

 すぐ隣では松神のもう一人の部下である女性刑事の芝原が電話をとっていた。


 「はっきり喋っているし、自信が見受けられる。嘘をついているとは思えないね。それに彼も言った通り、今更復讐だなんておかしい」

 「久しぶりの再会で燻ぶっていた感情が爆発した、なんてことは」

 とは、青嶋。

 「それもまあ、ないことはないだろうけど……ボクは違うと思う」

松神は不服そうに口をへの字に曲げた。

 「いつもの直感か?」

 「まあ、そんなところ」


 そこで芝原が電話を置いた。

 「確認とれました。天野は確かに居酒屋にいたそうです」

 オオノキは一言。

 「ほらね」

 「仕方ない。それじゃあ次は天野の言っていた先生の娘さんのところに行ってみよう。別府の電話についても気になる」

 「天野はどうします」

 「ここに拘束できる理由がないから、聞くだけ聞いたら帰してやれ。青嶋、芝原、あとは頼んだぞ」

 「分かりました」

 「それじゃあ行くぞ、オオノキ」

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