第17話
どの頁を開いても、一文字も書かれていない。まるでエクスやレイナに与えられた『空白の書』のように。
それを見てシャドウ・エクスが抗議するのは当然のことだった。
「いまさら何を驚くことがあるの? 私たちに与えられていたのはいつだって『空白』の運命だったじゃない」
「だからってこれは……こんな『救済の結末』は――っ」
ありえない、と言おうとしたシャドウ・エクスの唇にレイナがそっと指を立てる。シャドウ・エクスが黙ったことを確認するとレイナは真剣な瞳で彼を見つめた。
「これが、私があなたに提示する『救済の結末』。私たちの運命は最初から決まっていなくて、それはこれからも変わらないの。……あなたがシャドウになったのは『仲間を傷つけた』から、よね。それで、また私たちを傷つけないために離れていった」
そこまで言うと一度深呼吸をし、キッとシャドウ・エクスを睨みつけた。
いや、睨みつけたと言うには暖かすぎる眼差しだったかもしれない。とにかく、強い意志を宿した瞳がシャドウ・エクスを見据える。
「私たちは“エクス”に傷つけられたなんて微塵も思ってない。それでもあなたがそう思うなら、私たちから離れていくんじゃなくて、私たちのそばにいて」
「…………っ」
「それで、もう二度とそんなことはないと証明してみせて。ずっと、私たちのそばで」
レイナがシャドウ・エクスの頬に手を伸ばす。と、彼の瞳が揺らぎ、大粒の涙が溢れだした。
レイナはシャドウ・エクスの頬を包み込むように手を当て、自分の方へ引き寄せると彼の額に自分のそれを当てた。
「僕は……君みたいに強くはなれない……」
「私がずっと戦って来られたのはあなたがいたからよ」
「僕は何もしてない……」
「私たちの旅の意味を証明してくれたじゃない」
「君たちを傷つけた……っ」
「それ以上にあなたに救われたわ」
――何度でも、何度でも言ってやる。エクスの、自分を否定する言葉なんか、私が全部覆してみせる。
暖かな言葉の中に確かな決意を持って、レイナは何度もシャドウ・エクスに語りかけた。大好きで大切な仲間へ、初めての恋をした相手へ。自分の想いが届くまで、何度でも。
「……ごめん、ごめんレイナ。また君たちを傷つけるところだった――君の想いを、裏切るところだった」
まだ涙を流しながらシャドウ・エクスがレイナに言う。何度もごめん、ごめんと繰り返し言うけれど足りないような気がして。そんな彼の涙をレイナがそっと拭う。
まだ涙も後悔も止まらないけれど、前へ歩き出すために、これ以上仲間の想いを裏切らないために。シャドウ・エクスは顔を上げて笑う。
「……ありがとう、僕を迎えに来てくれて」
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