第15話

 シャドウの記憶の再生が終わり、一行は黙る。


「キツいな……。姐さん、この時って確か13歳だったんだよな?」

「ええ。まあそうでなくてもキツイですけど」

「分かってるけどよ……最年長の姐さんでさえ13だろ?」

「あなたは馬鹿ですか。むしろシェインは最年少でしたけど」


 かつての仲間たちと年齢は近かったものの自分とサードが最年少だったことを思い出し、シェインは言う。ティムはこの場を少しでも和ませるように冗談を言ったようだった。

 その横で、エレナがレヴォルの腕の中に倒れこむ。顔が真っ青になっていて、気分が悪そうだ。


わたしモリガンがエクスさんを取り込まなければ……エクスさんは“お月さま”には……」

「……エレナ?」

「そんなの……わたしのせいだよ……わたしが、わたしさえいなければ……っ!」

「エレナ!」


 エレナは嘆く。

 かつての自分の姿を思い出し、自分のしたことを思い出し、けれどそれを今の自分は許せなくて。過去モリガン現在エレナの合間で揺れ動く心がぎりぎりと締め付けられる。

 次の瞬間、パンッと小気味のいい音が聞こえ、全員がそちらを向く。その正体は、レイナがエレナの頬を叩いた音だった。両手で思い切りエレナの両頬を叩き、そのまま彼女の頬を包み込むように手を当てていた。


「……情けないこと、言わないでちょうだい。誰もあなたエレナのせいだなんて思ってないわ」

「レイナちゃん……」

「姉御の言う通りです。少なくともシェインたちはモリガンさんとエレナさんは違うと思っています。だからそれを……あなたエレナさんの言葉で否定しないで、ほしいです……」

「シェインちゃん……」

「そうだよ、君は悪くない。悪いのは心が弱かった“僕”なんだから」

「――っ⁉」


 あまりにも自然に会話に入り込んできたシャドウ・エクスに一行は目を見張る。すぐに導きの栞と空白の書を構え、シャドウ・エクスを睨みつけた。


「……そんな怖い顔しないでよ。シャドウになってしまったから仕方のないことなんだけど、自分の記憶を他人に見られるっていうのは、気分の良いものでもないんだよ?」

「だったら、シャドウになんかなんなきゃ良かっただろ」


 ティムに言われ、シャドウ・エクスの表情が歪む。再編の魔女一行を嘲るように貼り付けていた笑顔は消え、見開いた目が彼らを見据えた。


「君たちに、僕の気持ちはわからない!! あの時も、今までも、そして今だって! 僕がどんな想いでいたのかなんて、君らにわかるわけがないんだ!」

「ええ、わからないわよ!!」


 シャドウ・エクスに向かった叫んだのはレイナだった。

 思い切り叫ぶとそのまま彼へと近づいていき、シャドウ・エクスの眼前に立つ。バッと振り下ろした手が空を切り、握りしめた拳は震えていた。


「エクスは何も悪くないのに全部自分のせいだって思ってるのも、そのせいで私たちとは旅を続けられないって言ってるのも、知らない、知らない、知らない! そんなの私たちはエクスじゃないんだから、わかるわけないじゃない! エクスは僕の気持ちはわからないって言ったけど、それはエクスも同じでしょう? エクスだって、私たちの気持ちを全然わかってないわ!」


 言い終わったレイナは息が上がっていた。一気にまくし立てた言葉たちに唖然とするシャドウ・エクスたちを見て我に返ると、こほんと咳払いをする。


「……とにかく、そういうわけだから。エクスが考えを改めてくれるまで、私たちは何度でも戦うわよ」


 そう言って、レイナは片手剣を構える。それを見たシェインたちも空白の書と導きの栞をぎゅっと握った。

 今度の言葉は“エクス”へと届いただろうか。

 シャドウ・エクスの影がゆらりと揺れ、レイナたちへと襲い掛かる。

 その攻撃が、動きが、今までより鈍っていたように感じたのはレイナたちが強くなったからだろうか。それとも――…。

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