第7話. 仕組まれた舞台設定

 勇者と魔王による戦闘音は魔城全体に響き渡り、当然として広間のドロシーの耳にも入っていた。玉座は上階。ドロシーはそこで行われている戦闘を見透かすように天井を見上げた。

「始まったみたいやな……。そう言えば、さっきルークさんと話してたけど、知り合いなん?」

「まあ、ちょっとね。クレアとの繋がりで」

「王女様と?」

 アンジェラはクレアとの出会い、そしてルークとの出会いをざっくりと説明。それを聞いたドロシーはなるほどと頷いた。

「それはそうと。あの時――前回と同じで勇者が魔王と戦っとるけど、救援に行かんでええんか?」

「う~ん、行きたいのは山々だけど、あんたに足止めされちゃあねえ」

 アンジェラは余裕の様子。どうも助けに行く気配がない。これでドロシーの中にあった疑念は確信に変わった。

「やっぱりな。だいたいわかったわ」

「なにが?」

「今回の一連の件、黒幕はお前なんやろ?」

 アンジェラは感心したように目を丸くした。

「へえ、いつから気付いてた?」

「おかしいと思ったんはずっと前。っで、さっきの質問に対する答えで確信した」

「あたし、そんなにヘマしてたかな?」

「そこそこ。始まりは一回目のオーガの襲来」

 あのとき、ドロシーは違和感を覚えていた。

 唐突だが、魔王軍とは多種多様な魔族達をまとめた連合軍のことである。そんな魔王軍ですら王国には勝てなかった。なのに、魔王軍の一部でしかないオーガだけで王国に戦いを挑むなど勝利を目的にしているとは思えない。つまりオーガは己の身を削ってまで大群を動員したにも拘わらず、なにも得ようとしていないことになる。

 そのことに気付いたとき、ドロシーはオーガの背後に何者かが存在していると察した。

「次に妙やと思ったんは、吸血鬼騒動のとき」

 何故、突然に吸血鬼は動き出したのか。それを解き明かす鍵となったのは、ドロシーが名乗った直後に吸血鬼が零した言葉だった。

 ――なるほど、貴様が……――

 まるでドロシーのことを事前に知っていたような言葉。あのときは意味がわからなかった。しかし吸血鬼の裏にも誰かがいると考えた場合、ひとつの推測が立つ。

「私が吸血鬼討伐に行くよう誘導された可能性。なら、誘導したんは誰か。当然、裏で糸を引いてる奴、つまりは黒幕やな」

 オーガの大群を動員でき、またプライドの高い吸血鬼を従わせられるほどに力を有している存在など、もはや限られている。

「どうや、この推理は?」

「うん、確かにオーガの大群を動員できたり、吸血鬼を従わせられる存在なんて限られてる。それこそ魔王軍で幹部を張っていた奴くらいだろうって推理も出来る。……ははは、正解。大正解だよ。凄いね、あんたは」

 アンジェラは称えるように手を叩いた。が、その表情からは余裕が窺える。そしてその反応はドロシーの予想どおりのものだった。

「アンジェラ。お前、嘘つきやな」

「なにが?」

「違うんやろ、さっきの話。いや正確には、さらに裏があると言うべきか」

「……」

 ここに至ってようやくアンジェラの顔から笑みが消え、目にはドロシーを警戒する光が宿る。

「説明をしてもらってもいい?」

「ええよ」

 裏に気付いたきっかけは、吸血鬼退治のときだった。

 何故、黒幕アンジェラは吸血鬼退治にドロシーが派遣されるとわかっていたのか。

 あの頃、王都には吸血鬼を倒せる者が他にいた。

 前勇者である。

 なのに、なぜドロシーが来ると事前にわかっていたのか。

 それは前述したとおり、黒幕のアンジェラに仕向けられたからだ。

 しかしそうなると疑問点が浮かび上がる。

 あのとき、ドロシーに吸血鬼退治の救援要請をするよう仕向けたのは、王都の上層部である。

 それを踏まえて次、王女クレアとアンジェラには繋がりがあった事実。

 この二人はそれぞれに黒幕と王都上層部という立場にある。

「ここから推察するに、お前は王女様を利用し、自分の都合のええように王国を動かしとったんやないか?」

「ふーん。けど、あたしがそんなことまでしてあんたを吸血鬼退治に向かわせた目的は?」

「王都の警備を手薄にするため」

「なんのために?」

「王女様を誘拐するため」

「どうして誘拐する必要が? もしも王女を操れるなら、わざわざその関係を崩す必要はないでしょ」

「それを説明するには、お前の本当の目的を話さなあかんやろうな」

 アンジェラの真の目的は何なのか。

 それはこれまでの経緯と、ありのままの現状を見れば一目瞭然である。

「結論から言おうか。アンジェラ、お前の本当の目的は勇者を倒すことや。――この結論に至った理由の一つ目、魔王軍が整備される前に新魔王誕生を宣言したこと」

 この報を受けたとき、ドロシーはおかしいと思った。

 何故なら、順序が逆だからだ。

 魔族側からすれば、人間に魔王誕生を報せる必要はない。するにしても魔王軍の編成が完了し、宣戦布告が出来る態勢が整ってからにすべきだった。

 そうすることで、より有利な状況で戦争を始められたはずなのだ。

「次に二つ目、魔城までの道のりに妨害等がなかったこと」

 王国の立てた『少数精鋭で魔王を討つ』という作戦など、魔族側が最も警戒して想定すべき案件だろう。なにせ、前魔王はそれによって討たれてしまったのだから。なのに、魔王軍の編成が完了していないとは言え、魔城までの道のりはあまりにもお粗末だった。

 それこそ、まるで魔城までいざなわれているのではと勘繰ってしまうほどに。

「なるほどね」

 ここでアンジェラが口を挟んだ。

「確かにそれは魔族側こっちのミスだね。でも、その話だと勇者を倒すという計画内容には聞こえないんだけど? むしろ逆に新しい魔王様を追い詰めちゃうよね?」

「まあな。せやけど、ここに三つ目の理由を加えたら矛盾は無くなる」

「三つ目?」

「前勇者失踪と新魔王誕生のタイミングや」

 前勇者が失踪した直後に誕生した新魔王。ここから一つの可能性が浮上する。

 それは――。


 同時刻。

 新勇者と新魔王の戦いは続いていた。

 振るわれた剣を弾き、時に受けて鍔迫り合いへ。それを横にいなしては、また斬り込んでいく。すでにこのような攻防も五〇合を超えており、その余波を受けた玉座の間は見るも無惨な状況に。それほどに苛烈な戦闘が続いていたにも関わらず、未だに決着は見えない。まさに互角の戦いをしていたのだ。

 が、実際に剣を交えているルークは気付いていた、まだ魔王は本気を出していないと。

 様子見の可能性もあるが、そうとも思えなかった。

 どちらかと言えば、遠慮に近い。

 平民が貴族に対して卑屈になるような、そんな感覚。

 ゆえに納得しかねるものがあった。

 それを次の一手を繰り出すまでの空白で問おうとしたが、先に魔王からの問い掛けがあった。何故、戦うのか。これをルークは愚問だと鼻で笑った。

「俺には勝たなければならない理由がある。魔王を討伐し、勇者にならなければならない理由がある。証明しなければならないことがある」

 ルークを果敢に立ち向かわせるのは――。

 ――婚約者を救出する使命感。

 ――王国のために魔王を打倒する忠誠心。

 などではなく、ひとえに高すぎるプライドだった。

 ずっと勝ち続けた人生。それこそがルークが歩んできた道。

 しかしそこに突如として汚点が刻まれた。

 平民男に勇者の座を奪われると言う大失態。それだけでも許しがたいことだが、ここで魔王に敗北してしまった場合、さらに恥を上塗りすることになる。

「あの地味勇者ですら魔王打倒を成し遂げたと言うのに、この俺に出来ないはずがない。そんなことが許されるはずがない、断じて。ましてや俺は此度の戦いで魔王を打倒してクレアを救出し、その功績から国王に結婚が許され、ゆくゆくは王国の玉座につく男だぞ。俺の野望のためにも、俺のプライドのためにも、こんな所で躓くわけには行かんのだ!」

 ゆえにルークは魔王を前にしても剣を握る。

 が。

「ちょっ――ちょっと待ってください」

 魔王が困惑の言葉を発する。

「あなたが魔王と戦う理由って、そんなことのためですか?」

 何故に敬語なのか、何故に理由を問うてくるのか。どちらもルークには理解できなかったが、戦う理由について『そんなこと』と軽んじられたことが許せなかった。

「魔王に勇者を語る資格はない。あまつさえ俺の戦う理由にケチをつけるなど言語道断だ!」

「僕にも言う資格はありますよ。と言うより、納得できないんですけど。なんで僕が認められないで、あなたみたいな人が勇者と認められるんですか。どう考えても間違ってるでしょ!」

「なに?」

「だってそうでしょ! 地味だからって粗末に扱われ、ろくに彼女も出来ない。それ比べ、あなたは魔王を倒してもいないのに王女様との結婚を視野に入れている。おかしくないですか!」

「いや、クレアとは元々婚約者だし」

「婚約者がなんだ! 現役の勇者だったら国中の女性から求婚されてもいいはずじゃないですか!」

「さっきから貴様は何を言って……」

「だから、勇者なのにモテないのはおかしいでしょって言ってるんですよ!」

「いや、俺はモテるが?」

「あなたのことじゃない! ええい、仮面が邪魔だ!」

 魔王は仮面を投げ捨てて、ようやく素顔を晒した。ルークは驚く。その素顔は魔物のものではなく人間のものだったからだ。さらにルークを驚かせたのは、その容姿に見覚えがあったこと。

「貴様は……」

「はい、見てのとおりです」

「……だれだっけ?」

「はあ?」

「いや待て、早まるな。見覚えはあるんだ。いや、なかったか?」

「ほ、本気で言ってるんですか? この顔に見覚えがないと? 真面目にふざけてます?」

「そう責められてもなあ。俺は毎日のように様々な人と会っているんだ。つい忘れてしまうこともあるだろう。と言うより、そもそも会ったことあったか?」

「いやいや、そんな町人モブAとは違うでしょ、僕は! 魔王になるほどの男ですよ!」

「だがなあ~」

「えええ~マジで忘れてるやん……。ほら、よく見てくださいよ。王都の酒場で顔を合わせたでしょ」

「酒場? ああ、そう言えばすこし前に行ったか……。あれ、なんで行ったんだっけ?」

「そこ! そこが重要! そこを思い出せたら、僕のことも思い出すはずやから!」

「あ、いま記憶の何かにすこしだけ引っ掛かった気がする」

「よし、あとちょっとや!」

「あ、すこし遠ざかった。とりあえず、その方言を使うな。どうしてもドロシーの顔が浮かんでしまう」

「しゃーないやん、同郷やもん!」

「ん、ドロシーと同郷? あ、またすこし思い出せそうな予感が……」

「おおお、その調子! 頑張れ、頑張れ勇者ルーク!」

「勇者? その言葉が異様に引っ掛かる。勇者、勇者、勇者…………ハッ!」

 ルークは思案に伏せていた顔をガバッと上げた。

「まさか、貴様は――」


「新しい魔王がなんやろ?」

 アンジェラは新魔王についてのドロシーの見解を聞き、さすがに諦めの表情を浮かべる他なかった。ここまで見抜かれているのであれば、もはや誤魔化しなど不可能と悟ったのだ。

「うん、そのとおり。新しい魔王の正体は、前の地味勇者だよ」

「やっぱりな」

 アンジェラは前魔王の仇を討ちたかった。しかし魔王すら倒した勇者に勝てるはずもない。だから勇者に魔王を名乗らせ、新たな勇者ルークに討伐させようとした。

 王女を介してルークと対面したのは、アンジェラにとって都合の良い勇者になり得るかを確認するため。

 まるでルークのために用意された状況になったのは、彼を新たな勇者にするため。

 魔城までの道のりが容易だったのは、新たな魔王を倒させるため。

「また、お前が前回のように魔王救援に行こうとせんのも当然なわけや。倒したい仇を救援に行く阿呆はおらんわな。――ちなみに、王都に流れた噂もお前が王女様に流させたんやろ?」

 噂を知っただけで勇者は王国に対して不信感を持つ。その状態のときに、もしも噂の出所が王族からだと知れば、果たして勇者は思うだろうか。

「前々から勇者としての扱いを受けてないとか愚痴っとった奴やからな。最悪、王国から離反する可能性は充分にあるわな」

「さすがは幼馴染みって感じだね、よくわかってる」

 しかしここでドロシーが難しそうな顔をした。

「ただ、わからんことが一つある。何故、前勇者あいつが魔王になることを了承したのか。どうやったんや?」

 説得の手段を問われたアンジェラは、なぜか馬鹿馬鹿しそうに冷笑した。

「たぶん、あんただったら気付けるよ」

「私だったら?」

「なにせ、あんたは前勇者の最大の理解である幼馴染みなんだ。きっとわかる。そしてわかるからこそ、あんたはその現実に頭を抱えるだろうね」

「?」

 言葉の意味が理解できず、訝しげに眉を顰めたドロシー。しかし前勇者をよく知る幼馴染みだからこそ気付いた、魔王になることを了承させた説得法に。

 それは『幼馴染みが最も魅力に感じる提案は何なのか』『幼馴染みは普段から何を望んでいたのか』を推理し、そしてアンジェラの容姿を改めて観察した際にわかった。

 ゆえにドロシーはアンジェラの予言どおりに頭を抱えてしまうのである。


 一方、ルークは前勇者が魔王になった理由を問い質していた。

 何故、勇者という栄誉を得ながら王国を裏切ったのか。あまつさえ魔王を名乗るなど常軌を逸している。

 前勇者の判断すべてが、ルークには理解不能だったのだ。

「答えろ!」

 これに対し、新魔王は切なげに目を逸らせた。

「あなたには分かりませんよ。生まれながらに恵まれたあなたには、絶対に僕の苦悩なんて理解できない」

「ああ、理解できん。勇者の称号を捨てることも、先日まで戦っていた相手に与することも、俺の理解できる範疇を超えている」

 新魔王は乾いた笑い声を出す。

「勇者の称号? 王国でそれらしい扱いを受けた覚えなんか無かったですね。あなたも聞いたことがあるでしょ、王都に流れてた噂を」

「それなら……」

 前回の戦いの際、勇者が私欲から故意に魔王軍幹部を見逃したのではないか、というものだった。

「あれを聞いたとき、本当に王国は僕のことを信用してないんやなって思いましたよ」

「だから裏切ったのか?」

「理由のひとつではありますね。なにせ、噂を流したのは王女様だったんですから。それを知ったときの僕の失望感があなたに分かりますか? それでも王国に尽くそうとか思えますか?」

「それは……」

「いい機会ですし、ここまで来たら話しますよ、なぜ僕が魔王になることにしたのか」

 ようやく核心の話となり、ルークは息を飲む。一体どのような出来事があったのか。きっと深い理由があったのだろう。そんなことを思いながら耳を傾ける。

 そうして勇者が魔王になった経緯が話された。

 魔王を倒して王都に迎えられた勇者は、王城に住まうことが許され、また悠々自適な生活が保障された。元々が一介の村人だったことを考えると、ずいぶんな出世を果たしたとも言える。

 しかし周囲の反応はどうだろうか。

 すれ違っても勇者とは気付かない。勇者だと名乗れば「地味でガッカリ」と言われる。合コンでは衛兵にすら先を越され、彼女だって出来ない。未だに童貞。

「この苦しみがあなたに分かりますか?」

「……うん?」

「生まれながらに恵まれた容姿を持っているあなたに、この苦しみが分かるんですか!」

「……ちょっと待て」

 今は魔王になったわけを聞いているはずなのでは?

 ルークの困惑を余所に話は続く。

「分からないでしょうね、地味やモブ顔などと言われ続けた男の気持ちなんぞ。まあ、分かってもらえないと僕は分かってましたけどね!」

「絡み方がウザいな。酔ってるのか?」

「とにかく、このままだと僕は魔法使いにジョブチェンジですよ。それだけは絶対に避けなければならない」

 そんな悩みを抱えていた時にアンジェラは現れた。

「彼女は確かに魔族です。けど、僕の悩みを親身になって聞いてくれた。キャハハハとか笑う人間の女とは違ってな! そして言ってくれたんです」

「なにを?」

「なんなら、あたしが恋人になってやろうかって」

「……」

 ルークは呆れた様子で額に手を当てる。

「まさかと思うが、そんなことの見返りに魔王になったのか?」

「そんなこと?」

 新魔王のこめかみがぴくりと微動した。

「今、僕が魔王になった理由を『そんなこと』って軽んじました?」

「事実だろ。女のために魔王になるなど常軌を逸している」

「なら、あなただってそうでしょ。魔王と戦う理由が自分のプライドのため? 鼻で笑っちゃいますね、そんなことのために戦う人が勇者を名乗るとか」

「……」

「……」

 互いに自分が大切にしていることを軽んじられ、苛立たしげに睨み合う。絶対にこんな奴に負けられない。そうして再び剣は振るわれるのだった。


 その頃、ドロシーは幼馴染みが魔王になった理由に呆れていた。

「ホンマ、アホらし過ぎて言葉も出てこんわ」

 まさかここまで地味をこじらせているとは思わなかった。

 そんなドロシーに対し、アンジェラは賞賛する。

「それにしても、あんたがここまで頭が切れるとは思ってなかった」

「そらどうも」

「うん、凄いと思うよ。散らばった違和感ヒントを掻き集めて、ここまで真実に近付けたんだ。本当に凄いよ。――でも詰めが甘い」

「なに?」

 アンジェラは不敵に笑いながら続ける。

「他人の心配ばかりしてる状況じゃないって言ってるんだよ。あんたも崖っぷちに立ってるんだから」

「どういう意味や」

「あたしの復讐の相手は、魔王様を討った前勇者だけだと思ってる? 魔王様の仇を討つのは、幹部としての責務。だけど、あたし個人の復讐の相手は勇者じゃない。あんただよ、ドロシー」

「……私もろうってことか」

 しかしそれは想定済み。命を狙われてるくらいは考えていた。

 ゆえにドロシーは身構える。

 が。

「ははは、命は取らないよ。どんな意図があったにせよ、あんたの作戦のお陰であたしは生き残り、こうして魔王様の仇を討てるんだ。だから命までは取らない」

「なら、いったい何を企んどるんや」

「代わりに、あたしと同じ目に遭ってもらう」

 前回のとき、アンジェラはドロシーの足止めのために魔王の救援に行けず、主を見殺しにする結果となってしまった。そうして残ったのは、魔王軍幹部という肩書きだけ。

 だから、やられたことをやり返す。

「前勇者はあんたの幼馴染みだ。それこそあんたにとっては魔王を倒すという命懸けの旅に同行できるほどに信頼する特別な相手。そんな幼馴染みが今、窮地に立っている。だけど、あんたは助けに行けない」

「……そういうことか」

 ようやくアンジェラの意図に気付き、ドロシーは事態の深刻さに脂汗を滲ませる。

「今やあんたの幼馴染みは魔王だ。これは王国にとって前代未聞の大罪、国家反逆罪に相当するだろうね。当然、それに与することも同罪」

「……回りくどいことをする奴やな」

「選ばせてあげるよ、名誉か幼馴染みかを。言っておくけど、抜け道なんてないよ。魔王を名乗った時点であんたの幼馴染みは詰んでいるんだ。さあ、選択の時だ――」

 ――幼馴染みの救援に行き、王国の大罪人となるか。

 ――幼馴染みの救援に行かず、王国の英雄という立場を守るか。

「好きな方を選ぶといいさ」

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