第12話 碧眼の少女たち

「そうでした。さきほど自己紹介の最初に私たちオメガです、って言ったから話が脱線しちゃって……あらためて、自己紹介させていただきます」


 そう言って委員長が居住まいをただす。


「まず私から……水瀬川みなせがわくるみ、と申します。いちおう、みんなのまとめ役、ということになっています」


 そういうポジションに居るだろうことは、先ほどからの遣り取りでおそらく四人とも分かっていたことだ。なにせ『委員長』キャラだ。隊長……ということなのか。


「はいはーい! 私はやまなしかざり!月見の里と書いてやーまーなーし! かざりは文章の文と書いてかざりって読むんだよ! よろしくねッ!」


 青髪ゆるふわショートの元気娘、月見里やまなしかざりが自己紹介する。

 なるほどぷっくりと丸いほっぺたが月見だんごみたいである。


「かざりは口の利き方がなってないのです……下品ですね」


 栗色のシルクのような長髪をさらっとかきあげながら、ロリっ子が抑揚のないしゃべり方でツッコミを入れる。この子は先ほどからこの口調でいろんな子に極めて辛辣なツッコミを入れてくる。

 かざりが「にしし」と軽く受け流す。


「わたくしは久瀬くぜ亜紀乃あきのと申します。品のない方はあまり好きではないのです」


 確かにこの子はドールのようにゴシックドレスを着こんで人形のようにふわりとそこに座っていた。

 話し方に凹凸がないのと同様、体型も人形のようにつるんとしている。だがある種の愛好家にはこういう娘の方が受けるらしい。



「……あ、あの……紅茶のお代わりいかがですか」


 銀髪少女が士郎の空になったカップに気付いてティーポットを傾けた。


「――ありがとう」

「……い、いえ……」


 はにかんで俯いた彼女の、耳にかけた銀髪がはらりと垂れる。


「じゃあ……次は私! 西野ゆずりはですッ! ゆず、って呼んでください」


 黒髪ボブが大きな瞳をキラキラさせて――まぁこの子たちの目は常時青白く光っているのでこの表現が正しいかどうかは微妙であるが――砂糖菓子のような声で自己紹介すると、各務原かがみはらが感極まった感じで反応する。


「あっ! じゃあ俺のこともかずクンって呼んでいいよ!」


 お前、そんな名前だったのか。そういや「和也」だったか。と士郎は頭の中の人事履歴を思い出す。


「そんなッ! 私なんかがかずクンなんて呼んだらさすがに失礼ですよぉ!」


 各務原和也、やんわりと断られ、撃沈。本人だけがそれに気づいていないのが不憫でならない。

 そんな各務原を一瞥しながら、今度は黒髪ロングが大物然として話し始める。


「私は蒼流そうりゅう久遠くおん。ゆずと違って、人と馴れ合うのはあまり得意じゃない」


香坂が、何故かうんうんと頷く。


「以上かしら……?」


久遠が一通り皆を見渡すと、数人がある方向を指さした。


「……あっ、あの……」


 銀髪少女だった。顔を真っ赤にして、端の方でキョドっていた。

 耳朶じだまで赤く染まっている。


「あっ!? ……ご、ごめんなさいッ! ……わ、わざとじゃないからね? みく?」


久遠が、先ほどまでのクールな表情から一転、慌てふためいている。


「……いいの……わ、……たしは……かみしろ……みく……です」

未来みくちゃんはちょっと大人しい子なのです」


 ロリドール久瀬亜紀乃が、大丈夫だよー……という視線を彼女に向けると、他の四人も同じようにほわーっと未来を見守るような空気が漂う。


 神代かみしろ未来みくは、この中にいると吹けば飛ぶような影の薄い娘であった。

 一昨日の戦場では、まるで戦乙女ヴァルキリーのように圧倒的で凛とした存在感を発揮していたというのに、この落差は一体なんであろうか。

 士郎は俄然彼女に興味を惹かれたのである。



「おっ!? やってるわね!」


突然入口の方から別の声が聞こえてきた。


「あ! ちひろー!」


ゆず――西野ゆずりは――がパッと顔を上げてそちらを見上げる。

 実験小隊の副官、新見千栞ちひろ少尉がニコニコしながら立っていた。



(次回第13話「それぞれの正義」は 12/5 夜21:35の更新です)

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