第9話 口封じ
四ノ宮の言っている意味が一瞬分からずに士郎が混乱する。
「昨日の小隊壊滅の責任は貴様にはない。むしろ良くやったと褒めておこう」
「いや、しかし!」
士郎は、自分の指揮する部隊の兵を九割も失ったことに一昨日から
皆、家族がいたのだ。自分の戦闘指揮がもう少し巧みであれば、もしかしたらもう少し損害は抑えられたかもしれない。
「自惚れるなッ!」
四ノ宮が一喝する。
「新任の少尉が自分の力量で兵を救うなど、本気で出来るとでも思っているのかッ!」
確かにその通りだった。小隊員たちは、皆全力を尽くして戦っていたし、それは士郎が指示したものではない。
あれほどの一方的な攻撃を受けながらも、最期まで「軍隊として」その規律を維持して戦い抜いたのは、彼ら一人一人の「兵士」としての
士郎は、常に自分の横に田渕軍曹が寄り添っていたことを思い出す。本当に頼りになる兵士とは、彼のような存在のことだ。
「まぁ……そう思い詰めるな」
四ノ宮が言葉を継ぐ。幾分か、柔らかい口調に変わる。
「そんなことより、オメガたちに礼のひとつでも言ってやってくれ。正直言うとな……私は貴様らを見捨てるつもりだったんだ」
そうなのか? ではなぜ……。
「だがイモータルがな……あぁ、これはあるオメガのコードネームなんだが……あの人たちを助けなきゃいけない、ってきかなくてな」
「そう……だったんですか……」
確かにこの部隊には、何やら秘匿行動を前提としているような雰囲気があった。
そもそも〈オメガ実験小隊〉なんて聞いたことがない。「オメガ」という存在が実在していた、ということですら今初めて知ったのだ。
だとすれば、自分たちのような一般部隊と接触してしまっては、いろいろと軍機に関わる事態になりかねないだろう。秘匿部隊の指揮官の立場であれば、いくら友軍が全滅しそうだと分かっていても自分たちの存在を秘匿する方を優先するという理屈は、新任少尉ですら十分理解できる。
そこまで考えて、先ほど四ノ宮が「石動小隊はウチで貰う」と言った訳が氷解する。
要するに、オメガ小隊の存在を知ってしまった以上、士郎たちを自由にするわけにはいかないということなのだ。
そして、昨日オメガたちがあの集落で一切の捕虜を取ることなく、降伏して手を上げた敵兵すら容赦なく皆殺しにしたのは、機密が外に漏れないようにするための「口封じ」なのだ。
何度も言うが、これが「戦争」であり「軍隊」なのだ。
むしろ、士郎たち小隊の生き残りは情報漏洩のリスクとして人知れず処刑されたって本来文句を言えないのだ。
となると、自分たちが今「生かされている理由」とは唯一、さきほど四ノ宮が言っていた、「オメガが士郎たちを助けたいと考えた」からに他ならない。
「――分かりました。オメガの皆さんとの面会を許可願います」
「――許可する」
少佐は、理解してくれて何よりだ、という表情を士郎に向ける。
「……あーそうだ、言い忘れていたが、貴様たちに勲章を申請しておいたぞ」
四ノ宮が、ニヤリと笑みを浮かべる。士郎が背筋を伸ばして軍人らしく返答した。
「はッ! 口止め料までいただき、恐れ入りますッ! 石動少尉、戻りますッ!」
そのままくるりと
四ノ宮東子はそれを黙って見送ると、小さく独り言を呟いた。
「石動士郎……。可愛い顔して、食えない奴ね……」
(次回第10話「男子禁制」は 12/4 昼12:05の更新です)
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