第7話 邂逅
四人は、まだその場に座り込んでいた。
いや、腰を抜かしていた、と言った方が正解かもしれない。
ついさっきまで、あらゆる方角から撃たれ、後退し、追い詰められ、包囲され、
小隊は、全滅するところであった。
四人は間違いなく死を覚悟していた。というか自決する寸前だった。
だが、何故だかまだ生きていて、テロリストたちの村は殲滅された。いや、殲滅したのは自分たちではなく、彼女たちだ。
この呪われた戦場に、まったくもって似つかわしくない、可憐で、可愛らしく、美しい乙女たちだ。何者だ。彼女たちは一体なんだ……。
「なんとか……間に合って……よかったです……」
控えめな、鈴のような日本語が――日本語だ(!)――四人の頭上から聞こえてきた。
見上げると、さきほどの少女たちが周りを取り囲んで、優しげな微笑を浮かべながらこちらを見下ろしていた。
すぐ目の前で士郎にたどたどしく話しかけてきたのは、先ほど残像のように見かけた銀髪の少女だ。その瞳は、先ほどと同じように青白く発光している。
見ると、少女たちの瞳は全員同じように青く発光していた。何らかのコンタクトデバイスを眼球全体に装着しているのか。
「あ……あぁ……」
士郎は何とか応じると、身体を起こそうとする。
「あっ! まだダメなんですからねっ! いま痛覚遮断のカートリッジ打ち込みまーす」
すると、黒髪ボブの毛先を肩口ほどの長さに切り揃えた小柄な少女が
「あっ……俺もお願いします」
「はいはい、それだけ元気ならあなたは一番後回しっ……と!」
青みがかったゆるふわショートカットの子が各務原をさくっと制する。毛先がくるんと跳ねあがっているのが意思の強さを物語っているかのようであった。
「うへぇー」
と言っている各務原もまんざらではなさそうである。
胸元の薄汚れた装甲に刻み込まれた階級章を見ながら、別の少女が田渕を横に寝かせた。
「軍曹さんは少し横になった方がよさそうですね」
「……済まない……どうやら助かったみたいだな」
その胸元に田渕を抱えるようにして、そっと地面に寝かせたのは、薄桃色の髪をゆったり目にツインテールにした、真面目そうな委員長タイプだ。
香坂上等兵は、知らないうちに吹き飛ばされて千切れかかっていた左手の親指を、応急キットの生体ホチキスで黒髪ロングのポニーテール少女に仮止めして貰っているところだった。
目に涙を浮かべながら「全然大したことないから」などと強がっている。
もう一人の少女だけは、集団から少し離れたところで背中を向けて立ち、ライフルを構えて周囲の警戒をしているようであった。まるでドールのような見た目はとても幼いが、よく訓練されている。
まごうことなき陸軍の兵士たちであった。
***
「軍団長!
大陸東北部某所――。
男は、まるで色気のない質素なコンクリ壁に覆われた無機質な執務室の中で、先ほど慌てて入ってきた兵士のうわずった報告を聞くと、表情一つ変えずにくるりと後ろを向いて、薄汚れたガラス窓から外の様子を眺めた。
マルボロに火を点け、大きく息を吐きだす。
「人数は足りていた筈だが……酒でも飲んでひっくり返っていたのか」
これだから城管崩れは駄目なのだ。もはや偉大なる党は存在しない。いくら村の中でふんぞり返っていてもいいが、敵は農民工とは訳が違うのだ。クズどもめ。
「い……いえ、見つかった時は全力で攻撃し、壊滅に追い込んだそうです……しかし……」
ほう。意外な報告だ。ちゃんと給料分は働いたということか。男は続きを促す。
「しかし……どうしたというのだ」
「はい……どうやら
男は、その言葉を聞いた途端、振り返ってまじまじと兵士を睨みつける。
「
男の射るような視線に
「ま、間違いないそうです……
「なぜ皆殺しに遭ったのに様子が分かるのだ! いい加減なことを言うなッ!」
大方最後の詰めが甘くて手酷い反撃を受けたのだろう。それで自分たちの失態を隠すために、よりにもよって
沸々と怒りがこみ上げる。
これだから自分たちは一度だって勝てないのだ。勝った勝ったと大はしゃぎするのは、いつも相手が惨めなくらい格下の時だけだ。偉大なる祖国は、近代に入って一度たりとも列強に勝利したことはないのだ。
「ほ……本当ですッ! 戦闘中に無線が入って……それで、後で様子を見に行ったら全員死んでました」
男は、いつの間にか燃え尽きていたマルボロをもう一本咥えた。
「――下がれッ」
怒気を
本当ならば、また我々は
もう実戦配備しているのか。あるいはテストか……。
アジア解放統一人民軍――。巷では「
「
(次回いよいよ第2章開幕 第8話「実験小隊」は12/3 朝8:05の更新です)
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