第36話 氷華

志木しき、今の現状を把握出来ている事を教えてくれるか」


「はい、滋賀第1支部にて遭遇した人物と式神兵が交戦中……すでに2体破壊されています。

 それと小野目おのめ先生が指示された場所に飛ばした式神兵ですが先生の直感が的中です、ホテルの四方から餓鬼がきの群れが迫っています」


「鬼になれなかった欠陥品……か、満たされる事の無い空腹にかられ生者を捕食するという本能しか無い存在の餓鬼がきが大群で……なら操る鬼女きじょが居るはずだ。

 そいつを式神兵で潰せ」


 信条しんじょうは指示を伝えると立ち上がりドアの方へと向かう。


信条しんじょうさんはどちらへ」


「自分はまぁ顔見知りの眼を覚まさせてくるわ」

 っと志木しきに伝えドアを開け、飛び出していく。



 その頃、小野目おのめはホテルのカウンターにて。

「私は小野目おのめ 皐月さつき連隊長と申します。話があります、協力して頂きますか」


 ホテルマンに自分の名前、陰陽道での地位が記載されている、陰陽道隊員証明手帳を開き今の現状を説明していた。


「このホテルには放送機能はありますか」


「あ……はい、ホテル内の火災報知器が鳴ると、そこのカウンター横にある緊急放送機器で出来る様になっています……」


「ありがとうございます、協力感謝します」


 すると小野目おのめは緊急放送機器の隣にある火災報知器のスイッチを遮断しているアクリルボードを拳で破壊しスイッチを押すとホテル内にジリリリリリッと警告音が鳴り響く。


『緊急事態、緊急事態! 只今滋賀第1支部にて、強力な何者かによって襲撃されているもよう……すでに死者も出ています。隊員は今すぐ1階ホールに集合! 修習生、隊員ではない教師は部屋にて待機、これは信条しんじょう支部長直々の命令である!』


 ——その放送から10分後ホテルのホールには24人の隊員が集まる。


「さっきの小野目おのめの放送より進展があった為自分から連絡させてもらう、今このホテルの四方から鬼女きじょが操る餓鬼がきの群れ役1万がこちらに向かっている……支部での敵は未だ正体不明だが、志木しきの式神兵が何体も破壊されている状態のもよう 」


 それを聴き、隊員達は不安の感情のみが渦巻いていた。

「本部にも、どの支部にも連絡が出来ないなんて……」

「1万……こっちは26人ですよ、それにエージェントの式神兵が破壊されている敵に生身で戦える訳がありません……」

「それに私達は……まだ隊員になってまだ1年目の新人の集まりですよ」


 不安からの弱音……陰陽道の隊員であろうと元々は普通の人間、今の現状この心情の方が人間としては正しい反応である。


「やばい状態だよなぁ〜無線もケータイも何処にも繋がらへん、死者も出てる状況やこんな事きいたら不安になるやろ、でも自分らは陰陽師やこの世をこの身を賭してでも守ると誓ったんや今はここにいる皆んなの為に戦うんやろ、それが自分らの仕事や……っと言ったものの酷な事を言ってるってのは分かってる、だから今は特例で逃げてもええで」


「なっ……信条しんじょう支部長何を……言って」


「なんや、無理強いで戦わして隊員を死なす訳には行かへんし……まぁこれ死にに行けって感じやろパワハラやん。

 ええで自分は1人でも戦える」


 すると1体の式神兵が信条しんじょうに近づき。

『すみません信条しんじょうさん』


「うおっ志木しきあんた、式神兵越しに会話出来んのかよ……便利だな、それになんや急に……今いい所やったのに」


『確かにこの数では不利ですが私に策があります』

 すると式神兵は符に戻り、ビュンっと何処かへと飛んで行く。


「えっ……おい、まだ策聞いてないけど……」

 それから3分後、式神兵は下国しもくに 雪花せっかを式神兵の身体にガチガチに固定され拉致された様に連れて来られていた。


 シュルシュルっと雪花せっかを縛る糸がほどける。


「はぁ……はぁ……急に部屋で襲われたから殺されるって思いましたよ……」


『ごめんね下国しもくに君、ちょっとお願いがあってね』



 ——「魔力解放……半球型防御氷カマクラ


 パキッパキッと水が凍っていく音と共に氷のドームがホテル敷地内全体を覆う。


「ふぅ……雨のお陰でいつもより強度な氷になってますよ 出入り口は1つだけあそこに作りましたよ」っとホテル入り口から真正面を指を指す。


「これは……凄いな……」


 氷のドームによって雨風がしのげ、四方から来る敵も1箇所に絞った様なものであり、数の有利を覆す一手であった。

 だがこれで終わりではなかった、これから雪男せっか、いやあやかしの力を目の当たりにするのであった。


「えっと、それから」っと雪花せっかは腕を左右に広げ。


半球型防御氷カマクラ!!」

 氷のドームの周りにさらに特大氷のドームを作りこの辺一帯を餓鬼がき1万、宇海うみすらも囲う程に巨大な氷のドームであった。


志木しきさん、式神兵で一般人がいる所を確認報告お願いします」


『……確認しました、今場所を報告します』


「早いですね……」


 半径数キロの範囲にいる一般人を志木しきはたった2分で探し出すのであった。


『一般人183人いけますか?』


「大丈夫ですよ、大体の場所が分かるなら問題はありません」


 すると雪花せっかは両腕を上に挙げ手を大きく広げる。


槍型投下氷ツララ!」


 特大ドーム内の空気中の水分がパキッパキッと音を立て空中に浮く無数の氷の槍を形成する。


 雪花せっかは挙げた腕を下へ勢いよく下ろすと氷の槍は意志を持ったかの様に鬼のみを狙い定め降り注ぐ。


 氷の槍は勢いよく落ちる事により300キロというスピードで餓鬼がきの身体に貫くと同時に脅威のスピードにより身体は原型が分からなくなるほど破裂した様に周りに凍りついた肉片が飛び散っていた。


 一瞬で破裂する為、悲鳴などは無くドンっと氷の槍が地面や岩を貫く音、パンッと弾ける音のみが響きあっていた。


 その場にいた隊員はただ呆然と今の現状を観ていた。

「ふぅ……もう魔力がここの半球型防御氷カマクラを維持するので精一杯です……、志木しきさん敵は」


餓鬼がき1万、鬼女きじよ4体の消滅確認しました、一般人にも被害はありません』


「ふぅ……」

 雪花せっか魔力を使い過ぎたのか、立ちくらみを起こし後ろに倒れそうになる。


「おっと……大丈夫?」

 倒れそうになった雪花せっかを小野目が支える、そして小野目おのめはボソッと。

「これで下国しもくに本部長の4分の1の力なんて……あやかしの血っていうのは恐ろしいわね」


「僕達の正体を……」


 すると小野目おのめは人差し指を立て口に当て「内緒ね」っと笑顔を見せる。


『待って下さい、まだ1体残っています……』


 すると信条しんじょうは何かを確信したかの様に。

「分かった、志木しきもうそれ以上は言わなくてええ、そいつには自分1人が相手してくる」


「何を……何を言っているんですか信条しんじょう支部長!」


小野目おのめは他の隊員を連れ滋賀第1支部に迎え、志木しきお前の式神兵もこっちに来るなよ」


『何故ですか……』


「自分の戦いにはあんたらは足手まといになってしまうんや、だから堪忍してや」


「『……了解しました』」




 ——「いやー氷の槍には驚いたけど、僕は何故か守られてるし、宇海うみ君に至っては魔力を知ることが出来た……フフッいい感じだ」


 宇海うみの身体は氷の槍で貫通され、弾け飛んでいたのだが弾け飛んだ肉片は水となり宇海うみの元へと戻り身体を形成する。


 魔力名【液状化スライム


 身体は変幻自在の液状化にするとが出来、またこの世に存在しないとされる不純物が全くないH2Oの集合体。

 不純物が全くないH2Oはマイナス45度でも凍らないと言われるその為、雪花せっかの物理攻撃、凍らせる力は宇海うみにとって無駄であった。


「いいね〜宇海うみ良かったね〜最高の魔力じゃないか、この決定的瞬間を見れるなんて楠那くすなさんと観察役交代して良かったよ全く」


 するとコツッコツッと靴の音が暗い夜道に響く。


「あら、宇海うみ君だいぶ見た目変わってしまったな〜」


 宇海うみが進む先に信条しんじょうが立ち塞がる。


(へーこっちを選んだか……それにしても中々早かったなぁ、でも1人で来るとは思わなかったよ)


「……なぁそこに隠れてんのは……かしわ君かな?」


「ありゃ……流石です、信条しんじょう支部長その目は何処まで見えてますか?」


「なんや、知ってたんか……そうなるとかしわあんたもリライブ教団って訳やな、何かと怪しいと思ったけど、あんたらが使っていた符、自分らの仲間を使って作ったものやな」


 すると信条しんじょう細めな眼を精一杯見開くと9割を黒目が占める眼でギョロっと柏を睨みつける。

「何が目的や」


「おーこわ、えっとーそれはですね3つありましてね」


 1、人類鬼神細胞実験。


 2、滋賀第1支部にあると言われる比叡山に住まう強力なあやかしの情報。


「そして3つ目は信条しんじょう支部長、いやフクロウのあやかし【祟り物怪たたりもっけ】貴方の細胞ですよ」






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