第35話 残虐

 ドン、ドンっと小野目おのめ信条しんじょうが泊まっている部屋の扉を強く叩く。


 ドンドンドン、「信条しんじょうさん! 小野目おのめです、開けて下さい」


 するとゆっくりと扉が開く。

「なんやねん……騒がしいなぁ」


「すみません、中入らせて頂きます」

 と小野目おのめ志木しき信条しんじょうの部屋の中へ入ってくる。


「おっおいって、本当になんやねん……」


信条しんじょうさんがこのホテルに泊まっていて本当に幸運です……、まずは簡潔に言わせて頂きます、緊急事態です!」


「あっ……はい」




 ——「宗方むなかた君、体調は大丈夫ですか……」


「悪りぃなイリヤ、それに宇多姫うたひめ……なんかごめんな、この場で言うべき事ではなかったかな」


「いえ……貴方は何も間違ってません」


「……」

 その言葉に覇気が無く、しゃがみ込み顔を埋めていた。

 どんなに嫌っていたとしていても、家族なのである。

 宇多うたには宇海うみとの縁を完全に切る事なんて出来るはずがなかった。


「……外、かなり荒れてきましたね」

 イリヤはこの沈んでいる雰囲気を変えようと、話題を逸らし、窓の方へ向かう。


 ガタッガタッっと強く吹き付ける風により窓が震える。


 ガタッガタッ……ガシャン!

 突然の事で全員眼を疑った、窓が割れ1人の少女が13階である伏見ふしみの部屋の中へ入って来たのであった。


「到着、目標、確認、連行」

 その少女はそう言うと、まるで当然かの様に土足で歩き始める。


「ちょっと待って、貴方は誰なんですか」

 イリヤは少女の右腕を掴む。


「貴様、誤謬、処分、遂行」


「処分……って」

 少女は上条かみじょうの手を振り払い、指を真っ直ぐ伸ばしとパキッパキッっという音と共に少女の爪が長く鋭く尖り、ドスッと上条の腹部を貫く。


「えっ……」


「処分、完了、任務、続行」

 少女は腕を抜き取ると、上条かみじょうから大量の血飛沫が飛ぶ。


「「イリヤーー!」」

 黒子くろこ遊馬あすまは同時に動き出す。

 黒子くろこはテーブルに置いてある、グラスを割り、遊馬は部屋中に散らばっているガラスの破片を武器に少女に斬りかかる。


宇多姫うたひめー! 爆発で俺たちの援護たのんだ」


「面倒、全員、処分、決定」

 すると少女は左手を前に出す、その瞬間その場にいた4人の動きがピタッと止まる。


「んんっ……ん……んん」

(体が動かない……なんだこれ……糸?)


 すると少女は動けなくなっている黒子くろこが持っていた、割れたグラスを奪いそれを黒子くろこの喉元に突き刺す。

「んー! んっ、んっ……」


 少女は返り血を浴びても眉ひとつ動かさず左腕を遊馬あすまに向け、大きく広げた左手をグッと握る。その瞬間、遊馬の身体を糸が強く縛りつけ骨がバキバキと砕ける音、砕けた骨が肉を突き刺し血が全身から噴き出ていた。


「んー! んー」

 僕はこんな時も何も出来ないのか……皆んなが死にそうになっているっていうのに。


 今のこの現状、伏見ふしみ宇多うたは涙を流し踠く子供の様であった。


「最後、貴様、処分、決行」


 少女は宇多うたの前に立ち爪が鋭く尖った右手で宇多うたの左腕、脚を切り落とす。


「ああぁぁぁ!」

 宇多うたは痛みで声を荒げる、だが今自分が声を出せる事に気付く、腕、脚と一緒に身体中に巻きついていた糸も切られ解かれていた。


 宇多うたは痛みで遠のく意識で魔力を振り絞り伏見ふしみに向かい右腕を伸ばし、火球を放つ。


 ボンッ!


「打撃振動波符起動!」

 爆炎を掻き分け、少女に向かい拳を打ち込む。

 パァァン! っと拳は少女の頬に強打を与える

「不覚、危険、鬼化、決行」


 その瞬間空気がピリつく様であった。

 その少女の額には黒く輝く2本の角が生え、気づいた頃には少女の右腕は伏見ふしみの胸元を貫いていた。


「がぁはぁ……はぁ、はぁ……仕方ないよな」


 伏見ふしみは何かを覚悟し、右手の手袋を外し捨てる。


 伏見ふしみの額にも白く輝く白銀の角が生えるのだったが。

「鬼化、無駄、貴様、連行」


 ドォォォオン!

 少女は鬼化し、強化された拳で伏見ふしみの腹部を貫く。

「あぁぁぁ……」

 伏見はその場に膝から崩れ堕ち、今にも死にそうな状態であった。


「任務、続行、伏見ふしみ、連行」

 すると少女の背中からカラスの様に真っ黒な翼が生え、伏見ふしみの首元を鷲掴みし伏見ふしみを連れ窓から嵐の中飛び立つ。


 まだ……死ねない……間に合え……。


 伏見ふしみは意識が朦朧とする中、遠ざかる部屋に手を伸ばす。


 ——【吸収ドレイン】——



 間に合え……間に合え……まにあ……。


 ダランとする伏見ふしみに少女は気付く。


「死亡、手脚、消失、何処?」

 急に伏見ふしみの身体中の骨という骨が砕け左腕、左脚が無くなっており、先程より大量の出血をしている事に少女は疑問であったのだが、死んでいる事を確認出来ていた為、そのまま暴風雨の中に消えていった。



 ——「御殿場ごてんば殿、今どの辺りですか? もう終わってしまいましたよ」


『自分の魔力は貴方みたいに移動には向いて無いんですよ、後1時間待って下さい』




 同時刻ホテル信条しんじょうの部屋

「今、滋賀第1支部に式神兵が到着しました」


「どや! 中はどうなっている!」


「……」


「どうなんや!」

 次第に声が大きくなる信条しんじょう小野目おのめがなだめる。


「皆さん……誰かに殺された形跡があります……」


「……決定や……小野目おのめ武装し、戦える隊員をホテル入り口に集めておけ、本部に連絡出来ないなら強行突破や」

 いつもの砕けた笑顔は消え、眼を尖らせ周りを威圧する程のオーラを放っていた。


「了解致しました、信条しんじょう支部長」


志木しきあんたはここで待機、式神兵で戦闘に参加しろ」


「は……はい、分かりました」

 すると志木しきの顔色が変わる。


信条しんじょうさん、支部で式神兵が人と接触、……隊員ではありません」



 ——「おやおや、これはエージェントの式神兵ですか……これはこれは、御殿場ごてんば殿が来るまでの1時間退屈しのぎに相手してもらいましょうかねぇ〜」

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