第34話 宵闇

 6月15日18時58分。


 カラン!


 僕達関東高1年6組チームは、僕と遊馬あすまの部屋でグラスにオレンジジュースを注ぎ乾杯をしていた。

 まだ明日も訓練がある訳だが、僕達にとっては今日が何だろうか、いわばクライマックス……? だった訳である。


宗方むなかた! 貴様に黒子くろこはイリヤを守れと言った筈だぞ」


「へいへい、すみませんでした……けど黒子くろこあきらを助けに行ったにもかかわらず即落ちしてたじゃーん」


「なぬ!」

 なぬ……って、仮にも女子高生でしょ黒子くろこさん……。



 黒子くろこ遊馬あすまに身体を向け肩をガッっと鷲掴みにすると。


黒子くろこだって、黒子くろこだって……」


 黒子くろこは、遊馬あすまの肩を掴みながら前、後ろと振り子の様に揺さぶる。


「おっ、わぁ、やぁ、めぇ、ろぃ」


かなで落ち着いて……ね、宗方むなかた君は私がやられそうになった時身体を張って助けてくれましたよ」


遊馬あすまもそんな事言うなよ、黒子くろこさんの指示が無かったら、勝てなかったかもしれないんだから……な」


「うぅ……イリヤが言うなら、それに伏見ふしみあの時は良くやった」

 黒子くろこ伏見ふしみに向け親指を立てる。


「分ーかりやした、あきらが言うから仕方ねーなーぁ……それとイリヤあの時は悪かったな、次があったらしっかり守ってやるからなー」


「えっ……あ……はい」

 ……イリヤさんが照れている様に見えるのは僕だけだろうか。


「イリヤ……! なんだ……その恥じらい……は……」

 黒子くろこは白目になっており、身体は石化している様に固まっていた。


 ……よくわからないが、黒子くろこさん多分ショックで脳が停止状態になっているんだろう……。

 まぁそう言う僕もこの雰囲気に何を言いって良いのかわからなかった。


 するとパン! っとこの沈黙を打ち破る様に宇多うたが柏手を打ち。


「えーっと皆さんに今日は本当に色々な事がありました、けどそれによりチームがまた一丸になれた気がします。

 ……皆んなもう1度目グラス持ってもらえますか」


 皆んなは、口を閉ざし真剣な顔で宇多うたの話に耳を傾けグラスを手に持つ。


「……皆んな有難う、お疲れ様」


 何だかわからないが僕の胸に込み上げて来るものを感じていた。


「そして私達の純潔を守られた事に乾杯!!」


 ……最後にそれ……? もう少し言葉を選んでくれと思ったのは僕だけだろうか、けどまぁこう言うのも楽しいかな。


「「「乾杯!!」」」


 ……黒子くろこさんいつまで固まっているのだろうか?


 すると、コンコンっと部屋の扉を叩く音が部屋に響く。


「ん? ……茉由まゆやっと来たんでしょうか」

 宇多うたはグラスを置き立ち上がる。


「いいよ、宇多うた僕が出て来るから」

 まぁここは僕と遊馬あすまの部屋だからね、志木しきさんじゃ無かったら……何か面倒な問題になりそうだ……。


 ガチャっと扉を開けると。


「ごめーんあきら君、お待たせ」


志木しきさん、遅かったね……とっ小野目おのめ先生も一緒なんですね……」


「私が来たらマズイ事でもしてるのかな?」


「……」

 伏見ふしみは言葉につまる。


「なんてね冗談、さっき廊下で志木しきさんとたまたま会ってね話は聞いてるよ。

 賭け事、不純異性行為……内緒にしてあげるから条件!」


「なんでしょうか……」


「この会に私も混ぜて♪」

 そういえば小野目おのめ先生は飲み会やそのような会が好きな人だったな……。


 それから志木しきさん、小野目おのめ先生を含め3回目の乾杯。


「ねぇ宇多うたちゃん言おうか迷ったんだけど、なんでかなでちゃん立ったまま固まっているの?」


 まぁそうなるよね。

「えっと……黒子くろこさんは」


「ちょっと待って伏見ふしみ君」


 すると小野目おのめは説明しようとする伏見ふしみを止め、周りを見渡し目を瞑り考え込む。


「そういう事か」


 小野目おのめは何か分かったかの様に立ち上がり、固まっている黒子くろこの耳元で何かひそひそと話している様だった。


「……よ」


「なぬ! 宗方むなかた今すぐお前を……んん?」


 黒子くろこは不思議そうにしており現状把握の為か周りを見渡す。


「今すぐ俺をどうするつもりだったんだよ……」


「あっ……ああ、気にするなもう忘れろ。

 それよりも私は小野目おのめ先生がここにいる事に驚きを隠せないぞ」


黒子くろこさん」

 小野目おのめ黒子くろこの両肩を掴み。


「大丈夫ですよ、黒子くろこさん。

 宗方むなかた君はかなりのどんですからあの子の気持ちに気づく事はないでしょう、どんですから!」


「そうですね先生! 宗方むなかたどん!」


「えーっと、どん? って何」


 僕はそっと遊馬あすまの肩に手を置く。

「んんっ……どうした伏見ふしみ、なんでそんな可哀想な人を見るかの様な眼で俺を見るんだい?」


 遊馬あすま、君は本当に鈍感どんなんだね。

 これで黒子くろこさんの石化は解除されたけど、皆んな気づいているかな今度は上条かみじょうさんが石化している事を……。


 すると小野目おのめは固まっている上条かみじょうに気づき、すぐさま近づき耳元でひそひそと話始める。

 すると上条かみじょうは、パァッっと表情が明るくなり何処か嬉しそうでもあった。


 さすが小野目おのめ先生だな僕達、いや……これは少女の扱いに慣れている……っという事だろうな。


 それから会は進み20時00分……。


「おっともう20時か就寝時間が23時だから……そろそろ風呂行かね?」


「そうね、皆んなお風呂行って来なさいここは私が片付けておいてあげるから」


「そんな、小野目おのめ先生悪いですよ……」


「悪いと思うその様な気持ちがあればオッケー、

 今日はもう時間も時間だからいいわよ」


「すみません有難う御座います」


 すると入り口辺りに立っていた、遊馬あすまが「うわぁぁ!」と叫び出す。


「どっどうしましたか、宗方むなかた君!」


「はぁ……はぁ……うっ、気持ちわり……」


 遊馬あすまは手で口を塞ぎ、トイレへ駆け込み鍵をかける。

「おえぇぇ……はぁ、はぁ」


「どうしたんだよ遊馬あすま!」


 すると扉越しに遊馬あすまが話し始める。


「信じて貰えないと思うけどさ……俺さ本当に偶になんだけど急に遠くの場所を見る事が出来るんだよ……はぁ? ってなると思うけどさ話を続けるぞ」


 遊馬あすまは一呼吸置き鍵を開け、トイレから出てくる。

「今、ホテルから1キロ位かな……鬼が女の子の首をはねて殺したんだ……しかもだ鬼も女の子も、うちらと一緒の制服着てるんだよ……」


 声が出なかった……。


 すると小野目おのめ遊馬あすまの肩を掴み。

宗方むなかた君、もう少し詳しく教えてくれる!」


「余り此処では言いたくなかったけど、殺されたのは今日俺らが対戦した近畿高の天音あまねっていう子だ、それと鬼の方だけど……あれは間違い無く……宇海うみだった」


「——ぇっ」

 宇多うたは膝から崩れ落ちる。


「……早く信条しんじょうさんに連絡を」


 ピーザザ……。


「無線が通じない……携帯も圏外……これは……志木しきさんお願いがあります。」


「はっはい!」


「式神兵は今日はあと何体出せますか?」


「あと70体位でしたら……」


「分かりました、それでは1体1万で買います。なので私が今言う場所に飛ばしてください、外暴風雨ですが大丈夫ですか?」


 すると志木しきは頷き。


「分かりました、何処へ飛ばせばいいでしょうか、それと私の符はこんな暴風雨には負けません」


「まず、滋賀第1支部に20体、ホテルから12時3時6時9時方向に10体づつ、先程の宗方むなかた君が言った場所に5体、それと近畿、関東本部までは飛ばせますか?」


「すみません、そこまでは……」


「分かりました、それでは後の5体は私達の護衛でお願いします、では志木しきさん私について来て下さい」


「分かりました」


「あの……小野目おのめ先生、僕達は」


「君達は部屋から出ない、分かった?」


「……はい」


 小野目おのめは扉を開け、走り出す。



 ——『今現在、私達の無線周波数意外の電波ジャックは成功しましたぞ』


「お疲れ様です、楠那くすなさん」


『いえ、それでは計画通りかしわ殿が使役している鬼女きじょを使い餓鬼がきの群れでホテルを囲って下さい、私と御殿場ごてんば殿は滋賀第1支部に向かった後合流地点へ、伊豆いず殿は伏見ふしみ あきらを捕縛し合流地点に向かう予定です』


「情報通りあきら君の吸収ドレインが本当で、宇海うみ君の呪いを消されたらたまったもんじゃないしね、あぁ楽しみだね楠那くすなさん……じゃあ行動を始めましょう、フフッ」

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