第32話 終局

「フゥー……フゥー……ウゥァアア」


 天音あまね遊馬あすまを斬り捨て、呼吸が乱れ整える隙もなく上条かみじょうへ縦一閃……刀を振るう。


 この時この戦いを観ていた大半が天音あまねの勝利を確信していた。


 するとパンッパンパンパンっと4発の銃撃音が鳴る。


 上条かみじょうは痺れた身体に鞭を入れライフルを右側に向け発砲していた。


「……なんとか上手くいきましたね」


 天音あまねが振り落とした刀は動けない筈の上条かみじょうにはかすりもしていなかった。


 上条かみじょうはライフルを発砲する際は地面に固定するか、立って撃つ場合は脇を締めライフルと身体を固定させ足指を握り込み踏ん張りを効かせ発砲する、何故か?……それは発砲後の銃の反動から身体を固定する為であった。

 上条かみじょうは発砲の反動により左側に吹っ飛ばされた状態になり天音あまねの剣撃を避ける事が出来たのである。


「せっかく救ってもらったんです、少しは足掻いてみますよ」



 パンッパンッ——


天音あまねっちー!天音あまねっちーー!」


 地行ちぎょうは脚の痛みが引き立ち上がり硝煙の中、天音あまねの姿を捜す。


「返事が無い……もしかしてもう、やられちゃったかなぁ……」


 すると奥の方から一瞬懐中電灯で照らされたかの様に光り、そこに地行ちぎょうは反応し動きを止める。


 その瞬間パンッと音と共に銃弾が地行ちぎょうの額に撃ち込まれる。


「どぅわぁ!」




 ——「なんとか当たった様ですね……」


「そうですね……それに気絶もしてると思いますよ」


「あら、貴方正気を取り戻しましたか……」


 上条かみじょう天音あまねは向かい合う様に壁に背を付けしゃがみ込んでいた。


「さぁどうしますか、決着付けますか? 私は銃、貴方は刀、それに私達は動ける程の気力は残っていない……貴方は不利ですが」


「勿論、やりますよ」


「そうですか……」っと上条かみじょうはライフルを震える身体で構え標準を定め構える。


「とは言ったものの、私の気力では1発が限界でしょうが」


 天音あまねはその言葉を聞きクスッと笑う。


「ならちょうどいいですね、私も1発しか撃てないので」っと天音あまねも震える身体で掌サイズの小銃を構える。


「剣士なのに銃を使うのは卑怯だと言ってもいいですよ、私も余り使いたくは無かったのですが……」


 すると上条かみじょうもフフッと笑い。


「そんな事無いですよ、訓練とはいえこれは戦いです、相手を騙し1つでも隠し玉を持つ事は当然な事ですよ」


「そうですか、有難う御座います……ではこれで遠慮なく撃つ事が出来ます」


 上条かみじょう天音あまねはほぼ同時に引き金を引く。



『パンッ!』『パウッ!』


 開始時間22分経過——



 その頃瓦礫で遮られている反対側の宇多うたはというと。


「はぁ……はぁ……先程の向こう側での爆発、イリヤさん、宗方むなかた 遊馬あすまは無事でしょうか……、けどその衝撃のおかげで兄さんから逃げる事が出来たわけですが……」


 宇多うたの身体には複数の打撃痕があり、かなりの体力を消耗していた。


「うーたー、何処に隠れてるー……まぁ返事する訳無いよな、全く……あの爆発の衝撃が無ければ宇多うたにトドメをさせた筈だったんだけどなー、でもあの状態だと魔力もまともに使え無いだろうし……」


 宇多うたは声を潜め瓦礫の影に隠れるのだが。


 左側からそっと宇海うみの声で。

宇多うた何やってんの?」


 宇多うたは、はっと左側を向くと宇海うみニヤついた様な顔でこちらを覗き込んでいた。

 宇海うみは左手を伸ばし宇多うたの首を絞める。


宇多うた俺が探索呪術フィールドワークを装備している事予想出来なかったか?

 こういう時に思考が乱れるだからお前は弱いんだ」


「ウゥッ……」


 宇多うたは気が遠くなっていく事に恐怖しながらも、必死に抵抗しようと右手を前に出し、野球ボール並の大きさの火球を宇海うみ目掛け放つ。


「ハハッもうこの程度の魔力しかないんだな、哀しいな……こんなので俺を倒せると思うか?」


 宇海うみは右手でとっさに火球を叩くとボォンっという爆発音を出し宇海うみの右腕を巻き込み爆発する。

「——クッ」

 その爆発は宇海うみにそこまでのダメージを負わせる事はままならなかったのだが、一瞬だけ宇多うたの首を絞める力が弱まり、宇海うみから離れる事が出来たのであった。


宇多うた無駄に足掻くのは惨めなものだな」


 宇海うみは逃げる宇多うたに追いつき床にうつ伏せに叩きつけ押し付ける。


「これで終わりだな」


「ま……だ、まだ……」


「諦めなよ、お前の気力も体力も僅かそれに後制限時間5分程度だろ、探索呪術フィールドワークで確認した所この近くまで来ている仲間もいないこれで詰みなんだよ」


(やっぱり……私は兄さんから勝てる、いや逃げる事は出来ないんだ……)


 宇多うたは負けを悟ったかの様に眼からは涙が溢れ落ちていた。


「はい、じゃあこれでお終いかな」


 宇海うみは刀を両手で持ち刃を下に向け振り落とす……。


「打撃衝撃破符起動!」


 パァン!っと音と共に宇海うみの左頬を殴り飛ばす。

 宇海うみは壁に叩きつけられる。


「お前、何でここに……近くには誰もいなかった筈」


「お前凄いな、今のまともに食らって立ち上がるなんて」


 そこに駆けつけたのは、伏見ふしみ あきらであった。


あきら……」


「ごめん宇多うた遅くなった」


 すると宇海は眉間にシワを寄せ叫び出す様に伏見に問いかけた。

「お前! どうやって……ここまで!」


「えーっとあのーお前のチームの飛雲ひうんだったかな、ちょっとSDTから符を交換したって訳、ご丁寧に符の名前、能力もしっかり教えてくれたよ、何だと思う?」


探索無効呪術インビジブルマーク……か」


「その通り……まぁその事はもういいだろ、さぁここからは僕が相手をしてやるよ」


 その言葉で宇海うみは理性を失ったかの様に

「相手をしてやる? それは俺が決める事だ!」っと叫び出し、宇多うたに向け駆け近付き、刀を振り下ろす。


 伏見ふしみは脚を軸に180度回転し、左脚を踏み込み宇海うみの腹部にアッパーブローを打ち込む。


「くっそ……やろう!」


 制限時間残り1分


 ガキン、ガキンっと宇海うみの刃と伏見ふしみ小手がぶつかる金属音が響き渡る。


 右ストレート、左フック、上段回し蹴り。


「ぐぁはぁ! くそ!!」


 左肩、腹部、左腿、右脛に重い斬撃。


「——ッ、まだ……まだ!」


 制限時間残り30秒


「打撃振動符発動!」


 2人は向かい合い同時に走り込み、同じタイミングで刀を振るい、拳を振るう。


 だがほんの少し宇海うみの刃が早く、宇海うみは勝利を確信した。


 制限時間残り15秒


 すると刀の先、伏見ふしみとの間にピンポン玉ぐらいの火球……刀と交わり、ボン! っと小さい爆発を起こすと宇海うみの刀を弾き飛ばし、宇海うみは体制を崩す。


「なっ……」


「私もいる事忘れないで下さい……あきら!」


「クッッッソ!!」


 パァァァン!!


 伏見ふしみは今出せるありったけの力で宇海うみの左頬をぶん殴る。


 ドォン!! っと宇海うみは壁に叩きつけられ、気を失っていた。


 制限時間残り0秒……訓練試合終了。


 生存者

 関東高……伏見ふしみ土御門つちみかど

 近畿高……かしわ天音あまね


 この試合僕達は引き分けに終わった……。

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