第31話 約束

「中々濃ゆい戦闘やな〜」


「そうですね、レベルは高い方だと私も思います。

 それにしても信条しんじょうさん全く音が無いんですが? マイクの故障ですか」


 城内には5機の飛行移動型マイクが存在している、マイクで拾われた音や声は電波で滋賀第1支部コントロール室に送られ、そこから指定のスピーカーに送られている。


「最初はな電波ジャックか! ……なんて騒いどったけど無線も電話も通じるんや、関係無いやろって訳でただのマイクの故障やろな」


「そう……ですか、まぁ私は声が無くても大体何を話しているか口の動きだけで分かりますがね」


「おぉ、読唇術って奴か! 小野目おのめすげぇなーなんでも出来るやん」


「そんな事無いですよ」


「それにしてもこっちの3階での戦闘はどや? 2対1になってしまったけど……決まりかな?」っと信条しんじょうは5つあるモニター1番左側を指差しながら小野目おのめに問う。


「いえ、まだ分からないですよ。意外とあの子も天才肌ですからね」


「うわぁ、自分の事天才だと言っているみたいやん」


 小野目おのめは、口を滑らした事にはっとなり少し頬を赤らめていた。


 ——時間は数分前に遡る。


 4階での爆発後、3人は3階に落とされ遊馬あすま上条かみじょう宇多うたのあいだに瓦礫が道を塞ぐ。


 遊馬あすま上条かみじょうは爆発に巻き込まれ、3階に倒れていた。

「あー痛ってーけど爆発に巻き込まれて、このくらいのダメージなのは幸いだったなー」

 すると遊馬の右手にポヨンっという柔らかく、暖かい感触……。


「こっこっこれはまさか!」と眼を大きく広げ期待して前を向くと。


「……なんだケツか」


「ガッカリしてんじゃないわよ! お尻でも喜べ! 」

 と上条は床に横になったまま、遊馬の顔面にめり込む程の蹴りを打ち込む。


 それから2人は立ち上がり。

「う……仲間にやられる所だったぜ……それにしても宇多姫うたひめとは逸れちまったな、さっきの爆発で無線も壊れちゃってるし」


「私のも壊れてます……」


 その時、遊馬あすま上条かみじょうにめがけ素早く抜刀する。

 ガキン! と金属音と共に上条かみじょうの前には半分に切断された銃弾が転がっていた。


「え〜〜なんで分かったの! てかなんでこんな薄暗いなか銃弾を斬れる訳? 天音あまねっち今の見たあいつすげーな」


「えぇ見てましたよ、こっちに来て正解でしたねとても楽しみです」


 赤色がかった茶色い短髪で前髪をピンで留めており凛々しい顔立ちのその少女、天音あまね 莉音りおんは燃えているかのような真っ赤な鞘からシャランと刃渡り75センチ程の日本刀を抜刀し、地行ちぎょうに向かい。


地行ちぎょう! 後方援護頼みました」


「あいよ」っと返事をすると両手に持った拳銃を2人に向け撃ち込むのだが、キン! キン! キン! キン!っと遊馬あすまは放たれた銃弾を正確に全て打ち落とし銃弾は全て真っ二つになり、遊馬あすまの周りに転がっている。

 その動きには無駄が無く遊馬あすまは常に冷静を保っていたのであった。

「うへーまじかよ」


宗方むなかた君、貴方こんな芸当ができるなんて意外ですね……」


「あっ、惚れた?」


「えーとそれは無いです」と上条かみじょうは即答するのであった。


「……そっ、じゃあ後方援護お願いしまーす」

 上条かみじょうは小走りで後ろに下がる。

「あっ……結構離れたなー」

 すると、ダン! っと天音あまねは地面を強く踏み込み刀を構え……遊馬あすまを通り過ぎ背を向けて無防備な上条かみじょうを最初の標的として走る。


「なっ……俺じゃねぇのかよ、くそっ」

 遊馬あすま天音あまねを追うように走り出す。


天音あまねっちの邪魔はさせねーよ」

 ドン、ドドン! っと3発の銃弾が遊馬あすまに向かい発砲される。


(今銃弾を打ち落としていたら間に合わない……仕方ねぇか)


 遊馬あすまは強く地面を蹴り天音の横に体を付け刀を振る。

「凄いな、追いつくのか……」

 キィィン! 天音は脚を止め刀で遊馬の攻撃から身を守る。


「へへっ間に合ったー」


 すると、ドスドスドス! っと地行ちぎょうが先程発砲した銃弾が遊馬あすまの左足、左腕左肩へと命中する。


「いっっでー!!」

 命中した部分の服は弾丸の回転でねじ切られ肌には打撲のような青く痣が残っている、弾丸は人体の内部に撃ち込まれる事は無いがそれでもかなりの激痛に見舞われる。

 その為、遊馬あすまはその場で倒れ込んでしまう……。


宗方むなかた君! 大丈夫ですか」

 上条かみじょう遊馬あすまに駆け寄りながら、遊馬あすまから天音あまねを遠ざける為にパンッパンっと弾丸を発砲する。


「ははっへーきへーき、覚悟しての事だからそれに急所に当たらないようにはしてるからね」


「……すみません、私完全に脚を引っ張ってますよね」


「いーんじゃね? 女の子は男に守られるぐらいがちょーどいいよ、それに黒子くろこと約束しちゃったしなー上条かみじょうお嬢様を守れって」


「その長ったるい呼び方やめて下さい!」


「そっ、じゃあイリヤでー」


「急に名前ですか……まぁ良いですが、じゃあ宗方むなかた君、頼みましたよ」


「まかせろ」っと遊馬あすまは刀を痛みで痺る左手に持ち替え天音あまねに向かい走り出す。


(左手に刀を持ち替えた……? 何故わざわざ負傷している腕で……)


「オラァァー」っと気合いのこもった声を上げる、遊馬あすまの左腕はまだ痛みで刀を振るう力が残っていなかったのだが助走と胴体の軸の回転により、ぶらんとした腕を遠心力で天音あまねに向かい斬りかかる。


 ガキンっと刃と刃が混じり合う金属音、天音あまねは間一髪の所で刀での防御態勢をとっていた。

 遊馬あすまの刀は弾かれ、刀は左手から離れていく。

 だが遊馬あすまは回転したままの体制を整える事は無く右腕を背後にグッと伸ばし、右手で刀を掴み左足に力を込め天音あまねの脚に目掛け横一閃。


「ああぁ……いっ」


天音あまねっち!」と焦ったかの様に拳銃を構え、遊馬に向け連射発砲する。


 放たれた銃弾は真っ直ぐ体制が整っていない遊馬あすまに向け撃ち込まれるのだが、ギィン、ギィン、ギィン……と衝突音がなり地行ちぎょうが放った銃弾はビスビスビスっと床へと吸い込まれていく。


「ふぅー暗いから心配でしたが、どうやら全部撃ち落とせましたね」


 上条かみじょうはしゃがみ込みアサルトライフルを構えていた。


「すげーなイリヤ、飛んでる銃弾撃ち落とせるのかよ」


「今のは相手が拳銃だからできた事ですかね、私はライフル、弾速が桁違いですから相手が撃った後に発砲しても間に合う……場合がありますよ」


「なんだよ……だからって普通の人間が飛んでいる弾を撃ち落とせるものかよ!」


「何言っているんですか、私達はそもそも普通の人間ではありませんよ。

 SDTの事忘れていませんか? 今のは反射神経促進呪術オートブリッツのおかげですね」と言いパンッ!!っと1発、地行ちぎょうに向け発砲する。


 弾丸は地行ちぎょうの左腿に当たる、その威力は拳銃とは別格であり、地行ちぎょうはその弾丸の威力に跳ね飛ばされ前方に受け身が取れない体制のまま叩きつけられる。


「ぐっへっっ!」っと声を漏らし撃たれた左脚を庇うかの様に丸まっていた。


「次でトドメです」

 上条かみじょうはそう捨てゼリフを吐き、地行ちぎょうの額に標準を合わせライフルを構える。


「……くそー!」

 すると天音あまねが、たがが外れたかの様に叫び出し、右手を前方に広げる。


「……ガスの匂い……! イリヤー! 2丁拳銃の方じゃ無く、今すぐ刀使いを撃て!」


 遊馬の判断は遅く……。


 天音あまねの手のひらからバチッバチバチっと火花が散りその数秒後ボォォォオンっと天音あまね自身も巻き込む大爆発が起こる。

 周りには硝煙が舞い薄暗さも相まり視界が完全に遮られている状態であった。


「イリヤ……無事か……」


「なんとか……」


「いやー、本当に常識外れの威力だなぁイリヤがいる場所まで吹っ飛ばされて身体中いてぇ……まぁこの状況で合流出来た事は幸いだけどな」


「私も大分離れていたのに身体中痺れて思う様に動かないですね……それにしても相手は捨て身の攻撃で私達2人を倒す予定だったんだでしょうけど、ただ自滅しただけでしたね」


 すると硝煙が舞う目の前がパッと晴れたかと思うと天音あまねボロボロの身体でこちらに突っ走ってくる。

 痛みなど感じないほどアドレナリンが出ていたのか眼は少し血走っていた。


「先ずは厄介な銃使いから!」っと型など忘れたかの様に勢いだけで刀をイリヤに向け振りかぶり……振り落とす。

 上条かみじょうは急な展開に恐怖し、眼を瞑る。

 ザンッ……。

 斬撃の音……眼を開けると。

「え……なんで宗方むなかた君、私を庇って斬られているんですか……貴方は私と違って身体の自由が効くのに……」


「……なんでって、黒子くろこと約束したから……な……」

 そう言い遊馬あすまは床に吸い込まれる様に倒る。



 開始時間15分経過。

 遊馬あすま脱落——。

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