第29話 混戦

 城内1階


 ドォン、ドォンと2階から戦闘音が響く。


「あらあら、もう戦闘が始まってますね。

 地形図も書き終わったしー宇海うみっち、俺たちはどうすればいい? かしわっちの援護でもしちゃう?」


 制服を着崩し装束品をジャラジャラと着け髪をオレンジ色に染めた男が軽いノリでのスタンスで提案してくる。


「いや、地行ちぎょう天音あまねと俺とで3階に向かう。

 飛雲ひうんかしわの援護」


「おっ! あの作戦を遂に結構する訳だな」


「あぁ、それと探索無効呪術インビジブルマーク起動させるの忘れんなよ」


「あ〜これね、それにしてもかしわこんな符何処から持って来たんだろうな? 全部見たこと無いものばかりだぜ〜」


「そっそそそうだよね、ぼっ僕もこんなの見た事無いよ……」

 背が低く、水色の少し長め鼻の付け根まである髪で目を隠し常に挙動不審な振る舞いが特徴的な少年、飛雲ひうんが今になって得体の知れない物を使っている事に恐怖を感じたのか身震いしていた。

 正直何故、飛雲ひうんの様な人間が宇海うみが率いるエリートと呼ばれるチームにいるか、……それは後に気づく事になる。


つばさっち、ビビリ過ぎだって」


 地行ちぎょう飛雲ひうんの背中をバン! と叩く。

「んぎゃぁ!」

 地行ちぎょうは気合いを入れたつもりであったのだが、この性格で分かるように手加減を知らない為、飛雲ひうんの気力を只々減らしていくだけであった。


「大丈夫だよ、飛雲ひうん今までの訓練で普通に使えてたじゃないか。

 心配し過ぎだよ」


「僕は2回しか使って無いけど……そぅ……だよね」


「それじゃあ時間も無いし、俺らも行動するぞ」


「了解」

 3人の息のあった返事と共に全員が一斉に走り出す。



 同時刻4階、宇多うたチーム

「ほい、地形図完成したぜー」


「お疲れ様です、けど出来て早々で悪いですが兄さん達が行動を始めました。

 こちらも早く動きまし……え……っ」


「どうしたの宇多うたさん、また何か問題が?」


「はい……大問題です、探索呪術フィールドワークを使っても兄さんのチーム4人誰も見つける事が出来ないんです……」


 次から次へと異例な事が起き、冷静な宇多うたでも、額から冷や汗が滴り落ちる。


「なんだそれ? じゃあ俺達はどうすればいい訳だ?」


「待って下さい……」

(何か……何か策は……)


「……とりあえず、私達は別行動を避け3人であきら黒子くろこさんがいる2階を目指しましょう」


「分かった、じゃあ先頭は俺が行かせてもらうからなー」


 先頭に遊馬あすま、後方に宇多うたの陣形で2階を目指し走り出した。


宇多姫うたひめ先ずは何処に向かえばいい? やっぱりあきらが開けた穴ぽこかー?」


 宇多うたは口に手を当て考え込む。


「いえ、私達は遠回りで行きましょう……、兄さん達は先に行動しています、それに一度試合で見せた脚力を増幅する符で、すでに近くまで来ている可能性は充分にあります。

 もしかしたらですけど……穴が開いている事を知られていたら降りた瞬間挟み撃ちに合う可能は充分にあると思うんです。

 だから、3階のそこの場所からかなりの遠回りになる様に」


 宇多は地形図を指差し遊馬あすまに伝える。


「この階段で下に降ります、探索呪術フィールドワークでこちらの行動は見られていると思うので急ぎますよ!」


「あんまよく見えないけど……まぁ何と無く分かった! 」


 伏見ふしみが開けた穴を通り過ぎ、それから宇多うた達は5分間走り続けた。


「はぁはぁ……」


「あらあら、上条かみじょうお嬢様限界ですか?」


「大丈夫よ! こんなに全力で走ったら息位誰でもきれるでしょ……」


「2人共階段はもうすぐです、いざって時の為に直ぐに戦闘できる様準備しておいて下さいね」


「へーい、それとさ……俺だけかなぁこの辺少しガス臭くねぇ?」


「ガス……?」


 その瞬間床がボコッと盛り上がり周辺に亀裂が入る。


宇多うたならこの通路を使うって信じてたよ』


 床が赤く染まり徐々に赤から黄色、黄色から白へと変色していく。


「——ッ2人共!! 今直ぐ全力の跳躍強化呪術オーバージャンプで階段まで跳んで下さい! 爆発が来ます!!」


「なっ! いきなり……爆撃かよ!」


 3人は跳躍強化呪術オーバージャンプを起動するのであったが……その決断は遅く。


 ボォォォオン!!


 大きな爆撃音と共に4階、宇多うた達がいる周辺を炎が包む……。



 ——同時刻城内2階


 カキン、ガン、キン……ガキン! と刃と刃がぶつかる音が鳴り止まず、一手一手渾身の力で刀を振っておりぶつかるたび火花が薄暗い城内をほのかに照らす。


 かしわは腰に巻きつけていた刃渡り70センチはあるだろう日本刀を抜き差し、アクロバットに動く黒子くろこの斬撃を一手一手正確に対処していた。


 黒子くろこさんの技はいつもの様にキレがあるけど……、それを物ともせず受けきる技術。

 それに反射神経が良いってものではなく、これは予想が……いわば勘が鋭いものだろう、この2人の戦いに加勢することおろか……この場を動く事すら邪魔になってしまうのでは無いだろうか……。


 伏見ふしみは只々壁に背を付け2人の戦いを見ている事しか出来なかった。


「くっ……素早く背後を取ったとしても、フェイントをかけたとしても黒子くろこの攻撃が全部読まれているかの様に防がれてる……本当に勘が鋭い奴だ」


「いやいや、君は強いね〜僕が防戦一法なんだからね」


 すると、奥からトタトタと誰かこちらに走って向かってくる足音。


「はぁはぁ、かしわ君おっお待たせ……」


つばさ君……つばさ君だよね!」


「そうだよかしわ君、ぼっぼぼ僕が一緒に戦うからね」


「そうか……つばさ君なんだね!」


 そう言うとかしわは黒子の攻撃を避けながら走力強化呪術レッグエンジンを起動し、つばさの元へと走りだす。


「流石に黒子くろこでも2人相手にするのはキツいな……伏見ふしみ今の内2人掛で油断しているうちに1人だけでも潰しておくぞ!」


「……分かった」


 僕と黒子くろこさんは体勢を整え、2人の元へと走る。


「いやー本当、つばさ君が来てくれて助かったよ」


「あっあああっいや、そんな事言ってれて嬉しい……——ぐぁはぁ!」


「なっ……!! 奴は何をしているんだ」


 かしわ走力強化呪術レッグエンジンを使った勢いのまま、味方である飛雲ひうんの腹部を蹴り飛ばす。


「——ッカァ——なん……でぇ」


つばさ君、苦しい? ねぇ苦しい?」

 仲間の苦しむ姿を見て笑うかしわの狂気のオーラに僕達は足を止める……。


「フフッフフッ……ぐっ……ぇ」

 その時、飛雲ひうんかしわの首を強く握り床へと叩きつける。


「あぁ? てめぇかしわ何してやがる」


 先程まで挙動不審が目立ち、悪く言うと陰陽道に似つかわしく無い存在の少年は、口調、態度だけでは無く、目には見えないが全身から漂う威圧感というものが2人の体を抑えつけている感覚に陥っていた。


「フフッ……ごめんね、君じゃ無いと勝てないと思ってさ……ちょっと強引に……ね」


「はぁ? だからってやり方ってもんがあんだろうが」


「本当ごめんって許してよよく君、チームの為だから……ね」


 よくと呼ばれる少年はかしわの首から手を解く、かしわの首には握った跡が赤く残っていた。


「チッ、後でつばさの前で死んで詫びろよ」


「うーん死ぬのはちょっと……土下座で頭踏まれる位で許してくれない?」


「しょうがねぇ、それで許してやるよ」

 そう言うと少年は伏見ふしみ黒子くろこへとゆっくりと歩み寄り目を隠していた前髪を上へとかきあげ、鋭い眼光を2人に向け……。


「悪いな待たせて、じゃあ再戦しようか!」


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