第27話 不撓

 6月15日朝8時30分

 いつもの様にホテルで支度を済ませ、城内格闘戦キャッスルコンバットの訓練城がある滋賀第1支部に向かう為、バスに乗り込む。


「……あれ、小野目おのめ先生? なんでバス……いや、滋賀にいるんですか?」


「あっ! えーと……久しぶりだね、ちょっとね……うーんノリで」


 ノリでとはどういうことだろうとは思ったが、隣で青ざめた信条しんじょうさんを見て大体予想は出来た。

 これは半年以上も一緒に生活してきた僕だからわかること……きっといや、間違いなく酒絡みだろう……。


「まぁなんやそれは後で説明するから、はよ中入り……雨が中入って来ちってるで」

(まじでやってもうたな……それにしてもなんで小野目おのめあんなに呑んでんのにケロッとしてんねん、バケモンかこいつ)


「じゃ皆んな揃ったな、運転手さんよろしくお願いします。……ちょっとゆっくりめに安全運転でお願いします」


 最後運転手にこそっと何かを話している様な素振りをしていた様だったのだが、何を言っているかこちら側ではよく分からなかった、まぁそれはそっとしておこう……。


 そしてバスはゆっくりと滋賀第1支部へと出発する。



 ——10時00分、今までは野外での見学だったが、雨が強く降っている為滋賀第1支部のモニター室での見学となった。


「はい、今日は特別に関東本部直属の小野目おのめ隊、隊長である小野目おのめ 皐月さつきさんに来てもらってます」


小野目おのめです、信条しんじょう支部長と一緒にガンガン! アドバイスしていくからよろしくね」


 本日合宿5日目、僕達にとっては本番よりも、真剣にそれと共に不安や緊張の波が押し寄せてくる。

 予定表では僕達関東高校6組と宇海うみが指揮をとる近畿高校1組の対戦は、僕達にとっての5戦目。


 するとおもむろ宇多うたがバックから一冊のノートを取り出す。

宇多うた、それは……?」


「今までの私達と兄さん達の対戦時の戦法、結果をまとめた記録ノートですよ」


 ノートにはびっしりと文字で埋め尽くされていた。

 細かく戦術、戦法などが書かれており又、その対応策など。


「へーこれ宇多姫うたひめが全部書いたのか……、流石優等生!」


「いつもはここまではやりませんが、今回に限って私達の純潔がかかっていますからね」


「いや……まだ、そうだとは決まって無いと思うけど」


あきら貴方の考え方は甘いです、男子高校生が女子に命令することと言えば……もう一択ですよ。

 高校生は性に対して妄想が盛んですから、まぁ当然ですね」


 そこまで言い切るのは……ちょっと。


「まぁその事は置いといて、皆さん集まって下さいブリーフィングをしますよ」


 僕達の勝率10戦中7勝3敗、内の2敗は制限時間30分を超え時間切れなのだが最後に対戦した志木しきさんのチームに全滅……大敗を期した。


 志木しきさんが使う【式神兵しきがみへい】は符を持っていれば何体でも創り出す事が可能な為、ゲームで云えばチート並の強さである。


「茉由の対戦は余り今後ためになりませんね……無茶苦茶過ぎます。

 見返すなら北海道高校9組とやった試合ですかね」

 北海道高校9組、下国しもくに 雪花せっかがリーダーを務めるとてもバランスが良く取れているチームであった。


 下国しもくに 雪花せっか下国しもくに本部長の孫にあたる。

 身長や鼻も高く、瑠璃色の髪をなびかせる美少年……そう、名前でよく間違えられる事があるが男である。

 父が半妖、母が人間から生まれており4分の1妖の血が混じっているその為、下国しもくに本部長並では無いが冷気を操る魔力を持っている。




 僕達は雪花せっか達に時間切れで負けている。

 僕達は魔力持ちを甘くみていた……。宇多うたを指揮官に一階で待機してもらい、僕達は雪花せっかと4対1で戦う体制を整えたのだが……、戦闘開始と共に周りを冷気が取り囲む。


 充満する冷気は武器を握る力、体を動かす筋力、集中力を削ぎ落としていく……。


 はたまた鈍くなっていく体で攻撃を当てたとしても、空気中の水分を冷気で凍らせ体中に氷の鎧を身に纏っており、筋力が落ちている現状、ダメージを与える事がままならなかった。

 結果、宇多うたを残し全敗……、それにしてもここまでの強さを持ちながら、イケメンなのは反則では無いだろうか? それに性格も良く穏やかで誰にでも分け隔てなく接する優しさを持ち合わせる、実は僕達も仲良くなり連絡先を交換している……これがモテる男なんだろうな。

 遊馬あすまはしきりに『せめて馬鹿であれ』と遠くから念、いや呪いをかけていた事はここだけの話。


あきら、そろそろ私達の出番ですよ。

 準備して下さい」


 僕達にとっての1回戦目が始まる、宇海との試合まで4戦。


 伏見ふしみは握った右手拳を見つめ。

 それまでこの技を自在に操れる様にしておかないと……と思い定めていた。


 ——それから刻々と時間が過ぎ去っていき、本日の訓練終盤に差し掛かった午後4時。


「えーと次が関東高校6組と近畿高校1組やな、さぁ準備しー」

(ついにこの2組が相見えるってわけか、さぁ宇多うたちゃん、宇海うみ君はどう戦うんやろなぁ)



 今試合開始の合図が鳴り響く。

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