第26話 休暇

 6月14日今日は陰陽道の計らいで観光などの時間を設けてもらった休息日である。


 ——昼の12時14分

 プルルルル……ガチャ『はいはい天城あまぎでーす』

 僕は天城あまぎさんに電話をかける、何故か?

 それはその様な契約を交わしているからだ、陰陽道が管理する敷地外に出る場合は天城あまぎさんの許可と、例外を除いて小野目おのめ先生の同行が条件だからだ。


『分かった、じゃあ小野目おのめちゃんをそっちに送るよ、僕の能力ですぐ送れるから伏見ふしみ君はもう友達と行動しちゃって良いよ。

 小野目おのめちゃんには影で見守ってもらう様にするね』


「ありがとうございます」


『その代わり、19時にはホテルに帰るんだよ』


 19時までなら色んな所を回れそうだ。


『じゃあ楽しんでおいで〜、それと僕のオススメはブラックバスバーガーかなぁ〜食べてみるといいよー』

 そう言ってプツッと電話が切れる。


あきらー準備出来たかー? 宇多姫うたひめ達待ってるぞー」


「うん、今行くよ」

 今日は皆んなで嫌な事は忘れて楽しもう……。



 ——同時刻関東本部


「本部長、誰から電話ですか?」


「うん、ちょと生徒からの相談」

 天城あまぎの側近のポジションにいる田生たなまですら伏見ふしみのことは知らされてはいなかった。


「それよりも、田生たなま君……今日生徒達皆んな休息日なんだってー


「はぁ……そうなんですか」

 天城のこの発言に田生たなまは嫌な予感しかしなかった。


「だからね、僕らも今日20時位に呑みに行こーよー! ねぇいいでしょー、まさか1日で鬼喰おにぐいの件が解決すると思ってなかったからさ、しょーじき暇なのー」( ´Д`)


 天城あまぎが駄々をこねたら、もう手がつけられ為、田生たなまは最近になって抵抗する事を諦めていた。

「分かりました……じゃあお店はいつもの居酒屋【酔どれ屋】で良いですね。

 予約しますので人数はどうしますか?」


「えっとねー」( ̄▽ ̄)




 ——同日20時05分居酒屋【酔どれ屋】


「いやーいいね皆んな来てくれてありがとねー」( ˊ̱˂˃ˋ̱ )


「全く、天城あまぎあんたに無理やり連れてこられただけなんだがな、皆んなもそんな感じだろ」


 個室の中で顔を合わせるのは、小野目おのめ北原きたはら東山とうやま信条しんじょう田生たなま天城あまぎそして、下国しもくに本部長であった。


「じゃ皆んな飲み物きたね〜、えっと……お疲れ!」٩( 'ω' )و

 何か語ろうとしていた素振りを見せたのだが、右手に持つジョッキの中に注がれている黄金色の誘惑に耐えきれず労いの言葉を吹っ飛ばし乾杯をするのであった。


 ゴクゴクと喉を通る音、夏場に呑む冷えたビールは依存性が高く手が止まらないものである。


「ひぃゃ〜生き返る〜」(*´ω`*)


 それに対し下国しもくにが即座に突っ込みを返す。

「ジジィかあんたは」


「もぅ僕は女だよー、それともぅ料理も頼むね……えっと、枝豆、塩辛、酒盗、ししゃも、本日の魚の煮付け……」


「ジジィの頼み方だな」


「それといつもある?」


「はい! イナリの皮だけを10枚ですね、ご用意してあります」

 この時、小野目おのめ下国しもくには思う、本当に狐っておいなりさん好きなんだな……っと。

 側近である田生たなまはこれはもう当然の様に振舞っていた。


「ほら、ジジィだけでなく若い者も頼みな、なんでもいいから」


 すると小野目おのめがそっと、北原きたはら東山とうやまにメニューを渡す。

「すみません……じゃあ、アボカドのサラダ、ポテトフライ、鶏の唐揚げ」


 天城あまぎ下国しもくには気にしてはいなかったが信条しんじょう田生たなまは、若い……っと思ってしまう自分にそういう歳になってしまったんだなと、少し心が哀しくなっていた。

 だが1人そんな事は気にしてはいなく、感情を押し殺している者がいた……2人共もち肌の様にスベスベした白い肌、艶のある黒髪を束ね目に留まるうなじ、幼さがまだ残る顏……そう、小野目おのめにとって大好物の素体であった。

 小野目おのめは体は抑えているが、心の中では今にも抱きつきたい一心を抱え2人を見続けていた。



 そして料理を頼み終えると、申し訳なさそうに信条しんじょう天城あまぎに疑問をぶつける。

「自分なんか普通に呑んでますけど場違い感半端ないんでよね……」


「まーまー、そっちでのうちの生徒のことも聞きたかったし……まぁ素直に言うと小野目おのめちゃん迎に行った時丁度いたから……ついでに」


「ついで……ですか、まぁ本部長が2人居る呑み会なんてそうそう無いんで嬉しく思ってますが」


「そうだそうだ! 呑め呑め」٩( ᐛ )و


 そして呑み会が始まり1時間が過ぎ……。


「うぃ……」

 田生たなまが少し遠い目をし、鍛えられた大きな背中が丸まり小さくなる。


「もぅー田生たなま君は本当にお酒弱いな〜、ゆきちゃんを見習いなさいよー。

 もぅ1人で日本酒8合開けてるんだよー」


「うぃ……下国しもくに本部長には申し訳ありませんがそれは異常です……」


「確かに私と呑む隊員は全員潰れていたな……」


「うん、そうだよねー今の若いのは、弱すぎ! お酒2升位僕らには当然なのにね〜」


 この会話に周りは苦笑いしか出来なかった。

 下国しもくに天城あまぎの目の前にあるお酒がまるで水かの様な勢いで無くなっていく。


「それにしても、今回は小野目おのめちゃんよくやってくれましたよ。

 君達のお陰でこんなにも早く任務が遂行出来ました! お手柄だね」(o^^o)


「有り難う御座います、でもこれはこの子達が私に付いて来てくれたから出来た事です」


 北原きたはら東山とうやま小野目おのめは顏を向け、微笑みかける。


 2人は嬉しさで顏を赤め、「あっ有り難う御座います!」と店内に響く声量で応える、個室の中とはいえ、店内に響くほどの有り難う御座います、は他のお客さんの会話をピタッと止めさせ数秒の間無音の空間となっていた。

 先程より2人の顏は耳まで赤く染まっていた。


「……そういえば2人は何歳になった?」


「あっはい私は19です、今年の8月で20になります」


「私も北原きたはらと同じ19です、偶然なのですが私も8月で20になります」


 手に持つグラスには可愛らしくオレンジジュースが注がれている。


「若いね〜、……そういえば後2人の西野にしのちゃんと、南川ながわちゃんは今日どうしたの?」(´・ω・`)


「あの子達は明日東北本部に出張で今日中にやらないといけない仕事があるらしく……」


「……そういえばそーだったねー、いっけねー忘れてた」♪(´ε` )


「うぃ……本部長後で説教で……す……」..zzzZZ


「あや、田生たなまさん力尽きてしまいましたわ……」


 それから呑み続ける事2時間……。


 田生たなまはいびきをかきながら爆睡中。


 下国しもくにはひたすら呑みまくり1人で日本酒四升突破……途中からお猪口で呑むのが面倒になったのかジョッキに注ぎ呑んでいた。


 信条しんじょうはうつむきながらぶつぶつ「ほんま……なんなんやろなー」と繰り返し呟きながらテーブルに額をドンッドンッと自傷行為をしながら遠い目をしていた


 そして小野目おのめはテーブルをバンバン! と叩きながら泣きじゃくっていた。

 小野目おのめは酔うと泣き上戸となりめんどくさい人種へと変貌を遂げる。


 その小野目おのめを見ながら天城あまぎは爆笑しながらお酒を水の様に呑んでいた。


 そんな個性の強い大人に囲まれた未成年2人は黙る事しか出来ず、子鹿の様に震えていた……。


 これが俗に言う地獄絵図じごくえずと言っても過言ではないだろう。


「だがら、もぅ嫌なんでずぅ」


「どしたのー小野目おのめちゃ〜ん」

 流石の天城あまぎも3時間以上呑み続け理性は吹っ飛んでいた。


「ぐすっ……最近また、昔死んだ仲間が鬼になってわだしの前に敵としてあらわれだんでず

 それをわだしは、わだしは……あぁぁぁ……」


「まぁねーこの仕事してたらよーくあることよ、上司、後輩、部下、同期、死んでいった者が鬼にならないほしょーはないからね〜」


「うぐっ……なのでぇ信条しんじょうしゃん、明日わだしもそちらに行ってもいいでしゅか?」


「なんや、いきなりなんや! 別もぅどーでもいいけど、来たきゃきー」


「いいでしゅか? 天城あまぎほんぶちょー」


「ええで!」( ̄▽ ̄)


「なぁーんで関西弁なっとるんですかー」


 3時間過ぎた頃になって3人共テンションが未だ上がる一方

 北原きたはら東山とうやまの心の中では【帰りたい】の思いが強く強くなっていくのであった……






 ——6月15日真夜中1時15分滋賀県大津駅


 深夜となり、電車は動いておらず人の気配が全くない駅の前に一台のワゴン車が止まっていた。


「いやー御殿場ごてんば殿、滋賀まで運転お疲れ様でした」


 車の中には大柄の男、リライブ教団の御殿場ごてんば楠那くすなそして、まだあどけなさが残る黒髪でおかっぱのせいか日本人形の様な少女が1人……。


伊豆いず殿、体の調子だどうだろうか?」


「好調、至急、任務、遂行」


「まぁーそんな焦らず待って下さい」


「了解、待機、一時、睡眠」


 そう言うと伊豆いずと呼ばれる少女はこくんっと楠那くすなに寄りかかりスースーと寝息を立てる。


伊豆いず寝るのはえ〜な、それにしてもあーあ雨降って来ましたね〜嫌ですね今日は止まないみたいですよ」




「良いではないですか御殿場ごてんば殿、雨は涙の象徴、陰陽道に裏切り、恐怖、そして死……色んな涙を見せていただきましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る